Disc Review

Dirt Does Dylan / Nitty Gritty Dirt Band (NGDB Records)

ダート・ダズ・ディラン/ニッティ・グリッティ・ダート・バンド

一昨年の暮れくらいに、ジェリー・ジェフ・ウォーカーのアンソロジーを紹介したときにも書いたことなのだけれど。

ぼくは今60代半ばで。この世代の日本の洋楽ファンにとって、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドというのは、ほんと、特別な存在なのだ。少なくともぼくにとってこの人たちは恩人というか。

ニッティ・グリッティの場合、もちろんメンバーが書き下ろしたオリジナル曲も演奏するのだけれど。それだけでなく、トラディショナルなフォークとか、ブルーグラスとか、カントリーとか、ロックンロールとか、コンテンポラリーなシンガー・ソングライターものとか、そういう楽曲群を実に的確に、分け隔てなくカヴァーしまくってくれていて。彼らのアルバムに収められていたカヴァー・ヴァージョンを通じてその存在を知ったり最注目させられたりしたアーティストはそれこそ数限りない。

「ミスター・ボージャングルス」のジェリー・ジェフ・ウォーカーを筆頭に、「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」のジャクソン・ブラウン、「サム・オブ・シェリーズ・ブルース」のマイケル・ネスミス、「プー横町の家(House at Pooh Corner)」のロギンス&メッシーナ、「リヴィン・ウィズアウト・ユー」のランディ・ニューマン、「ドゥ・ユー・フィール・イット・トゥー」のポコ、「コズミック・カウボーイ」のマイケル・マーティン・マーフィー、「レイヴ・オン」のバディ・ホリー、「マイ・トゥルー・ストーリー」のジャイヴ・ファイヴ、「グッド・ナイト・マイ・ラヴ(プレザント・ドリーム)」のジェシ・ベルヴィン、「ダウン・イン・テキサス」のオスカー・トニー・ジュニア、「ロック・ミー・ベイビー」のB.B.キング、「キャンディ・マン」のレヴァランド・ゲイリー・デイヴィス、「永遠の絆(Will the Circle be Unbroken)」のカーター・ファミリー、「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」のアール・スクラッグス、「ジャンバラヤ」のハンク・ウィリアムス…。

きりがない。まじ、恩人。ニッティ・グリッティを起点にカントリーからロックンロールからドゥーワップから、多彩な方向に深掘りさせてもらって。いろいろな未知の音楽に出会った。

と、そんなニッティ・グリッティ・ダート・バンドが、以前も本ブログでちらっと騒がせてもらった通り、ついにボブ・ディランに正対。1枚まるごと、ディラン作品のカヴァーで埋め尽くしたアルバムをリリースしてくれました。題して、『ダート・ダズ・ディラン』。いえーいっ!

あまり詳しい制作経緯とか知らないのだけれど、ニッティ・グリッティの面々は去年のアタマに、ジェイソン・イズベル、スティーヴ・アール、ロザンヌ・キャッシュ、ザ・ウォー&トリーティとの共演で、食糧支援を行う米国のNPO団体“フィーディング・アメリカ”への資金調達のためのチャリティ・シングル「時代は変る(The Times They Are A-Changin’)」をリリースしていて。それを発展させるような形で仕上がった1枚なのかも。

もちろんその「時代は変る」も入っている。この曲同様の超有名どころとしては、「北国の少女(Girl from the North Country)」とか、「フォーエヴァー・ヤング」とか、「くよくよするなよ(Don’t Think Twice, It’s All Right)」とか。でも、そこはニッティ・グリッティ。それだけでは終わらず、「今宵はきみと(Tonight I'll Be Staying Here with You)」とか、「カントリー・パイ」とか、「シー・ビロングス・トゥ・ミー」とか、「悲しみは果てしなく(It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry)」とか、いい感じのところも選曲されているし。さらにはラーキン・ポーが客演した「アイ・シャル・ビー・リリースト」とか、「クイン・ジ・エスキモー(ザ・マイティ・クイーン)」とか、他アーティストのヴァージョンで有名なディラン作品も入っているし。

現在のニッティ・グリッティ・ダート・バンドのラインアップは、ジェフ・ハンナ(ギター)、ジミー・ファデン(ドラム、ハーモニカ)、ボブ・カーペンター(キーボード)、ジェイミー・ハンナ(ギター、パーカッション)、ロス・ホームズ(フィドル、マンドリン)、ジム・フォトグロ(ベース)。1972年に初来日してくれたときのメンバーとしてはもはやジェフ・ハンナとジミー・ファデンしか残っていないけど。この顔ぶれで、そんなに奇をてらったアレンジをほどこしたりはせず、曲調を活かしたオーソドックスなアプローチによるカヴァーを聞かせてくれる。ディランのカヴァー・アルバムの常ではありますが、今回もまたディラン自身の歌唱で聞くとき以上にディランが書く曲の良さを再認識できる1枚かも(笑)。

ちなみに、そんなボブ・ディランのほうとしては、以前ここで取り上げた『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』に続く“ソニー自社一貫生産アナログ・レコード”シリーズ。本日、その続編、『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』(Amazon / Tower)が出ました。「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を含む1965年の大名盤です。今回もカッティング・マスター制作からスタンパー製造、そしてプレスまで、全行程を日本のソニーが自前のシステムでこなした高音質アナログLP仕様。日本盤初リリース時の中村とうようさんのライナーとか、2013年のクリントン・ヘイリンの新ライナーとか、佐藤良明さんの新訳による歌詞対訳とかも付いております。これも完全生産限定ものなので要チェックです。

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