Disc Review

Sacred Soul of North Carolina / Various Artists (Bible & Tire Recording Co.)

セイクレッド・ソウル・オヴ・ノース・カロライナ/Various Artists

もう半世紀以上前、米国のポップ音楽の魅力にハマって。ずいぶんと長いこと聞き続けてきて。異国人リスナーではあれど、だいぶいろいろ本質的な感覚もわかってきたような気分になってはいるのだけれど。でも、聞き続ければ聞き続けるほど、ますますわからなくなってくることも多くて。

たとえば、ゴスペル。

これ、ほんとにむずかしい。何ひとつわからずに手探りで接していた子供のころに比べれば、少なくとも音楽的なフォーマットのようなものに関しては理解が深まっている気はするものの、その根幹というか、まさに根っこの部分に横たわっているのが具体的にどういう感覚なのか…ということになると、これがなんとも異文化圏の人間にはつかみ所がなくてねー。

去年、日本でも公開されたアレサ・フランクリンの『アメイジング・グレイス』のような教会ライヴ映画を見れば、そりゃもう、思いきり興奮するわけですが。かといって、特に宗教観を共にしているわけでもなく、生活環境も社会的状況もまるで違う中で暮らしているぼくのような日本人リスナーが、心底、その真価を感知して感動できているのかと言えば、これがもうなんとも言えないというか…。

まあ、どこまで突き詰めても答えの出ない問題だろうから、あまり突っ込まず、ぼんやり興奮してればいいような気もしますが(笑)。でも、信仰が絡むことだけに、それはそれで先方にひどく失礼な気もしなくはないし。いやー、ほんと、ゴスペルはむずかしいです。

と、そんなことを思いながらも、年末年始、いろいろなゴスペル・コンピレーションを、またまた無責任に堪能させてもらっちゃいましたよ。

去年の半ばに出た盤ではあるものの、メンフィス周辺のDJとしても有名だったフアン・D・シップ牧師関連の、グルーヴィかつファンキーなローカル・ゴスペルを集めた『ザ・ラスト・シャル・ビー・ファースト〜ザ・JCRレコード・ストーリー』の第2弾(Amazon / Tower、第1弾は一昨年にリリースずみ)とか、こちらは今年に入ってから出たDヴァイン・レコード(同じくフアン・D師絡み)のアンソロジー『ザ・Dヴァイン・スピリチュアルズ・レコード・ストーリー』のVol.1(Amazon / Tower)とVol.2(Amazon / Tower)とか。

で、もうひとつが、今朝ピックアップした本作。これもちょっと前、去年の10月ごろに編まれた1枚で。こちらはノース・カロライナもの。同州の州都ラーリーから1時間ほど離れたところに位置する同州東部の小さな町、ファウンテンで、地元の多彩なゴスペル・アーティストたちによって録音された18曲が収められている。

前述したJCRレコードものとか、Dヴァイン・レコードものは1970年代の音源集だったけれど、こちらは“今”の音というのがポイント。世界がロックダウンに本格突入する少しだけ前、2020年2月にプロデューサーのブルース・ワトソンとティム・ダフィーが築100年ほどの古い店舗を間に合わせのスタジオに改装し、そこに11のグループを集めて8日間連続でマラソン・レコーディングしたものだとか。

ゴスペルも時代ごとに貪欲に最新のグルーヴなりサウンドなりを取り入れながら生き続けていて。だから、メタル系のゴスペルがあったり、ヒップホップ系のものがあったり、ファンク系のものがあったり、今や何でもありなわけだけれど。歴史的にも、植民地問題とか南北戦争とか人種問題とかなかなかに複雑な歩みをたどったノース・カロライナには、しかしそれゆえか、今なお昔ながらのゴスペルの伝統がしぶとく、いきいき根付いているらしく。そうした躍動がこの1枚に凝縮されている感じだ。

ジュビリー系のコール&レスポンスを基調にしたものが中心ではあるけれど。アルバムのオープニングを飾るザ・デディケイテッド・メン・オヴ・ザイオンの2曲はどファンキーなブルース。中盤に収められたビッグ・ジェイムス&ザ・ゴールデン・ジュビリーズの「ユーズ・ミー・ロード」って曲とかは強烈にハードな歌声をスムーズなR&Bサウンドを包み込んだ仕上がり。終盤のマーヴィン・アール“ブラインド・ブッチ”コックスの「ノー・ウェイズ・タイアド」はエレクトリック・ピアノの弾き語り。様々なアレンジも楽しめてうれしい。

けど、結局いちばん耳に残るのは、バスドラとハイハットだけをバックに赤裸々なコール&レスポンスを聞かせるザ・グロリファイング・ヴァインズ・シスターズの「テル・イット・オール・トゥ・ジーザス」とか、フェイス&ハーモニーの「ヴィクトリー」とか、ビショップ・アルバート・ハリソン&ザ・ゴスペル・トーンズの「スタンド・アップ」とか、アカペラ・コーラスもの。

ラストを締めるメロディ・ハーパーって人の「アメイジング・グレイス」は無伴奏独唱で。これとか、もう必殺。やっぱ人間の歌声を超える楽器はない、と。またまた思い知る2022年なのでありました。

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