Disc Review

Dorothy Chandler Pavilion 1971 + Royce Hall 1971 + Citizen Kane Jr. Blues 1974 (Live at The Bottom Line) / Neil Young (Shakey Pictures Records/Reprise Records)

ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン1971+ロイス・ホール1971+シティズン・ケイン・ジュニア・ブルース1974/ニール・ヤング

去年の10月に出た『カーネギー・ホール1970』を皮切りにスタートしたニール・ヤングの“オフィシャル・ブートレッグ”シリーズ。過去、あまた出ているニールさんの海賊盤の中から代表的なものをピックアップしたうえで、その音質を最新技術できっちりアップグレードしてリリースしよう、というシリーズだけれど。

以前、本ブログで通し番号“OBS (= Official Bootleg Series) 1”にあたる『カーネギー…』を取り上げたときも書いたように、このシリーズでは以降、1971年1月のUCLA公演、同年2月のロサンゼルス公演、1973年11月のロンドン公演、1974年5月のニューヨーク公演、1977年8月のサンタ・クルス公演などが出ることになっていて。

そのうちの3つがこのほどまとめてリリースされました。通し番号的にはちょっと順序が入れ替わっているのだけれど。“OBS 3”として出たのが1971年のソロ・アコースティック・ツアーのUS最終日にあたる同年2月1日に、ロサンゼルスの3000人収容の会場で収録された『ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン1971』。“OBS 4”がその2日前、同年1月30日にUCLAのキャンパス内の1800人収容の会場で録音された『ロイス・ホール1971』。で、“OBS5”が時期的にはちょっと後になって、1974年5月16日、今はなきニューヨークの400人収容の名門クラブ、ザ・ボトム・ラインで収録された『シティズン・ケイン・ジュニア・ブルース』。

1971年の2作は、2007年に発掘リリースされた『ライヴ・アット・マッセイ・ホール1971』や、去年の3月に出た『ヤング・シェイクスピア』が収録されたのと同じ、“ジャーニー・スルー・ザ・パスト・ソロ・ツアー”からのパフォーマンスだ。

アルバムで言うと1970年9月リリースのサード・アルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の後。ということで、『…マッセイ・ホール』や『ヤング・シェイクスピア』同様、『アフター…』収録の「テル・ミー・ホワイ」「ブリング・ユー・ダウン(Don't Let It Bring You Down)」をはじめ、それ以前のソロ作品、「カウガール・イン・ザ・サンド」「シュガー・マウンテン」などが披露されているわけだけれど。

加えて、翌年にリリースされるアルバム『ハーヴェスト』、1973年の『時は消え去りて(Time Fades Away)』、1974年の『渚にて(On the Beach)』などの収録曲もすでに歌われている。もちろんバッファロー・スプリングフィールド時代のレパートリー「オン・ザ・ウェイ・ホーム」「アイ・アム・ア・チャイルド」や、CSNY名義で出た「オハイオ」とかも。どちらもオリジナル・マルチ・トラック・テープからの最新ミックス。これまで世に流通していたブートレッグとは違うクリアな音質で楽しめる。

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なんだけど。

今回の3作中、いちばんインパクトが強かったのは、1974年のボトムライン公演を収めた『シティズン・ケイン・ジュニア・ブルース』だ。この日、ニール・ヤングはライ・クーダーのボトムライン公演へのサプライズ・ゲストという形で登場したらしく。すでに大スターで、ホール・ツアー以上が当たり前だったニールさんの、この時期にしちゃ珍しい小規模クラブ・ギグが存分に楽しめる。

ただ、サプライズ公演だっただけに、ちゃんと正規のレコーディングは行なわれておらず。サウンドボード音源もなし。ということで、このリリースに関しては元々のブートレッグ盤同様、客席からカセット・テレコで録音されたいわゆるオーディエンス音源が使われている。最新技術でかなりいい音質まで引き上げられてはいるものの、客の咳払いとか、椅子を引きずる音とか、そういうのも飛び込んできて。そのつど、初期カセット・テレコならではのリミッターがかかって、演奏が急に遠のいたり(笑)。

ハイファイ的には完全アウトだけど。この臨場感を満喫するのも悪くない。何よりも選曲がごきげん。まずオープニング、この年の夏のCSNY再結成ツアーで披露されることになる「プッシュド・イット・オーヴァー・ジ・エンド」でステージがスタート。この段階でニールさんはこの曲を「シティズン・ケイン・ジュニア・ブルース」と紹介しているので、このアルバム・タイトルが付いた。

録音時期から言って最新アルバムは『ハーヴェスト』なのに、そこからは1曲も演奏されていないところがニール・ヤングらしい。その代わり、2カ月後にリリースされる最新作『渚にて』から「アムビュランス・ブルース」「モーション・ピクチュア」「渚にて」「レヴォリューション・ブルース」が歌われる。1975年リリースのアルバム『今宵その夜(Tonight's the Night)』から「ロール・アナザー・ナンバー」、同年の『ズマ』から「パードン・マイ・ハート」も。さらに、おなじみの英国民謡「グリーンスリーヴス」、CSNY名義でのレパートリー「ヘルプレス」、クレイジー・ホースが歌っていた「ダンス、ダンス、ダンス」。

そして、個人的にいちばん印象的だったのが、1976年、ザ・スティルス=ヤング・バンド名義でリリースされるアルバム『太陽への旅路(Long May You Run)』で世に出ることになるそのアルバム・タイトル・チューンがここで弾き語りされていることだ。ご存じの通り、ちょっと前の1960年代に眼差しを送りながら綴られた名曲。小さな会場ってこともあって、ニールさんはMCも含めてものすごく観客と親密な感じでやりとりしているのだけれど。

「この曲は車についてのものなんだ」とか「最近、飛行機移動がいやになってでかいバスを買ったんだ」とか、いろいろ前置きして歌い出すもんで、サビの“Long may you run”つまり“君が長く走って行けますように…”という歌詞のところで笑いが起こったりも。実は笑いはそのあと、この曲の3番でビーチ・ボーイズのことが歌われるとき、さらに大きく沸き起こる。

“きっと今ごろ君はビーチ・ボーイズに夢中になっているのかな/「キャロライン」と歌う波に乗って/誰もいない海辺の道を走りながら/時の波に間に合うように、と…”って個所。客席からは苦笑ぎみの笑いが何度も起こったりして。まあ、ニール・ヤングは『過去への旅路(Journey Through the Past)』の中に『ペット・サウンズ』からの曲を起用したりしているくらいで、ビーチ・ボーイズに対して悪気はないのだろうけど。お客さんのほうが、ね。1974年、まあ、人気がどん底だった時期のビーチ・ボーイズの扱われ方というか、とらえられ方というか、そういうものを改めて思い知って、複雑な気分になったのでありました。

でも、そんなこともすべて含めて、ものすごく味わい深いブート音源。「アムビュランス・ブルース」の切なさも100倍増しです。

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