Disc Review

Polaroid Lovers / Sarah Jarosz (Concord)

ポラロイド・ラヴァーズ/サラ・ジャローズ

今週に入ってから女性シンガー・ソングライターの新作ばかり取り上げている本ブログですが。最近のその種のリリースの中ではこれが真打ちって感じかも。

サラ・ジャローズ。

なんか、ここにきてストリーミング系でのカタカナ表記が一気に“サラ・ジェローズ”になったりもしていて。これからそっちに統一されていくのかもしれないけど。まだなんだか違和感があるので、ここでは今のところ変わらず“ジャローズ”って表記します。

ソロ名義でのスタジオ・アルバム7作目。イーファ・オドノヴァンとサラ・ワトキンスという素敵なおねーさま方ふたりと組んだアイム・ウィズ・ハーでの“頼もしい妹分”的な佇まいとか、クリス・シーリーの『ライヴ・フロム・ヒア』での超絶セッション・ワークとか、マルチ弦楽器プレイヤーとしての存在感でアメリカーナ系音楽のファンをうならせ、若くしてグラミーをいくつも獲得してきたジャローズさんではありますが。彼女も30歳代に入って自ら魅力的なおねーさまとなり。プレイヤーとしてだけでなく、ソングライターとしても、シンガーとしても、ぐっと成長したみたい。

なんでもパンデミックの後、他の音楽家たちとのコラボレーションに飢えていたとかで、本作ではダニエル・タシアンをはじめジョン・ランドール、サラ・バクストン、ナタリー・ヘンビー、クリステン・ケリー、ゴーディ・サンプソンら多彩なソングライティング・パートナーたちと共作したり、共同プロデュースしたり。それも功を奏している感じ

2020年の『ワールド・オン・ザ・グラウンド』も2021年の『ブルー・ヘロン・スイート』も内向的で穏やかなアルバムだったけれど、今回は、特にアルバム前半、これまで以上にキャッチーな作りというか、外向きのカントリー/フォーク・ロック・アルバムに仕上っているのは彼女のそうした開かれた姿勢ゆえだろう。ジャローズ、本気だな…と、意欲ががんがんに伝わってくる。

アルバム・タイトルは2曲目に収められている「ホエン・ザ・ライツ・ゴー・アウト」で歌われる“夢の中、私たちはポラロイドの恋人だった”というフレーズから採られているのだけれど。それに続く“奥深く、余白が嘘をつかないところ/ふたり、互いの中に消えていく”という、なんというか、こう、ポラロイドの画像が浮かび上がるのか消えていくのか、その微妙なポイントにふたりの揺れる関係性を重ねたなんとも複雑な描写がじわりと沁みる。この感触、ダニエル・タシアンの助けを借りつつ開花したジャローズの新境地かも。

というわけで、サウンド的には前述したような開かれた感じで、華やかな彩りに満ちた曲も多いのだけれど。でもやっぱり、ぼくのような年寄りリスナーとしては、アコースティック・ギターの淡々としたフィンガー・ピッキングに乗せて、今拠点にしているナッシュヴィルからかつて暮らしていたニューヨークの街を追想するノスタルジックな「コロンバス&89th」とか、軽くジャジーにスウィングする「デイズ・キャン・ターン・アラウンド」とか、奥行きのあるアンサンブルに包まれながらラストを的確に締めくくる「メスカル・アンド・ライム」とか、そっち方面により深く心打たれるわけですが。

いずれにせよ素晴らしい飛翔ぶりを思い知らせてくれた新作アルバム。長い付き合いができそうな1枚をありがとう。

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