イン・マイ・オウン・ドリーム:50周年記念エディション/カレン・ダルトン
“その店(1961年ごろの《カフェ・ホワッ?》)でいちばん好きなシンガーはカレン・ダルトンだった”
と、綴ったのはボブ・ディランだ。例の『ボブ・ディラン自伝』(2004年)のオープニング近くにそう記されていた。
“彼女は背の高い白人のブルース・シンガーで、ギター・プレイヤーでもあった。ファンキーで、すらりとしていて、官能的だった。実はそれ以前にも、彼女とは会っていた。前年の夏、デンヴァー郊外の山間の町のフォーク・クラブでのことだ。カレンはビリー・ホリデイのような歌声を持ち、ジミー・リードのようなギターを弾き、そういうスタイルで活動していた。何度か彼女と歌ったこともある”
そんなカレン・ダルトンが1971年にリリースしたセカンド・アルバム『イン・マイ・オウン・タイム』の発売50周年をちょっと遅れて祝うデラックス・エディションがリリースされた。これはうれしい。めでたい。
ニック・ヴェネーのプロデュースのもと、キャピトル・レコードから1969年にリリースされたファースト『イッツ・ソー・ハード・トゥ・テル・フーズ・ゴーイング・トゥ・ラヴ・ユー・ザ・ベスト』はぐっとアシッド・フォーク寄りの1枚だったけれど。そこにも参加していたベーシスト、ハーヴィー・ブルックスのプロデュースのもと、ウッドストックのベアズヴィル・スタジオで制作されたのが本セカンド・アルバムだ。エイモス・ギャレット(ギター)、ジョン・ホール(ギター)、ケン・ピアソン(オルガン)、ジョン・サイモン(ピアノ)、リチャード・ベル(ピアノ)、ビル・キース(ペダル・スティール)、デニー・シーウェル(ドラム)、デニス・ホイッテッド(ドラム)らが参加。曲によってホーン・セクションやストリングスも加わって、フォーク、カントリー、ブルース、R&Bなど、ぐっと魅力的に音楽性の幅が広がった。
さらに、ライナーをフレッド・ニールが書いて、ジャケット写真をエリオット・ランディが撮って…みたいな。もう完璧な1枚で。
収録曲も素晴らしい。チェット・パワーズ/ディノ ・ヴァレンティ作の「サムシング・オン・ユア・マインド」、パーシー・スレッジでおなじみ「男が女を愛する時(When a Man Loves a Woman)」、バタフィールド・ブルース・バンドの「イン・マイ・オウン・ドリーム」、初期からよく歌っていたというトラディショナル「ケイティ・クルエル」、マーヴィン・ゲイの「ハウ・スウィート・イット・イズ」、ザ・バンドの「イン・ア・ステイション」、ジョージ・ジョーンズの「テイク・ミー」、やはりトラディショナルの「セイム・オールド・マン」、ジョー・テイト作の「ワン・ナイト・オヴ・ラヴ」、そしてやがて結婚することになるリチャード・タッカーの「アー・ユー・リーヴィング・フォー・ザ・カントリー」。多彩なタイプの楽曲をすべて、ユニークな彼女ならではの歌声で染め上げて。
ぼくが本作を手に入れたのは、オリジナル・リリースから数年遅れ、もう1974年くらいになっていたと思うけれど。「テイク・ミー」とか「イン・ア・ステイション」とか、もう好きすぎて、アルバムB面を何度も何度も聞きまくったものだ。21世紀に入ってから、米ライト・イン・ジ・アティック・レコードがCD化。デジタル・リリースあるいは一部7インチEPとして世に出ていた別テイクおよびテープ逆回転ヴァージョン計4トラックをボーナス追加したエクスパンデッド・エディションも2006年に編まれファンを喜ばせてくれたものだけれど。今回、それがさらなるデラックス・エディション化。
今回は全19トラック。1曲目から10曲目までがオリジナル・アルバム収録曲の最新リマスター・ヴァージョン。11曲目から13曲目までが2006年の拡張エディションにも収められていた別テイク群。テープ逆回転ものは今回入ってません(笑)。14曲目と15曲目が1971年4月、ドイツで『ビート・クラブ』に出演した際の放送音源。以降、19曲目までが同年5月、モントルー・ゴールデン・ローズ・ポップ・フェス出演時のライヴ音源。ブックレットには新発掘された貴重な写真、レニー・ケイによるライナーノーツ、ニック・ケイヴとデヴェンドラ・バンハートによる原稿などを掲載。カセット、8トラック、アナログ3枚組など様々なフォーマットでリリースされている。LP×2+片面エッチングの12インチEP×1+7インチ×2+CD×1という強力なスーパー・デラックス・エディションもあるようだけれど、もう売り切れちゃってるのかな。ぼくも出遅れ組なので入手、むずかしいかも…。
正直、1971年当時には十分な受け皿がなかったようにも思えた彼女の音楽性も、今の時代ならばきっと誰からも愛されるはず。カレン・ダルトンは1993年、55歳という若さでなくなってしまったのだけれど、彼女の音楽はこうして世紀を超えて、さらなる広がりとともにシーンに息づき続けているということ。それを思うと、やっぱ音楽ってすごいな、と。改めて心が震えます。