Disc Review

Gone, Long Gone / Steve Dawson (Black Hen Music)

ゴーン、ロング・ゴーン/スティーヴ・ドーソン

スティーヴ・ドーソンというと、英ヘヴィメタル・バンド、サクソンの元ベーシストを思い出す人が多いかも。あるいは元ドリー・ヴァーデン、米シカゴのシンガー・ソングライターさんとか。ジェイムス・テイラーほどじゃないけど、いろいろ同姓同名のミュージシャンがいてややこしい。

で、こちらのスティーヴ・ドーソン。本日の主役は、カナダのバンクーバー出身のルーツ・ロック系アーティスト/ギタリスト/ペダル・スティール奏者/ソングライター/プロデューサー/エンジニアであるドーソンさんだ。ズボット&ドーソンの一員として1998年にアルバム・デビューしてからもう20年以上。ソロ・アルバムはもちろん、プロデューサーとして、ミュージシャンとして関わったアルバムはすでに200作超。うち7作がカナダのグラミーことジュノ・アワードに輝いている。

2013年にバンクーバーから米テネシー州ナッシュヴィルへと自らのスタジオ“ザ・ヘンハウス”を移転。現在はそちらを拠点に活躍中だ。と、そんな、“英”でもない“米”でもない“加”のドーソンさんによる新作ソロ。歌ものインストもの取り混ぜて、ソロ名義では9作目かな。ノスタルジックさとアヴァンギャルドさが交錯する弦楽カルテットとのアンサンブルが新鮮だった2018年のインスト・アルバム『ラッキー・ハンド』以来。歌もの中心の盤としては2016年の『ソリッド・ステイツ・アンド・ルーズ・エンズ』以来、6年ぶりということになる。

なんでも彼は新型コロナ禍の2020年、自身のスタジオにこもってアルバム3枚分のレコーディングを行なったのだとか。そのすべてが2022年中にリリースされる予定らしいのだけれど。その第1弾ということみたい。全10曲中2曲がドーソンの単独名義作品。7曲がマット・パターシュクとの共作曲。ドーソンが誰かと共作しているのはこれまでなかった気がする。新たなチャレンジという感じ。で、残る1曲が、なんとフェイセズの「ウー・ラ・ラ」のカヴァーだ。

どの曲もごきげんにブルージーで、ファンキーで、生々しい。ホーン・セクションがソウルフルなグルーヴを提供するオープニング・チューン「ダイムズ」、ハワイの偉大なキング・ベニー・ナワヒに捧げられたブルージーな「キング・ベニー・ハッド・ヒズ・シット・トゥゲザー」、前インスト作の流れを汲んだようなストリングスとペダル・スティールが心地よく絡み合うアルバム表題曲「ゴーン、ロング・ゴーン」、多彩なスティール/スライドわざをしっとり味わえる「クラニアピア・ワルツ」、アコースティック・ギター1本で奏でられるインスト「シカダ・サンクチュアリー」…。

今回もライ・クーダーとか、ジョン・ハイアットとか、コリン・リンデンとか、ジョン・フェイヒーとか好きな人にはたまらない1枚だ。ちなみにドーソンさん、バーズ・オヴ・シカゴもギターやペダル・スティールでバックアップしたりしてきたけれど、そんな縁もあってか、アリソン・ラッセルが4曲にゲスト参加して絶品のバック・ヴォーカルを聞かせている。うれしい。

4月からは、アルバムのバックアップもしているカナダのジャズ系ピアニスト、クリス・ゲストリンや、ベースのジェレミー・ホームズに、ドラマー/パーカッショニストとしてホアキム・クーダーを加えたバンドを従えて最新ツアーにも乗り出す予定。これは見たいなぁ。海外アーティストの来日が普通に実現する日々が一刻も早く戻ってきてほしいものです。

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