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Disc Review

SMiLE / Brian Wilson (Nonesuch)

スマイル/ブライアン・ウィルソン

『SMiLE』なのに。『SMiLE』がとうとう出たのに…。

なんだろう。ぼくも含めて、もう超熱狂的に受け止めながら放心状態の人もいるし。しかし一方では、ぼくの周囲の人間とか、ネットの書き込みとか、メールでいただいた意見とか眺めていると、中にはものすごく冷めているというか、なんとも思っていないというか、あげく駄作だとまで言い出す人がいたりして。ほんと、様々だなぁ、と(笑)。思い知りますよ。人それぞれってことを。面白いものです。

今回、ブライアン・ウィルソンがソロ名義でついに完成させた『SMiLE』に関するぼくの感想は、間もなくリリースされる国内盤のライナーとか、来月号のレコード・コレクターズ誌とかに書かせてもらったのでそちらを参照していただきたいです。このアルバムで初めて『SMiLE』というものに接する人がどう感じるかとか、ブート盤をいっさい聞いたことがない人が、あるいはビーチ・ボーイズのボックス・セットを聞いたことがない人がどう感じるかとか、ぼくにはさっぱり想像もできないし、もともと想像する気もないけれど。家計を揺るがす飽くなきブート三昧を繰り返し、ボックス・セットやCDのボーナス・トラックで世に出たオリジナル『SMiLE』の残骸を聞き漁っては、その完成図に長年思いを馳せ続けてきた者として、今回のブライアンによるスタジオ版『SMiLE』、ひとこと、もうこの上ない贈り物です。大傑作です。99年以降、ブライアンをバックアップし続けている素晴らしいバンドによる初のスタジオ・フル・アルバムという点でも、注目すべき1枚だし。

まあ、ロックを含むポップ・ミュージックに常に“新しい”何かを求める、短絡的な音楽ジャーナリズムのもとでは、確かに『SMiLE』はあまり意味のないアルバムなのかも。ここには社会背景とか、時代の最先端の空気とか、そういったものとのリンクは何ひとつないのだから。もちろん深く深く聞き込んでいけば、ベトナム戦争があり、公民権運動が巻き起こっていた60年代後半ならではの発想(たぶんヴァン・ダイクの…ね)もしっかり根底には聞き取れて。今また9.11以降の混乱したご時世にこれが復活するというドラマに、何かを感じ取ることもできなくはないのだけれど。それにしても、なにせ、37年前に出る予定だった音楽だし。基本的なアレンジなりアンサンブルは当時と何ひとつ変わってないし。録音方法やスタジオまで、当時に準じたようだし。でも、ぼくは“新しさがないといけない”みたいな、ワケのわからない基準はあいにく持ち合わせていないタイプのポップス・ファンなもんで。問題なし。むしろ、37年の歳月を経ても色あせない音楽を、すでに60年代に作り上げようとしていたブライアンの底力を再認識するばかりだ。

以前もこのホームページで書いたことがあるのだけれど。1999年にブライアンが初来日してくれたとき、“新曲が少ない。ダメだ。現役じゃない”みたいな、ずいぶんと短絡的なことを書いてた知ったかぶり評論家もいた。わかっちゃいねーなと思った。ほんと、人それぞれというか。どんなに昔に作られた曲だろうと、もしそれが現代にきっちり有機的に機能しているのならば、それは現役の音楽だろ。まあ、この辺の話に深く分け入っていくと、これまで書いてきたこととの重複が多くなるので、自粛しますが。ぼくはそう思うのだ。確信している。とにかく、こんなふうに、37年かけて完成するポップ・ミュージックだってあるのだ。大滝師匠のファンとか、達郎さんのファンとか、あるいはボストンのファンとか(笑)、長年待たされることに慣れているといっても、これほどじゃない。

そして、もしかしたらこの37年という歳月は、ポップスの神様が、ぼくたち受け手側の成熟を待つために課した必要不可欠なブランクだったのかもしれないとさえ思える。37年前、ブライアンとヴァン・ダイク・パークスという突出した天才が受け手のことなど視野に入れぬ暴走を展開しつつ制作にいそしんだ『SMiLE』。当時これがリリースされていたら…と考えると、ね。ちょっと怖いというか。なにせ『ペット・サウンズ』でさえ、当時のキャピトル・レコードやファン、あげくはメンバーの一部にまであれほど嫌われ、正当に評価されずじまいだったのだから。これもまた人それぞれの好例か。

しかし、ブートを集めているファンならば誰もが思うことだろうが。37年前にも、けっこうブライアンとヴァン・ダイクは『SMiLE』の完成に近い地点までたどり着いていたってことが今回の盤を聞くとよくわかる。NBCのインタビュー映像を見たら、ブライアンは第1楽章と第2楽章は当時ほとんど完成していて、最後の楽章だけできていなかった、みたいなことを語っていたけど。確かに、今回第3楽章に配された曲のうち、「アイム・イン・グレイト・シェイプ」は当時オケも歌もデモ以外は録音されずじまい。「アイ・ウォナ・ビー・アラウンド」「オン・ア・ホリデイ」「イン・ブルー・ハワイ」はオケのみ完成。他の楽章に比べると未完成品が多いかも。そのあたりの検証も含め、ぼくは今年の2月、ロンドンでブライアンの『SMiLE』ツアーの初演を見た翌日から、往年の『SMiLE』の残骸をかき集めながら、オレ流『SMiLE』を編集し続けているわけですが(笑)。その辺の音も、今度、19日のCRT@ロフトプラスワンで開陳いたしましょう。これはね、けっこういいっすよ。まじに。60年代の歌声、60年代の演奏で聞く『SMiLE』ファイナル・ヴァージョン。ぜひお楽しみに。

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