Disc Review

Turn Around: The Complete Recordings 1964-1970 / The Beau Brummels (Now Sounds)

ターン・アラウンド:ザ・コンプリート・レコーディングズ1964-1970/ザ・ボー・ブラメルズ

去年の11月ごろにチェリー・レッド傘下のナウ・サウンズからリリースされたものの。実は、このボー・ブラメルズのCD8枚組ボックス、なぜだかぼくはうまく買うことができず。ぐずぐずしているうちに年越し。本来ならば去年の年間再発ベストとかに選出してもいいくらいの力作だったのに…。

でも、ようやく入手しましたー。どうやら2月になると国内流通仕様の輸入盤(Amazon / Tower)も出るようなので、一気に手に入れやすくなりそう。ということで、国内流通への期待もこめて、遅ればせながらのご紹介です。

1964年、サンフランシスコで結成。アメリカン・ロック・ヒストリーでもっとも過小評価されているバンドとも言われているボー・ブラメルズは、以降、いったん解散を発表する1968年までの短いオリジナル活動期にけっこう激しくイメージ・チェンジを繰り返してきた。ザ・バーズより早くフォーク・ロックにも、カントリー・ロックにも挑戦しつつ、しかしそれらのオリジネイターとしての評価を得ることができずに終わってしまった男たちだ。

リード・シンガーをつとめたサル・ヴァレンティノと、バンドのオリジナル曲のほとんどを書いているロン・エリオットが中心メンバー。地元のレコード・レーベル、オータムと契約し、のちにスライ・ストーンと名乗ることになるシルヴェスター・スチュワートのプロデュースのもと、1964年にシングル「ラーフ・ラーフ」でデビュー。これが全米15位にランクするヒットを記録。その勢いに乗って1965年にはファースト・アルバムもリリース。さらなるシングル・カット曲「ジャスト・ア・リトル」も全米8位に達するヒットとなった。

当時流行していたブリティッシュ・ビート・バンドに通じる感覚と、サイケデリックな色合い、フォーク・ロック風味、そしてロン・エリオットならではのメランコリックな味が一体となった素晴らしい作品だったものの、ポップ・ヒストリーにボー・ブラメルズが名前を刻んだのはこの時期、初期のみ。1965年にもう1枚、セカンド・アルバムをリリースしたところで、所属するオータム・レコードが倒産。

ワーナー・ブラザーズへと移籍してカヴァー・アルバムを1枚リリースして活動再開したものの、メンバーがひとり抜けふたり抜け…。もともと5人組でデビューしたブラメルズもこの段階で3人組に。ということで、ヴァン・ダイク・パークス、ジム・ゴードン、キャロル・ケイら名セッション・ミュージシャン陣の助けを借りながら、1967年、隠れた名盤として後に評価を高めることになるアルバム『トライアングル』を制作した。

ストリングスやアコーディオン、ハープシコードなどを巧みにあしらったサイケ調フォーク・ロックというか、バロック・ロックというか。当時のワーナーならではのポップ・ルネッサンス的気運を反映した1枚だったものの、これもあまり売れず。結局この後、メンバー的にはロン・エリオットとサル・ヴァレンティノの2人組に。

彼らはここでナッシュヴィルへと出向き、カントリー界の名プロデューサー、オーウェン・ブラッドリーが農家を改造して設立した伝説のスタジオでアルバムをレコーディング。デヴィッド・ブリッグス、ケニー・バットリー、ノーバート・パットナム、ウェイン・モスら、のちにエリア・コード615という音楽家集団を結成することになる当地の気鋭ミュージシャンを従えて、1968年、伝統と革新が絶妙に混在するアルバム『ブラッドリーズ・バーン』を作り上げた。

曲調としては前作『トライアングル』の延長線上。やはりストリングスやハープシコード、シロフォンなども使われ、バンドの縦軸をきっちり感じさせはするのだけれど、それ以上に土臭いドブロ・ギターの響きや、ブリッグスのふくよかなピアノや、パットナム&バットリーのレイジーかつファンキーなグルーヴがとてつもない存在感を主張していて。ブラメルズの新時代が始まったことを高らかに告げる1枚ではあった。

ジェリー・リード、ハロルド・ブラッドリー、ビリー・サンフォード、そしてロン・エリオットも加わった重層的な生ギター・アンサンブルも見事。間違いなくボブ・ディランの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』やバーズの『ロデオの恋人』と並ぶ、ナッシュヴィル録音による1960年代後期ロックの名盤だった。けれども、この試みを受け止めるだけの器量が当時のシーンになかったのか、セールス的にはまたまた惨敗。結局ブラメルズは解散してしまうことになった。

とか、あれこれ知ったふうに説明してますが。

実はぼくが初めてリアルタイムで買った彼らのアルバムは、なんと1975年の再結成盤。これはカントリー・ロックをベースにフォークやジャズの要素を的確に融合した“大人な”仕上がりの1枚で。かつてのレパートリーをぐっと穏やかに、淡々とセルフ・カヴァーしていたり。彼らがいったん解散した後に世に出てきたイーグルスやザ・バンドの味も視野に入れた、いかにも1970年代な音作りが印象的な1枚だった。

というわけで、それ以前の作品群はすべて後追いでちょっとずつちょっとずつ追体験していったもの。なんだか時期ごとに音のイメージが大きく揺らぐバンドなもんで、彼ら本来の味はどこにあるのか、ぼくはずいぶんと長いことつかみきれずにいたものだ。

でも、もう大丈夫。このボックスがあれば時系列で彼らの変化をじっくりたどることができるはず。“ザ・コンプリート・レコーディングズ1964-1970”という副題通り、ブラメルズ愛好家として定評があるアレック・パラオが、ボー・ブラメルスが結成した1964年から解散後の1970年までにオータムとワーナーに残した膨大な音源を整理して、注釈を加えて、丁寧なマスタリングを行なった充実の箱だ。

これまでそれぞれアルバムごとにデラックス・エディションが出たり、ボーナス入りのCD化がなされたりしてきたけれど。いよいよ決定版の登場という感じ。さすがに再結成以降の音は収められていないけれど。まあ、それはOK。アルバムのオリジナル・マスターを基本に、アウトテイク、別ミックス、シングル・ヴァージョン、レア音源、未発表デモなどを詰め込んだCD8枚組。全228トラック。8枚それぞれ別スリーヴに収められている。未発表音源も20トラック以上。初CD化音源も多数。ブックレットも88ページ。いやいや、力作です。すげえアーカイヴスが登場したものだ。ちなみにサブスクでも去年のクリスマスごろに配信がスタートしたけれど、そちらは全205トラック。ちょっと内容が削られてます。フィジカル買え、と。そういうことっすね(笑)。

CD1は、1965年4月リリースのアルバム『イントロデューシング・ザ・ボー・ブラメルズ』にデモ、別ヴァージョン、別ミックス、バックトラックなど14トラックを追加収録したもの。CD2には1965年8月の急造セカンド・アルバム『ヴォリューム・ツー』まるごとと、ボーナス18トラックを追加。

CD3は1966年、ビートルズやらバーズやらサイモン&ガーファンクルやらマッコイズやらナンシー・シナトラやらシェールやらママス&パパスやらをカヴァーしまくったワーナー移籍第1弾アルバム『ボー・ブラメルズ66』に別ミックスとか15トラックをボーナス追加したもの。ここにはけっこう未発表音源多し。CD4は1967年の名盤『トライアングル』にやはり未発表音源を含む16トラックを追加。CD5は1968年の『ブラッドリーズ・バーン』に、まあ、こちらは既出音源ばかりだと思うけれど、デモや別ヴァージョンなど15トラックをボーナス追加。と、ここまでがオリジナル・アルバムを基調にしたディスクで。

以降がレア音源集。CD6が1965年4月に行なわれたオータム・レコードでのデモ・セッションの模様で。全32トラック中7トラックが今回初お目見え。CD7がサル・ヴァレンティノとロン・エリオットふたりによるデモ音源、およびそれぞれのソロ音源集。で、CD8がモノ・ミックスを中心にしたシングル・ヴァージョン集。

じっくりと、一からボー・ブラメルズ再体験しましょう。

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