Disc Review

A Few Stars Apart / Lukas Nelson & Promise of the Real (Fantasy)

ア・フュー・スターズ・アパート/ルーカス・ネルソン&プロミス・オヴ・ザ・リアル

アメリカではワクチン接種もどんどん進んで。ここにきて、ずいぶんと有観客イベントもフツーな感じで催されるようになってきた。うらやましい。この週末と来週末には、米コロラド州テルライドで恒例のテルライド・ブルーグラス・フェスティヴァル。ノージくんがオンラインのチケットを買ったので、ぼくも連日、おこぼれでいろいろ楽しませてもらっています。

まずはウィーク1の金、土、日…と続いて。日本では時差の関係もあり、早朝のライヴ・ストリーミングになるのだけれど。面白かったなぁ。クリス・シーリーのソロ・ステージに始まって、成長著しいサラ・ジャローズとか、興味深いカヴァー連発のベラ・フレック&アビゲイル・ウォッシュバーンとか、ラーキン・ポーやワトキンス・ファミリー・アワーが客演したサム・ブッシュ・バンドとか、精緻なホークテイルとか、連日いろいろ楽しんでおります。今朝はこれからパンチ・ブラザーズだ!

ある人は往年のフォーマットにこだわりながら頑固に、またある人はジャンルを飛び越えるようにしながら柔軟に、みんなそれぞれのやり方で伝統音楽の“今”みたいなものをいきいき体現していて。久々に野外のコンサート会場に集ったオーディエンスたちも、まあ、まだまだゆるめの距離感の下ではあるけれど、それでもパフォーマーと“場”の空気をともにしながらそれぞれのやり方で楽しんでいて。頼もしいシーンだなぁ、と改めて思うわけですが。

今朝紹介するこの人たちもそんな感触をコンテンポラリーな音楽シーンで貫いている感じだ。我らがウィリー・ネルソン翁の息子、ルーカス率いるプロミス・オヴ・ザ・リアル。新作、出ました。なんか、まじ、真っ向から跡目を継ぐみたいな。そういう強い決意すら感じさせる1枚で。ぐっときた。

ハワイに住んでいたルーカスがロサンゼルスにやってきてバンドを結成、初EPを出したのが2009年で。以来、時には親父さんとはもちろん、頼れる先輩、ニール・ヤングと組んでバック・バンドとしての役割を果たしたりもしながら活動を続け、これで単独スタジオ・アルバムもすでに7作目。独自のルーツ・ロック/カントリー・ロック路線をきっちり確立した感じだ。

これまでのジョン・アラジアに代わってデイヴ・コブがプロデュース。ナッシュヴィルのRCAスタジオAでアナログ・テープにレコーディングされたということで、なるほど、そうした意図を超ストレートに反映した気持ちのいい仕上がりだ。

以前、本ブログでも2作前の『ターン・オフ・ザ・ニュース』を紹介したことがあったけれど、あのとき以上の自信と精度をもって、ザ・バンド的な粘るグルーヴや、トム・ペティ的な適度なオルタナ感や、ザ・バーズ的なジャングリー・ギター・ポップ感や、ニール・ヤング的なメロウ感など、さまざま多彩なアプローチを展開してみせていて。さらに、今回何にも増して強く表出されているのが、父、ウィリー翁的な哀感漂うロマンチシズム。ストーリーテラーとしてのルーカスの成長ぶりとともに、その“お家芸”の継承がいい形に仕上がってきたな、と。そんなことを感じさせてくれる新作アルバムではある。

亡くなった友人に捧げられたというアルバム・タイトル・トラックとか、タフな時代を生き抜くうえで何が大切なのかを綴る「モア・ザ・ウィー・キャン・ハンドル」とか、そんなふうにどんなにシリアスなテーマを扱った曲でも、ルーカスの眼差しというのはどこか楽観に貫かれていて。その視点が、今、誰もがどうにも暗くなるしかない世の中にあって、ふっと救いをもたらしてくれるというか。

アルバムのラストを締めくくる「スマイル」という曲では、“川の流れに逆らって泳いだ/岸なんか絶対頼らなかった/今、ぼくは太陽の下に浮かんでいる/ゆるやかに身を任せながら/子供のように/あなたのことを思って…”とか歌っていて。以前も書いたことだけれど、そうした親とか先輩とかからの七光のようなものに対して、ある時期までは抗っていたのかもしれないけれど、今ではそれをまっすぐ受け入れて、あるがままにパフォーマンスしているみたいな。そういうところがこの人、ルーカス・ネルソンの良さだと思う。

どポップな「ワイルデスト・ドリームズ」とか、最高!

どこにも新しさがないじゃねーか、とか、雑に批判を投げかける自称“最先端の空気感に敏感な意識的リスナー”の方とか(笑)もいらっしゃるかとは思いますが。こういう音楽に、そういう視点は必要なし。こういう音楽にこれからものびのび生き続けてもらいたいと心から願うぼくのようなお古い音楽ファンには、ルーカス・ネルソン、とても大切な存在だ。今、32歳。まだ伸びしろありそう…というか、年齢を重ねてこそ意味のあるタイプの音楽家へ一歩一歩、深まっていってほしいものだと期待してます。

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