Disc Review

Archives, Vol 2: The Reprise Years (1968-1971) / Joni Mitchell (Rhino)

アーカイヴスVol.2:リプリーズ・イヤーズ(1968〜1971)/ジョニ・ミッチェル

本ブログでは事あるごとに取り上げている“JMA(ジョニ・ミッチェル・アーカイヴス)”シリーズ。ジョニ自らがキュレーターとなって、米ライノ・レコードと連携しつつ貴重な過去音源を掘り起こす強力プロジェクトですが。

去年11月の『アーカイヴス Vol.1:アーリー・イヤーズ(1963〜1967)』、今年7月の『ザ・リプリーズ・アルバムズ(1968〜1971)』に続く最新リリースが、本作『アーカイヴスVol.2:リプリーズ・イヤーズ(1968〜1971)』。当然ながら、今回も思いきりやばいCD5枚組に仕上がってました。

『アーカイヴズVol.1』のほうはデビュー前のレア音源を集めたものだったけれど、今回はデビュー直後、アルバムで言うと1968年の『ジョニ・ミッチェル(Song to a Seagull)』、1969年の『青春の光と影(Clouds)』、1970年の『レディーズ・オヴ・ザ・キャニオン』、1971年の『ブルー』——つまり、この夏に出た『ザ・リプリーズ・アルバムズ(1968〜1971)』にまとめられていた初期4作の時期のデモ録音とか、ライヴとか、放送音源とか、おしゃべりとか、貴重なあれやこれやを詰め込んだ仕上がり。

詳しい内容に関しては『レコード・コレクターズ』誌の最新12月号に書かせてもらったので、ぜひそちらをご参照ください。

いちおう、ざっとおさらいしておくと。CD1は1967〜68年の自宅あるいは友人宅での貴重な宅録音源が中心。いきなり、1969年に公開された米映画『真夜中のカーボーイ(Midnight Cowboy)』のためにジョニが書き下ろしながらも結局は使われずじまいだった同名未発表曲の初期ヴァージョンでスタートする。ノッケからぶっとぶ。

この曲、以前、本ブログでロバータ・フラックのアルバム『第2章(Chapter Two)』の50周年拡張エディションを取り上げた際にも触れた通り、1972年にロバータがプロデュースしたドナル・リースのアルバムで世に初お目見えしたものだけれど。あちらはフォーキーなアコースティック・ギターとニュー・ソウルっぽいワウワウ・ギターが絡み合う、カーティス・メイフィールドというかビル・ウィザースというか、そういう感触の仕上がりで。ジョニ本人による原型はずいぶんと違うテイストのものだった。

ジョニ自身による本曲の改訂ヴァージョンも初期ヴァージョンとともに今回のボックスには収められていて、どちらかというとドナル・リース版はその改訂ヴァージョンに近い感じではあるのだけれど、歌詞的には両者が入り乱れ状態。なので、たぶんこの曲が映画に採用されずお蔵入りした後も、ジョニはちょいちょい手を入れていたのかなぁ、とか想像したり…。あと、CD1にはファースト・アルバムのセッションからのアウトテイク群も。

CD2は1968年3月19日、オタワのコーヒー・ハウス“ル・イブー”でのライヴ音源が目玉。その日、たまたま当地に居合わせたジミ・ヘンドリックスがステージ前に自前のテープレコーダーを持ち込んで、自らマイクを握りしめつつ録音した貴重な私家音源だ。公演後、ホテルの部屋でジョニとジミとミッチ・ミッチェルで聞き直しながら大いに盛り上がったという。ところが、翌朝、ジミの車からテープレコーダーごと盗まれてしまったことが判明。以来、長年行方不明になっていた。

ところが、なんと最近になってそのテープがカナダ国立図書館・文書館に寄贈された個人コレクションの中から発見され、ジョニの元へと戻ってきたのだという。いやー、すごい。奇跡だ。『Vol.1』のほうの冒頭に収められていた、1963年、カナダのAMラジオ局に若きジョニが出演した際の初々しい歌声をとらえたテープと並ぶ、実に重要なレア音源の発掘だ。CD2には他にも、スタジオ録音が残っていない初期傑作曲のひとつ「カム・トゥ・ザ・サンシャイン」の未発表スタジオ・ヴァージョンとか、英BBC『トップ・ギア』出演時のパフォーマンス、友人宅でセカンド・アルバムへの展望やランバート・ヘンドリックス&ロスへの賞賛などを熱く語る様子なども入ってます。興味深いです。

CD3から4のアタマにかけては、1969年2月1日、カーネギー・ホールでのコンサートの模様。一部、カリフォルニア大学バークリー校での録音も。ジョニの初期キャリア中で大きな節目となった伝説のパフォーマンスだ。素晴らしいです。素晴らしいだけに、この音源だけ抜き出して、180gアナログLP3枚組として今回、別途リリースもされました。

CD4はアルバム『青春の光と影』や『レディズ・オブ・ザ・キャニオン』のレコーディング・セッションからのアウトテイクや、映像パッケージとしても復刻されている1969年8月放送のテレビ番組『ディック・キャヴェット・ショー』(個人的には、このときのジョニがものすごく好きです)や、70年9月のBBC『イン・コンサート』への出演時のパフォーマンス、およびもろもろのライヴ音源など。ジョニ本人も忘れていたという未発表曲「ジーザス」の宅録音源も!

CD5は当時の恋人、ジェイムス・テイラーとの共演でおなじみ、1970年12月のジョン・ピール・セッションから。ブートで超有名なこの音源がついにオフィシャルな形で世に出たわけだ。で、1970年後半に行なわれたアルバム『ブルー』のセッションからのアウトテイクへ。これは夏にデジタル・オンリーでリリースされたEP『ブルー50(デモズ&アウトテイクス)』で既発の音源だ。

まじ、才能しか感じない。それも、溢れんばかりの、汲めど尽きぬ、圧倒的な才能。今回も手応えたっぷりの5枚組です。味わい尽くすには時間がかかりそう。『Vol.1』同様、ジョニのプライベート・コレクションから提供された貴重な未発表写真や、キャメロン・クロウとジョニ・ミッチェルの対談とか、うれしい情報満載のブックレット付き。ちなみに、オフィシャルWEBストアではアナログ10枚組もプレオーダー受付中。来年2月、全世界限定4000セットでリリース予定。お値段は250ドル。おー、またもや悩ましいところだ。

今回のキャメロン・クロウとの対談原稿の中に印象的な記述があった。一時は生命の危機も伝えられながら奇跡的な回復を遂げつつあるジョニだけれど。“もう歌わないのか”と問われるたび、彼女はいつもにっこり笑って、小さく首を振りながら、“Oh, that’s gone”と答えるのだそうだ。もうなくなってしまったの、と。何がなくなってしまったのかと言うと、それは彼女の“声”なのだとか。なんだか切ない。

今の彼女なりの表現というものだって絶対にあるはずだとは思うけれど、それはやっぱりシロートの浅はかな考えで。ぼくのような凡人の想像をはるか超越した境地を生きる圧倒的なクリエイターとしての彼女自身が許せるものではないのかな…。まあ、こんな豊かな音楽をこれだけたくさん過去に残してくれているのだから。それ以上を求めるのはファンのわがままってことか。

次なる『アーカイヴスVol.3』は、1972年の『バラにおくる(For The Roses)』、1974年の『コート・アンド・スパーク』とライヴ・アルバム『マイルズ・オブ・アイルズ』、そして1975年の『夏草の誘い(Hissing Of Summer Lawns)』の時期を総まくりする予定だとか。またまたやばそう…。

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