アナザー・ワールド/ザ・フラット・ファイヴ
1年ちょい前、NRBQが出したライヴ・アルバムを本ブログで取り上げて。そのとき、現メンバーの顔ぶれについても触れたのだけれど。そこで名前が挙がったスコット・リーゴンとケイシー・マクダナウが参加しているバンド、ザ・フラット・ファイヴの新作アルバムが出た。2016年のファースト・アルバム『イッツ・ア・ワールド・オヴ・ラヴ・アンドホープ』に続く待望のセカンドだ。
フラット・ファイヴはシカゴ本拠の5人組ハーモニー・ヴォーカル・グループで。リーゴン(ヴォーカル、キーボード)とマクダナウ(ヴォーカル、ベース)のほか、自らソロ・アーティストとして活動するのと並行してニコ・ケイス、ディセンバリスツらのサポート・シンガーとしてもばりばり仕事してきた“パンク世代のトーチ・シンガー”ことケリー・ホーガン(ヴォーカル)、やはり自身のソロ・アルバムをリリースしつつロビー・ファルクスやメイヴィス・ステイプルズ、アイアン&ワイン、アンドリュー・バードらのサポートもつとめてきたノラ・オコナー(ヴォーカル、ギター)、そして、この人のことは不勉強ゆえよく知らないけどアレックス・ホール(ドラム)という顔ぶれ。
ファースト・アルバム同様、全曲がスコット・リーゴンの兄であるシンガー・ソングライター、クリス・リーゴンの作品。クリス・リーゴンって人も一筋縄にはいかない個性で。“シカゴの秘密兵器”とかも言われていて(笑)。テレビ・シリーズ『Weeds ~ママの秘密』や、ノヴェルティ・ソングの元締めとも言うべきドクター・ディメントのラジオ・ショーなどで曲がフィーチャーされたり。自らも2009年にソロ・アルバム『ルック・アット・ザ・バーディ』も出していて。このソロ・アルバムがまた素晴らしい1枚だったのだけれど。
そのアルバムのタイトル・チューンなども含むフラット・ファイヴの新作だ。サンシャイン・ポップふうあり、小粋にスウィングするジャズっぽい小唄あり、ポップ・カントリー系あり。時にママス&パパスのようでもあり、ジャッキー&ロイのようでもあり、アニタ・カー・シンガーズのようでもあり、スターランド・ヴォーカル・バンドのようでもあり、中期ビーチ・ボーイズのようでもあり、それこそNRBQのようでもあり…。
今回はティファナ・ブラス・サウンド+サンドパイバーズみたいな初期A&Mっぽいやつが2曲くらい入っていて、それがまたなんとも言えずいい味を出していた。
ばっちり“歌える”メンバーが4人そろっているものの、全員でこれ見よがしにぶわーっとオープン・ハーモニーをキメるとか、そういう方向性ではなく、リード・ヴォーカルに対してとても巧みなハーモニー・ラインをさりげなく一本加えて、なんともふくよかな味わいを演出しつつ、これまた緻密なヴォイシングをほどこした“ウーアー”系ハーモニーを背後に配する、みたいな。ハイセンスなヴォーカル・アレンジ力に脱帽だ。
と、そんな音に乗って繰り出される歌詞もまた一筋縄にはいかなくて。ユーモアと不条理が時にアナーキーに、時に切なく交錯。シアーズで家族写真を撮るときに子供を必死に笑わせようとする努力が綴られていたり、想像を絶する出来事が次々起こる日が淡々と描写されていたり。アルバム・タイトルの所以となっている「オーヴァー・アンド・アウト」って曲では、列車に乗ってたどり着いた“アナザー・ワールド〜別の世界”には“ヘイトまみれのテレビもない/ヘイトまみれのテキスト・メッセージもない/ヘイトまみれのドナルド…ダックもいない”とか歌われていて。もちろんこの“ダック”の部分には本当は別の名前が入るはずなんだろうけど。
悲しみと憎悪が渦巻く世の中を、でも、めいっぱいのウィットと明るさで軽く乗り切ろうぜ!的なアティテュードがなんだか素敵です。