Disc Review

Grateful Dead (Skull & Roses): 50th Anniversary Expanded Edition / Grateful Dead (Rhino)

グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ):50周年エクスパンデッド・エディション/グレイトフル・デッド

米ライノ・レコードが着実なペースで出し続けているグレイトフル・デッドの発売50周年記念エディション。50周年デラックス・エディションとか50周年エクスパンデッド・エディションとか、なんかいろいろテキトーに表記は変わっているけれど、次々出続けていて。なもんで、こちらも買わされ続けていて(笑)。

今回は当然、1971年の“薔薇ガイコツ”。『グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ)』の登場だ。

いや、“当然”とか書いちゃったけど。1969年の初の本格的ライヴ・アルバム『ライヴ/デッド』の50周年エディションって出ました? ぼくが気づかなかっただけ? てっきりこの50周年シリーズはスタジオ作だけに特化したものかと思っていた。というのも、この50周年シリーズはオリジナル・アルバムに加えて、リリース前後の時期に収録された未発表ライヴ音源を収めたボーナス・ディスクを付ける形だったし。

けれども、彼らにとっての2作目のライヴ・アルバムとなる『スカル&ローゼズ』はしっかり出ました。しかも、これまで通り同時期の未発表ライヴ音源を加えて。やはり見逃せません。

ぼくが初めてデッドの音に出くわしたのは1970年代アタマ、高校に入りたてのころで。正直ずいぶんユルいバンドだなぁと思った。特にライヴ・アルバムではその感触がより強く発揮されていて。みんなでひとつの堅固なアンサンブルを組み上げようとか、そういう意識とかまるでない感じ。それぞれが思うがままのフレーズをぐだぐだまき散らしながら、その絡まり合いがなんとも奇妙な音のタペストリーを編み上げていく、みたいな。最初聞いたときは、なんだか締まりがねぇな…とか、ぼんやり思ったりしたものだけれど。

この“ユルさ”の裏側には、実はとてつもない“深さ”が横たわっていて。それを感知できるようになったのはずいぶん大人になってからだ。聞き続けているうちに、だんだんこの“縛りのなさ”が魅力的に響いてきて。これはこれで、互いの音にきっちり耳を傾けながら反射神経を駆使してそれぞれが放っている音どうしの絡み合いなんだなということを思い知った。

で、その辺の魅力を味わうには、妖しい長尺ソロを交錯させつつ独自のカタルシスへと到達する彼ら本来の魅力を初めて捉えた傑作『ライヴ/デッド』のほうがいいのかもしれない。よりずぶずぶ感も強いし。

けど、デビュー当初、サイケでアシッドでラウドな長尺インプロヴィゼーションで人気を博したデッドが、メンバーの私生活面での混乱などを経てより内省的な音作りへ向かい、そんな変化の下、メンバーのルーツであるカントリーやフォークに急接近しつつ作り上げられた『ワーキングマンズ・デッド』『アメリカン・ビューティ』というアコースティカルな傑作2作を間に挟んでリリースされた本ライヴ2作目のほうが、いろいろバランスよく楽しめる。

チャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」やバディ・ホリーの「ノット・フェイド・アウェイ」のようなロックンロールものから、ジミー・リードの「ビッグ・ボス・マン」のようなブルース、マール・ハガードのベイカーズフィールド・カントリー「ママ・トライド」、クリス・クリストオファソン作の「ミー・アンド・ボビー・マギー」、ジョン・フィリップス作の「ミー・アンド・マイ・アンクル」、まで、幅広いカヴァーも交えながら、おなじみのオリジナル曲やサイケな長尺ジャムもぶちこんでがっつり構成されたデッド・ワールド。

今回はCDだと2枚組仕様で。ディスク1がオリジナルLP2枚組で出たときの収録曲をすべて最新リマスターで収録。曲によってマール・サンダーズがオルガンを後からダビングしていたり、ヴォーカル・トラックを修正してたり、ライヴとはいえ後からいろいろ手が加えられた音源らしいけれど、でも、もちろんユルいところは思いきりユルく。冒頭の「バーサ」のギター・ソロの入口付近で、左手でスライドさせすぎてミストーンみたいになっちゃったところもそのまま入れているし(笑)。そのあたりのデッドならではの判断基準がさっぱりわからなくて、ものすごく楽しい。

1971年3月から4月、さまざまなロケーションで収録されたライヴ音源からのセレクション。Apple Musicがストリーミングしている曲目リストとか、今回ぼくが買ったハイレゾ音源のファイル名とか見ると、全部ニューヨークのフィルモア・イーストで録音されたものとクレジットされているけれど、それは間違い。「ジョニー・B・グッド」は1971年3月24日、サンフランシスコのウィンターランド・ボールルーム録音です。

とはいえ、ほぼ全曲がニューヨーク録音で。前ライヴ作『ライヴ/デッド』がサンフランシスコ録音で、次なるライヴ作『ヨーロッパ’72』が文字通りヨーロッパ録音だったことを思うと、うまいこと色分けされていることを改めて思い知る。曲目もダブっていないし、テキトーにやっているようでいて、デッドって実はけっこう緻密なんだなぁ…。

で、ディスク2がすべて1971年7月2日、サンフランシスコのフィルモア・ウェストで収録された未発表ライヴ音源。フィルモア・ウェストはこの2日後、7月4日に閉館してしまうことになるので、これがデッドにとって最後のフィルモア・ウェスト公演の記録ということになる。

1969年以来、ライヴではおなじみのカヴァー・レパートリーだったという「グッド・ラヴィン」の18分近い長尺ジャムからいきなりスタート。そこから「シング・ミー・バック・ホーム」「ママ・トライド」とマール・ハガードものを2連発して、「ビッグ・ボス・マン」を経て、トラディショナルの「ゴーイン・ダウン・ザ・ロード・フィーリン・バッド」を間に挟んだ「ノット・フェイド・アウェイ」まで。思う存分カヴァーしまくり。こっちは後からのダビングや修正なしの生もの音源。全編を貫く“だらけた緊張感”がたまらない。

まあ、この人たちの場合、ドラッグやらないと本当の凄みはわからねーよ、とか、デッド命のディープな方々からは言われちゃいがちで。ドラッグとかやらないぼくのようなライト・リスナーは、その存在自体を否定されちゃったりすることも少なくないわけですが(笑)。いいのだ。やらなくても十分楽しいから。ディープな方にはわからない楽しみ方ってのもこちらにはあるのだ。それはそれってことで、本作の50周年を寿ぎましょう。ぼくはボーナスも全部入ったハイレゾ音源と、オリジナルLP同様の仕様のアナログ2枚組(Amazon / Tower)を買いましたー! でも、アナログは当初の7月2日発売が延びて、9日発売になっちゃったみたい。早く出てー。

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