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Disc Review

Can't Nobody Stop Me Now / Gerald McClendon (Delta Roots Records)

キャント・ノーバディ・ストップ・ミー・ナウ/ジェラルド・マクレンドン

“ジャケ買い”ってやつを、よくやったものだ。1970年代から80年代にかけての話。楽しいから、というわけでもなく。そうするしかなかったから。

主に洋楽のアルバムに関して。内容などまったく知らず、アルバム・ジャケットだけ見て、気になったレコードを買う。ジャケ買い。冒険っちゃ冒険。でも、音楽に関する情報が圧倒的に少なくて、しかも後年の大型CDショップのように試聴機などもなかった時代に、知らない音楽を手に入れる手段はジャケ買いしかなかった。

なにせ、レコード、高かったし。1972年か73年ごろまで、航空便による輸入盤新譜を買うには渋谷のヤマハがいちばんだった。というか、そこしかなかった。値段は1枚2500円だったか、2800円だったか。1970年代半ば、お茶の水のディスクユニオンが存在感を増し始めて、原宿・竹下通りにメロディハウスとかができたころには1枚2000円から2200円くらいに下がった気がするけれど。それにしたって今の新譜CDよりも高い価格設定。実感として、本当に危険な、高額商品だったぜ。

輸入盤屋さんに行って、ずらり並んだ新譜レコードの棚を眺めながら、なんだこれ? 知らない名前だな。新人か? でも、なんだかジャケットの写真がかっこいい。タイトルのフォントとかデザインもいいし。色使いもいい。プロデューサーの名前は聞いたことないけど。でも、このレコード会社、小さいわりにはいつもいい盤を出しているし。参加ミュージシャンもすごい。よし、買っちゃえ…と。

ハズレも少なくなかった。そんなときは覚悟していたこととはいえ思いきり悲しかった。が、当たりだったときの喜びはそのぶん大きい。だから、1970年代、輸入盤屋さんでは誰もが手にとったジャケットを、それこそ穴が空くほど、透視でもするような勢いで見つめていたものだ。

サブスクのストリーミング時代にもジャケット・デザインというのはもちろん大きな意味を放っていて。知らないアーティストの音に接する際の、とても重要な情報源なのだけれど。でも、今は聞けるから、ね。サブスクってすごい。楽しい。音楽への接し方が大きく変わった。なんだかよくわからない人の新作アルバムとかにそうとう気軽に接することができるようになった。

こういう時代のど真ん中を過ごしている若い世代とか、きっとぼくたちのような旧世代とはまるで違う音楽の受容感覚みたいなものを持ってるのだろうな。もちろん、旧世代は旧世代なりに、いろいろな新譜とか、今さらどこから切り込んでいいのかわからない未聴のアーティストとか、順番的に後回しにしてきたジャンルのアルバムとかにけっこう気軽にアプローチすることができるようになって。ありがたいです。

ただ、そのぶん、手に入れた音盤ひとつひとつに対する愛情は薄れてきたかなぁ…と、思わなくもないけれど。まあ、それはそれ。気楽に膨大な音楽に接することができるようになったありがたさのほうを享受したいっすね。

で、今朝、紹介するこの人。実はぼく、失礼ながら何ひとつ知らなかった。その筋では有名だったりするのかも。この人知らないの? と、笑われちゃうかも。でも、正直、まったく何も知らず。ただ、とても今の時代のものとは思えないこのアルバム・ジャケットが気になってちょこっと聞いてみたら、これがけっこうよくて。なので、紹介してみます。もちろん、何も知らないのでどう紹介したらいいのかわからない(笑)。あれこれ調べてみても、よくわからないまま。なんとなくつかめた範囲の情報を記しておくと。

ジェラルド・マクレンドン。普段は地元シカゴのクラブで往年のソウル・スターたちのヒット曲を歌いまくるホットなショーをやっている人だとか。YouTubeとか検索してみると、けっこうわびしめのライヴ動画とか並んでいたりして。まあ、懐メロ系っちゃ懐メロ系なのだろうけど。でも、この人のメンターはZ.Z.ヒルだとか。心意気は半端なさそう。ソウル音楽黄金時代の伝統と輝きをそのまま今の時代へと受け継ぐ得難い存在としてがんばり続けている人らしい。シカゴでは“ザ・ソウルキーパー”、ソウルの守護者の異名もとっているという。いかすね。

このところは、エアロスミスのトリビュート・アルバムに参加したり、シカゴを本拠に活動するベテラン・サックス/ハーモニカ奏者、ヴィンス・サレルノのアルバムにヴォーカリストとしてフィーチャーされたり、『マザー・ブルース』と題する企画アルバムでリード・シンガーをつとめたり、シングルをリリースしたり…。レコーディング方面でもそれなりに活発に活動してきたようだけど、ソロ名義でのフル・アルバム・リリースとしては1999年の『チューズ・ラヴ』以来、2作目だとのこと。

そんな久々のフル新作。プロデュースはドラマーとして、ソングライターとして、ブルース・シーンで活躍するツイスト・ターナーことスティーヴ・パターソン。ディープもの、ブルージーもの、スウィートもの、スムーズもの…1960年代、70年代のヒットチャートを賑わしたソウルのあの手この手がたっぷり詰まった仕上がりだ。ジェラルドさんも自ら曲を書くみたいだけど、今回は全曲ツイスト・ターナー/スティーヴ・パターソン作。ベン・E・キングやマーヴィン・ゲイ、タイロン・デイヴィス、ボビー・ウーマック、ボビー“ブルー”ブランド、ウィルソン・ピケット、オーティス・レディングら偉大な先達への限りない敬愛の念をこめた仕上がりだ。

とにかく、まっすぐレトロ・ソウル。ヴィンテージ・ソウル。でも、だからこそいい。燃える。アガる。ちょっと泣ける。そんな1枚です。ものすごく強くおすすめする気はないけれど、そこそこ軽い気持ちで聞いてみてもらえれば、と。サブスクでね。

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