エッセンシャル・ワークス・オブ・ミシェル・ルグラン/セリーヌ・ディオン、カーメン・マクレエ、アンディ・ウィリアムス、エリス・レジーナ、ローラ・フィジー、シェルビー・フリント、ペギー・リーほか
昨年1月26日、86歳で他界したフランス音楽界の巨匠の没後1年追悼企画として3種のアルバムが昨日、19日に日本でリリースされた。今週、AMラジオJRN系列で放送中の『萩原健太のMusic SMiLE』でもこのあたりのアルバム紹介を兼ねてルグラン特集をしているのだけれど、せっかくなのでこちらのホームページでも紹介しておきます。
3種のうち、ひとつは世界的アコーディオン奏者であるリシャール・ガリアーノがプラハ弦楽五重奏団と組んで去年の暮れにリリースした『トリビュート・トゥ・ミシェル・ルグラン』の国内盤。ものすごく繊細に、精緻に、ルグラン・メロディを綴っている。
ふたつめが『アルファ・イヤーズ』。ルグランは1990年代前半、日本のALFAレコードで、自分の曲を素材にジャズ・フォーマットのアルバムを3作出しているのだけれど、そこから本人が選りすぐったベスト盤だ。2007年に企画されたものの、その際は未発表に終わっていたものだとか。
で、もうひとつが今日メインで紹介する盤。CD2枚組アンソロジー『ミシェル・ルグラン・エッセンシャル・ワークス』だ。これはディスク1がルグラン自身の演奏による映画音楽集、ディスク2が様々なアーティストによるルグラン作品集という2枚組。冒頭とラストに本人名義のトラックを配して、それで挟む形で多彩な顔ぶれによるカヴァーが並んでいる。
レーベル的な制約などもある中、けっこうがんばった選曲がなされていて。映画『華麗なる賭け』の主題歌「風のささやき(The Windmills Of Your Mind)」はルグランの実姉クリスチャンヌがリード・ソプラノを務めていたスウィングル・シンガーズの第二期、“スウィングルⅡ”と名乗って活動している時期に取り上げたヴァージョンで収録されていたり。ジェイムス・イングラムとパティ・オースティンでおなじみ、映画『ベストフレンズ』からの「ハウ・ドゥー・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング」はセリーヌ・ディオンのヴァージョンになっていたり。ブロッサム・ディアリーがキュートな歌声でしっとり歌ったヴァージョンでおなじみ「ワンス・アポン・ア・サマータイム」は、真逆とも言えるカーメン・マクレエのふくよかな歌声で綴られたムーディなボサノヴァっぽいヴァージョンで収められていたり…。
他にも、アンディ・ウィリアムス、エリス・レジーナ、ローラ・フィジー、シェルビー・フリント、フランキー・レイン、ペギー・リー、ジャック・ジョーンズなどが次々登場。これぞ、という決定的ヴァージョンもあれば、ひねりの効いたヴァージョンも選ばれている。まあ、ルグランの場合、他にもたくさんの名作集的コンピレーションが編まれていて、音楽ファンならば誰もがひとつかふたつはその種のものを持っていそうなので、その辺と競合しないよう配慮されているということか。
ご存じの通り、ミシェル・ルグランという人はパリのコンセルヴァトワールで名教授ナディシ・ブーランジェ女史から厳しくクラシック音楽の指導を受けつつ、ジャズにも強く惹かれていて。“ナディアが教えてくれる音楽が天使だとしたら、ジャズは悪魔だった”と本人も語っていた。が、ルグランはどちらか一方を選ぶことなく、両者をそのまままるごと抱え込みながら自らの音楽をクリエイトしていった。クラシックとジャズ。両方の良さを最大限に活かせる場として、だから映画音楽というのはルグランにとって最高の環境だったわけだけれど。
天使と悪魔。繊細さと大胆さ。静と動。正と邪。聖と俗。親しみやすさと実験的精神…。相反するコンセプトたちが、しかし互いに火花を散らすのではなく、不思議な空気感の下で融け合い交じり合う。それこそがルグラン・ワールドの真骨頂だ。そんなミシェル・ルグランの多層的な魅力を様々な切り口から味わえる2枚組コンピに仕上がっている。
そういえば、明日、2月21日から東京・恵比寿ガーデン・シネマで『ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち』って企画がスタート。3月12日にかけて、ルグランが音楽を手がけた『女は女である』『5時から7時までのクレオ』『ローラ』『女と男のいる舗道』『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『ロバと王女』の7作が、すべてデジタル・リマスター版で上映されるとのこと。新型コロナとか、いろいろ気になって、映画館とかちょっとビビりますが。消毒とかマスクとか、いろいろ納得できる形で対策しつつ、珠玉の世界観を楽しみましょう。
ちなみに明日、21日はCRTのジョージまつりもあります。お店のほうでも消毒とか、いろいろ用意しているようですが、こちらも各自しっかり気をつけつつ、存分に楽しみましょうね!