Disc Review

We Shall Overcome: The Seeger Sessions / Bruce Springsteen (Columbia)

ウィー・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ/ブルース・スプリングスティーン

今夜はまたジャイアンツ戦のTV中継がない。Jスポーツでもない。BS朝日だけ。夜中にスカイAで録画をやるみたいだけど。いずれにせよ、うちのケーブルの契約だと見られないっす。他のチームの試合はほとんど見られるのになぁ。時代は変わったなぁ。ジャイアンツ戦だけ見られないなんて。契約見直しかなぁ。

ただ、だからといって本気で契約を見直す気になかなかならないのは、今年のジャイアンツに今ひとつ思い入れられないせい。これはガキのころから長嶋が大好きで、ずっとジャイアンツの試合を中心に何十年もプロ野球を楽しんできたぼくの、あくまでも極私的、個人的なグチですから。賛否、どちらの表明もいりませんので(笑)。あしからず。

正直なところ、えー、原巨人ですか? 前・原監督時代の2年目の采配の身勝手さとか意固地さとかを忘れることができないぼくにとって、この監督復帰劇は悪夢に近いわけで。いや、あくまで私見ですよ。私見。今シーズンはそこそこ勝ちが転がり込んできているおかげで、マスコミを中心に名采配とか持ち上げる人も多いようだけど。とんでもないでしょう。チームに自分以上のスターは必要ないと言っているような采配だもの。勝ってもそんなにうれしくないし、負けてもさほど悔しくないという、なんとも淋しい状態が続いています。ホリウチ丸がよかったとは思わないけど、だからといって原でいいってわけでもない。長嶋巨人が懐かしいです。とりあえず東京ドームでの試合は今シーズンも従来通り3連戦中最低ひとつは見に出かけてますが。胸が今ひとつ躍らない。淡々と観戦してます。

なんて言うのかなぁ。ドゥービー・ブラザーズの『ワン・ステップ・クローサー』を買ったころの感じというか(笑)。ドゥービーズはセカンド・アルバムが日本で出たころからずっと好きだったもんで、アルバムが出るたびに買ってきたし。そんなバンドの新作だから、買うだけは買って。そこそこ売れてるみたいだし。でも、聞いてみたら、オリジナル・メンバーはもう2人くらいしかいなくて。マイケル・マクドナルドがでかい顔して君臨していて。サウンドもすっかり様変わりしていて。俺、こういう音楽を聞きたくてドゥービーズを好きになったわけじゃないのに……と複雑な気分になった、みたいな。

要するに、俺はこんな野球が見たくてジャイアンツ・ファンやってるわけじゃねーぞ、と。そういうことです。まあ、もう監督すら年下……みたいな状況になると、そんなものなのかもしれないっすね。トシ取ってるぶん昔の記憶も多くて、どうしてもそれと現在の姿を比べて物足りなさを覚えたりするんだけど。昔を知らなきゃ、別にいいんだもんね。原ジェネレーションにとっては今のジャイアンツでばっちりなんでしょう。マイケル・マクドナルド加入後のドゥービーズだけが好きって人も少なくないわけだし。しょうがない。ぼくは無理せず、年寄りなりに思い切り楽しみます(笑)。

と、そんなこと考えながら、ぼんやり思ったのだけれど。若いってことは怖いもの知らず。尊大で、傲慢で。自分が歴史を凌駕している、みたいな気分で日々を過ごしていたりもするわけです。ぼく程度の人間でも、昔を振り返ると、何も知らないくせにずいぶんと自信たっぷりに乱暴なこと言ったりやったりしてたなぁ、と顔が赤らむ。でも、若者ってのはそのくらいでないとね。特に文化の担い手というか、クリエイターというか、そういう連中はそうあるべき。どんな分野でも、若いアーティストってのは、自分が作るものこそ最高、全てを凌駕している、歴史を変えるぞ、というぐらいの身勝手なパワーで突っ走ってくれないと。その傲慢で身勝手なパワーこそがわれわれの心を揺さぶるわけだし。

でも、それも若いうちだけだと思う。中にはトシ取ってからもえんえん身勝手なだけの表現を続けるクリエイター/アーティストがいて。その姿が若い受け手にどう映るのか、ぼくにはもう想像もできないけれど。トシ取った目には、この人、きっと、あんまりちゃんと年輪を重ねられなかったんだろうなと、淋しく映る。血気盛んな若い世代には理解してもらえなさそうな話だが、仕方ない。トシを取り経験を積むうちに考え方も感じ方も変わる。快楽のヒエラルキーも明らかに変わるし(笑)。若者はそれを“老い”と呼んで蔑むのかな。ぼくもかつてはそう思っていた気がする。でも、自らその蔑まれる地点に至ってみると、いやいや、“老い”も悪くないですよ。ブルース・スプリングスティーン初のカヴァー・アルバム『シーガー・セッションズ』を聞いて、改めてそう確信した。もちろん若い人にも楽しめるアルバムだとは思うけれど、経験を積んだアメリカ音楽リスナーであればあるほど、楽しさが倍増するはずのアルバムだから。

米フォーク音楽の探求者、ピート・シーガーにゆかりの曲を集め、自宅で、腕きき演奏家とともに、完全アコースティック編成で、ほぼ一発録りされた1枚。ご存じの通り、ピート・シーガーは自作曲を歌うだけでなく、古い労働歌、霊歌、反戦歌など重要なトラディショナル曲を熱心に発掘/伝承し続けた偉人で。つまり、シーガーに捧げるアルバムという体裁を取りつつも、本盤はスプリングスティーンによる米トラディショナル名曲集というか、歌うアメリカ史というか。そんな色合いが濃い仕上がりになっている。去年の暮れ、75年の傑作アルバム『明日なき暴走』の30周年記念ボックスをリリースして、当時の凄まじい勢いを再認識させてくれたスプリングスティーンだけど。『明日なき暴走』が20歳代半ば、若き日の彼にしか作り得なかった名盤だったように、本盤もまた年輪を重ね、すでに50歳代半ばを過ぎた彼にしか作り得ない1枚になっている。泣ける。

もしかしたら今やスプリングスティーンにとって、その歌を誰が作ったかなんてこと関係ないのかも。むしろ作者不詳という形で世代から世代へと歌い継がれ、歳月を乗り越えてきたトラディショナル楽曲にこそ、誰の心にも深く染み入る真実がある、と。そういった真実を歌い継ぐことも、自作曲を作ることも、かつての自作曲をライヴなどで再演することも、何ら隔たりはない、みたいな。そういう意味で本盤は90年代にボブ・ディランが出した2枚の弾き語りカヴァー・アルバムに近い気がする。地下室セッションでも自画像セッションでもなく、92年の『グッド・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー』と93年の『奇妙な世界に』だ。伝承への同化。自らの活動を米音楽史の大きなうねりへと冷静に位置づける作業…。

間もなくリリースされるジョニー・キャッシュの未発表弾き語り音源集『パーソナル・ファイル』ってのも同じ手触りを感じさせてくれる2枚組だ。この辺みんな、リスナー側の成熟度が問われる作品って感じ。若い世代の方も、今聞いてみて、さほどピンとこなくても、細く長く聞き続けてみてほしい。いつかドーンと胸にしみる瞬間を迎えることができるはずだから。

レコーディング風景を記録した30分ものドキュメンタリー映像と、アルバム収録曲すべてのPCMステレオ版と、ボーナス2曲を収めたDVD付き。というか、こっちがメインかな。ニール・ヤングの近作同様、再生環境さえ整っていればアルバム自体DVDで楽しんだほうが音質的にベターです。で、その他、最近お気に入りのおっさん系新作も、ざっとリストアップしておきます。

Surprise / Paul Simon (Warner Bros.)

なんでブライアン・イーノと組んだのか、事情はまるで知りませんが。とにかくイーノと組んだ新作。5年ぶりくらい? 確かにイーノ参加ならではのオルタナな奥行き感というか、そういうものが強く感じられる仕上がり。ポール・サイモンのエスニック志向からくるミニマルっぽさとイーノのミニマルっぽさとが妙な絡み合いを見せていて。これはこれで興味深いかな。とはいえ、本盤の魅力はやはりポール・サイモンならではの、繊細で、どこか理屈っぽいメロディと歌詞。戦争があって、ハリケーン・カトリーナの傷跡も癒えぬアメリカで彼が感じる様々な疑問を彼なりの屈折した語彙で綴る曲もあって。いろいろ考えさせられる。イーノと共作した「アナザー・ギャラクシー」って曲がとてもよい出来でした。この曲が生まれただけでも、異色なコラボレーション、意味があったかな。数年前、アニメのサントラに提供した「ファーザー・アンド・ドーター」も入ってます。

Living With War / Neil Young (Reprise)

対して、こちらは真っ向からの反戦アルバム。戦争やカトリーナに対して、ポール・サイモンのように時間をかけて逡巡するのではなく、どかーんと思うままを速攻で形にするみたいな。現代版のトピカル・ソングってやつだろう。かつてその種の音楽はフォークとして世に広まったけれど、ニール・ヤングはそれをどかどかのロックでやってのけた。聞く者はもちろん、ニール・ヤング自身があとでこの音楽をどう思うかなど問題外。テロ直後、速攻で「レッツ・ロール」って曲を作っちゃった人だしね。ブッシュ政権に対する姿勢もずいぶんと変化したようだけど。そういうことも含めて、聞く側も速攻楽しむってのがいちばんか、と。ただ、その怒りがベトナム戦争時代のアメリカもリアルタイムに体感したおっさんならではのものであるところがミソか。音的には『グリーンデイル』の続編って感じ。かっこいいです。

Songs From Here & Back / The Beach Boys (Hallmark)

ビーチ・ボーイズ名義のニュー・アルバム! なのに、米ホールマークからの期間限定発売。やんなっちゃうなぁ。まあ、新作とはいえ、収録期も特定できないライヴ音源と、ブライアン、アル、マイクそれぞれのソロ音源との抱き合わせ盤なので、こんなもんでしょうか。北米のみに向けての発売。日本から買うのはいろいろ面倒ではあるのだけれど。むりくり買いました。で、もちろん、ソロ音源も含めて思い切り楽しみました。記憶の蓄積がたっぷりあるからね(笑)。聞いたことがない音源に接することができるだけでうれしいですよ。そういう人以外は買わないように。てか、フツー、買えないか。

A Mother's Gift: Lullabies From The Heart / Carnie Wilson (Big3)

ブライアンとの共演でデニスおじさんのオハコだった「ユー・アー・ソー・ビューティフル」を歌い、マリリンを含むオリジナル・ハニーズをバックに、やはりデニス作の「フォーエヴァー」を歌っている、と。もうそれだけでぐっとくるしかない1枚。カール作の「ヘヴン」もあるし、ジャスティンも参加しているし、ウェンディも参加しているし。何も知らずに聞いても、きっとこのアルバムに詰め込まれた穏やかで温かい音楽はそれなりに楽しめるとは思うものの、今、上の文章にファースト・ネームしか書かなかったすべての人のラスト・ネームが“ウィルソン”であることとか、誰と誰が親子関係なのかとか、そのうち誰が他界してしまっているのかとか、わかる人にこそより一層しみる仕上がりです。しつこいようだけど(笑)。

Resent Posts

-Disc Review
-, , ,