エル・ドラド/マーカス・キング
G.ラヴの来日公演、東京では渋谷で1回だけ、4月21日に予定されているのだけれど。なんだよー、ボブ・ディランの日本ツアー最終日じゃないかーっ!? もうディランのチケット買っちゃってるし。ショック…。
まあ、すべての来日アーティストを見られるわけじゃないので、仕方ない。その昔、ぼくが中学生から高校生になったころ、1970年代初頭の日本のことを思うと、本当に夢のような状況なんだし。贅沢な悩みってことか。
1970年代初頭、来日してくれるアーティストなんて、ほんと一握り。1971年ごろからようやく月にひと組くらい大物がやってきてくれるようになって。だから、もうとにかくおこづかいとバイト代つぎこんで、たまには親に泣きついて、全部見に行ったものだ。ジョン・メイオール、ブラッド・スウェット&ティアーズ、B.B.キング、シカゴ、グランド・ファンク・レイルロード、フリー、レッド・ツェッペリン…。たぶんどれも1971年の来日組。全部見た。片っ端から。当時の日本の洋楽ファンは、たぶん全員同じコンサートを体験しているはず。選ぶ余裕はなかった。
あれからほぼ半世紀。状況はずいぶんと変わった。来日アーティストを選べる時代。ただ、そのせいで去年もずいぶんいいアーティストを見逃したものだ。その代表格が、本日の主役、マーカス・キングだ。マーカス・キング・バンドとしてやってきた2017年のフジロックも行ってないし、去年のビルボードも行けなかったし、でも、見に行った連中からは“最高でしたよー”とか言われまくるし(笑)。
今年も来てくれるそうで。でも、マーカス・キングの来日スケジュールもディランとカブってるんだよなぁ。調整できるかなぁ。仕事のスケジュール調整以上に大変だ…。
と、そんなマーカス・キング。サウス・カロライナ出身の23歳。2020年現在、最強のルーツ・ロック/サザン・ロック/カントリー・ソウル系若手ギタリストとしておなじみだけれど。このほどついにソロ名義のファースト・アルバム『エル・ドラド』をリリース。今回はギタリストとしてというより、むしろシンガーとしてなかなかに優れたストーリーテラーぶりを発揮している。若いということもあって、バンドのとき同様、まだまだ歌い手としては青臭い感触も強いのだけれど、それも含めて好感度たっぷりだ。
なんでもマーカスくん、近頃、拠点をナッシュヴィルに移したとかで。ブラック・キーズのダン・アワーバックがかの地に構えるイージー・アイ・スタジオでのレコーディング。アワーバックが全面プロデュース、全曲をマーカス・キングと共作している。アワーバックの発案だったのかどうか、いつものマーカス・キング・バンドの面々ではなく、ジーン・クリスマンやボビー・ウッドら、かつてメンフィスのアメリカン・サウンド・スタジオに所属していた超ベテラン・ハウス・ミュージシャンたちを起用。これまでの持ち味も尊重しつつ、さらに加えて、より粘っこくダーティな手触りをマーカス・キングにプレゼントしてみせた。
ノッケの「ヤング・マンズ・ドリーム」から、もういきなりごきげん。まるでザ・バンドみたいに大きくうねるグルーヴのもと、“17歳で故郷を離れた/足は汚れたけれど魂はまっさらだった”とか歌っていて。かっこいい。以降、ZZトップ、J.J.ケイル、オールマン・ブラザーズ・バンド、オーティス・レディング、アルバート・キング、ウィリー・ネルソン、ドニー・フリッツ、アル・グリーンなど、様々な先達を彷彿させる楽曲が続く。スワンプ・ロック、サザン・ソウル、ゴスペル、ブルース、カントリーなど、南部に渦巻く多彩な音楽性の雨あられ。
基本、土臭い感触がアルバムを貫いているのだけれど、バラード系の曲で一瞬ふと洗練されたコード進行というかアンサンブルというか、そういったものがよぎったりして。実にいかしている。今回はそっちの、ちょいメロウもののほうがいいかも。やばい。真剣に4月のスケジュール調整しないと…!