Disc Review

Renaissance / Wyatt Michael (Wyatt Michael)

ルネッサンス/ワイアット・マイケル

デヴィッド・マンというソングライターがいて。グレイト・アメリカン・ソングブック的な音楽に興味のある方ならばご存じかと思う。

1945年にヴォーン・モンローがヒットさせた「ゼア・アイヴ・セッド・イット・アゲイン」(1960年代にボビー・ヴィントンがカヴァーしたヴァージョンもオールディーズ・ファンにはおなじみなはず)とか、1947年、ドリス・デイの名唱をきっかけに世に広まった「ノー・ムーン・アット・オール」(近年はステイシー・ケントやダイアナ・クラールも歌ってます)とか、さらにフランク・シナトラが1955年に放った必殺のブルー・バラード「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オヴ・ザ・モーニング」とか。味わい深い名曲をいくつも残した後、地元ニュージャージーのローカル紙“ザ・サバーバン・トレンズ”の記者に転じて、以降32年間、執筆活動を続け、2002年、85歳で亡くなっている。

と、そんなデヴィッド・マンが、「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ…」と同じころ、1950年代に作りながら世に出さずトランクの奥にしまい込んでいた未発表曲があったのだとか。しかも、2曲!

そのお宝が、突如、世に出た。掘り起こしたのはヴァージニアを本拠にローカルな活動をしているワイアット・マイケルなる若者だ。まだ22歳だか23歳だか。もともとは兄弟でチェイシング・アヴェニールなるポップ・ロック・バンドを組んで地元のクラブや劇場で活動していたようだけれど、やがてグレイト・アメリカン・ソングブックと呼ばれるスタンダード・ナンバーと、ジャズ・ヴォーカルの魅力にハマって方向転換。腕ききジャズ・ギタリストのクリス・ホワイトマンと組んで、その道を模索するようになった。

まあ、今はまだ、フランク・シナトラが大好きで、シナトラの声の出し方とか、フレージングとか、そのあたりを真っ向からコピーしている段階という感じではあるのだけれど。ライヴ・クラブなどに出演するだけでなく、いわゆるブラック・タイ・イベントのようなパーティや、結婚式、テレビ番組など、今の彼のスタイルを受け入れてくれそうなところならばどこへでも出向き、パフォーマンスしてきた。

そうこうするうちに、ひょんなことから前述したソングライター、デヴィッド・マンの息子であるサム・マンと知り合い、実はデヴィッド・マンには未発表曲があることがわかった。サムさんとの友情を深めたワイアット・マイケルとクリス・ホワイトマンは、やがてそれらの曲を歌っていいという許可を公式にゲット。そこで、お蔵入りしていた2曲の楽譜とともに、ワイアットとクリスが二人だけで自主制作したアルバムが本作『ルネッサンス』だ。

8曲入りのミニ・アルバムだが、そのオープニングを飾る「パリス・イズ・ザ・セイム・オールド・パリス」と、ラストの「ザ・サッド・アンド・ザ・ウィアリー」が件の未発表曲。そこに「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」や「コルコヴァド」、「グッディ・グッディ」、そしてもちろんデヴィッド・マンの最高傑作「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オヴ・ザ・モーニング」というおなじみのスタンダード4曲と、ワイアット&クリスによるオリジナル2曲を加えた内容だ。

歌声とギターのみ。ちょっとしたソロのダビングなどはあるが、基本的には1本のマイクで一発録りされたものらしい。もちろん、ヴォーカル的にはまだ熟成されきっていないというか、手探りの部分も目立つ。けど、今どきシナトラを目指すとか、ずいぶんと珍しい若者だけに、お相撲の新弟子なみに大切にしたいなというか(笑)。マイケル・ブーブレほどの押し出しはないけれど、好感度たっぷりです。

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