Disc Review

American Tunes - Songs By Paul Simon / Various Artists (Ace)

アメリカン・チューンズ〜ソングズ・バイ・ポール・サイモン/アレサ・フランクリン、バングルス、ハーパース・ビザール、ウィリー・ネルソンほか

英エイス・レコードの人気企画“ソングライター・シリーズ”。

これ、もともとはキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンとか、エリー・グリニッチ&ジェフ・バリーとか、バリー・マン&シンシア・ワイルとか、ニール・セダカ&ハワード・グリーンフィールドとか、オーティス・ブラックウェルとか、いかにもプロのソングライター然とした人たちの作品集という感じのコンピ・シリーズだったけれど。

ある時期から、デイヴ・バーソロミューとか、アラン・トゥーサンとか、ジャック・ニッチとか、プロデューサー色の濃い人たちの作品集も出すようになって。さらにドン・コヴェイとか、ボ・ディドリーとか、チャック・ベリーとか、ローラ・ニーロとか、自らパフォーマーとしても活躍してきた人たちの作品集も出るようになって。

半年ほど前、その最新作として編まれたレナード・コーエンの作品集を紹介したことがあったけれど。その次。今度はポール・サイモンの作品集が出た。

ちょっと話は逸れるけれど。高校生のころ、ぼくが必死にアコースティック・ギターをコピーしたのはポール・サイモン、ポール・マッカートニー、ジェームス・テイラーの3人。彼らがぼくにとってのアコギ御三家。教則ビデオとかまるでない時代、レコードを何度も何度も繰り返し聞きながら必死に耳コピしたものだ。

そんな中、ギターそのものの“鳴り”のようなものを最も効果的に活かしたプレイを聞かせるのがポール・サイモンだった。ギターを知り抜いたプレイというか。指使いもきれいだし。ヴォイシングも神がかっているし。そう。ポイントはこの神がかったヴォイシング。美しく洗練されたコード感覚。彼のソングライターとしての資質を一段と輝かせている最大の要素だと思う。

けっしてたくさんの音を鳴らすわけではない。ギターの6弦すべてを一気に弾くのではなく、ふたつとかみっつとか、事によったらたったひとつの単音をギターで鳴らして、それを歌のメロディに添えるだけでとてつもなく深みのある楽曲に仕立て上げてしまうという希有な才能。そんな彼のソングライターとしての魅力は、もちろん彼自身のソロ、あるいはサイモン&ガーファンクルとしてのパフォーマンスで最高に魅力を発揮するものではあるのだけれど。

他のアーティストたちによるカヴァーを聞くことで、より俯瞰した地点からポール・サイモンの楽曲の素晴らしさを味わうことができるのが、今回のコンピレーションだ。

ホリーズ「アイ・アム・ア・ロック」、シェール「早く家へ帰りたい」、ハーパース・ビザール「59番街橋の歌(フィーリン・グルーヴィー)」、トレメローズ「ブレスト」、エミルー・ハリス「ボクサー」、バングルス「冬の散歩道」、アレサ・フランクリン「明日に架ける橋」、ピーチズ&ハーブ「サウンド・オヴ・サイレンス」、ローズマリー・クルーニー「恋人と別れる50の方法」、イントゥルーダーズ「母と子の絆」、ミラクルズ「愛しのセシリア」、パースエイジョンズ「母からの愛のように」、パティ・スミス「ボーイ・イン・ザ・バブル」、ウィリー・ネルソン「グレイスランド」、ショーン・コルヴィン「アメリカの歌」などなど。

サイモン&ガーファンクル時代、ソロ時代、両方にまたがった数多の名曲を多彩なジャンルのアーティストたちがカヴァーした音源がずらり23曲。ポール・サイモン自らも協力しながら編まれたという最強コンピだ。サークルが入ってないじゃんとか、「ボクサー」はマムフォード&サンズのほうがとか…(笑)、いろいろ言い出すときりがないのだけれど。それだけ名曲が多いってことの証。アマゾンUKでは先週リリースずみでもう買えたので、今日いち早く取り上げちゃいましたが、日本では輸入盤が10月4日、Pヴァインからの国内盤が10月16日のリリースだとか。待ち構えちゃっててください。

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