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Disc Review

Valentine / Bill Frisell (Blue Note Records)

ヴァレンタイン/ビル・フリゼール

機会あるごとに来日してくれて、その絶妙な、誰にも真似できないマジカルな音色と、深い歌心を生で披露してくれたギタリスト、ビル・フリゼール。去年の6月に実現した2年ぶりの来日は盟友トーマス・モーガン(ベース)とルディ・ロイストン(ドラム)を引き連れたトリオでの公演で。これが最高に素晴らしく。インタビューもさせてもらった。そのときの記事はこちらに掲載されているので、よろしければご覧いただきたいのだけれど。

そのとき、モーガンとロイストンと一緒にライヴ演奏することについていろいろ話してくれた。改めてこちらにも引用しておきます。

プランはないんだ。何ひとつ…。昨夜もファースト・セットとセカンド・セットはまるで違っていた。自然にそうなるんだ。だって、セットリストはないんだから。ステージに出た瞬間、ぼくは何も考えずにギターを弾き始める。どの曲を弾こうかすら決めていない。最初の1音を弾いたときに次に弾くべき音が決まる。ふたつの音を出した瞬間、すべてが動き出す。テンポも、進むべき方向も。ものすごく繊細なやりとりさ。毎晩、まだ見ぬ新しい世界に足を踏み出す感覚とでも言えばいいのかな。あとは、ただ進んでいくだけ。言葉で説明するのはむずかしいけれど、あえて言うなら夢を見ているような感じだ。ルディとトーマスと一緒にね。ぼくは彼らと出会えて本当にラッキーだよ。彼らとなら事前に何ひとつ相談する必要はない。ぼくが歩き始めれば、どこであろうと彼らもついてくる。彼らが行くべき道を指し示してくれることもある。そうやって、ぼくたちはどこにでも向かって行けるのさ。

さらには、こんなことも——

ルディやトーマスと演奏するときはもちろん、他のどんなグループと演奏するときでも同じ。夢の中で断崖絶壁に立って、そこから飛び降りる感じさ。どこに飛んでいくかわからないまま宙を舞っていく。時には、あ、ダメだ、間違った方向に落ちて行っている、ということもあるけれど、そういうときは周りの仲間がレスキューしに来てくれるんだ(笑)。だからこそ、危ないアプローチにでも安心して踏み出せる。やっぱりグループはいいね。

ここ2年ほど、この素晴らしいトリオ編成でライヴを続けてきたフリゼール。ただ、スタジオ・アルバムとなると、どうもフリゼールさん、ちょっと企画性というかテーマ性というか、そういったものも考えてしまうようで。去年出たブルーノート・レコード移籍第一弾アルバム『ハーモニー』は、ペトラ・ヘイデンの歌声とハンク・ロバーツとルーク・バーグマンによる弦楽アンサンブルとコーラスをフィーチャーした1枚だった。その前に、ベースのモーガンとのデュオによるニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ演奏を収めた『エピストロフィー』が出てはいたけれど、このトリオによるアルバムはなし。

でも、世界各地で素晴らしいインタープレイを展開してきたこのトリオの音は何らかの形で絶対に記録しておきたい、と。フリゼール自身も強く願っていたようで。ついに満を持して、このごきげんなトリオによるスタジオ・アルバムが制作されることになった、と。それが本作『ヴァレンタイン』だ。ライヴ盤ならば何枚でも出せそうなところを、あくまでもスタジオ・アルバムにするところが、またなんともフリゼールらしいというか…。

今回も前作同様、プロデュースはリー・タウンゼンド。フリゼールの地元、オレゴン州ポートランドにあるタッカー・マーティンのスタジオ、フローラ・レコーディング&プレイバックで録音された。

全13曲、大半がフリゼールの自作曲だけれど。随所に挟まるカヴァー曲がなんとも彼らしい。オープニングを飾るのはマリ音楽の重要人物、ブバカール・トラオレの「ババ・ドラメ」(…ドレイム? どう読むの? わかりません)だ。以前、マッコイ・タイナーのアルバムでもベラ・フレックやデレク・トラックスとの共演でカヴァーしていたっけ。

加えてビリー・ストレイホーン作品「ア・フラワー・イズ・ア・ラヴサム・シング」や、ソニー・ロリンズも『ウェイ・アウト・ウェスト』で取り上げていた1930年代のカントリー・チューン「ワゴン・ホイールズ」。これはフリゼールがよくライヴで「シェナンドー」とのメドレーで演奏したりしている曲で、かつてヴァイオリニスト、ジェニー・シェインマンとの共演もあった。

さらに、去年の来日公演でも聞くことができたバート・バカラック・ナンバー「世界は愛を求めてる(What the World Needs Now Is Love)」、そしてエンディングはトラディショナル・プロテスト・ソング「勝利を我等に(We Shall Overcome)」。

その他、2000年の『ゴースト・タウン』収録の「ウィンター・オールウェイズ・ターンズ・トゥ・スプリング」や1997年の『ナッシュヴィル』収録の「キープ・ユア・アイズ・オープン」といったかつての自作曲の再演も興味深い。このトリオの魅力がより際立つ感じ。

ちなみに、今日の動画はアルバムのヴァージョンではなく、7月にこのトリオがマスクしながらブルックリンの屋外で披露した「世界は愛を求めてる」のライヴ・パフォーマンスを。最後ブチッと切れちゃうけど、そこはそれってことで。

やっぱ、この人たち、また生で見たいです。そういう日々が一日も早く戻って来てくれることを心から願いつつ…。

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© 2020 Kenta Hagiwara