Disc Review

Rhythm of the World / The Cowsills (Omnivore Recordings)

リズム・オヴ・ザ・ワールド/ザ・カウシルズ

牛も知ってる…。

あ、いや、ごめんなさい。1960年代後半、故・大橋巨泉さんが毎週土曜の午後に司会していたテレビ洋楽番組『ビート・ポップス』でこのバンドを紹介する際、必ず“牛も知ってるカウシルズ”と言ってたもんで(笑)。こらえきれずについ書いちゃいました。

でも、仕方ない。ある年齢以上の洋楽ファンは、カウシルズと聞くと条件反射的に“牛も知ってる…”と口走ってしまうわけですが。そんな牛も知ってるカウシルズの新作です。

ご存じ、パートリッジ・ファミリーの元ネタとも言うべきファミリー・グループ。1965年にJoDaレコードからデビューしたときは長兄のビル(ギター)、双子のうちのひとりなので次男なのか三男なのかよくわからないボブ(ギター)、五男のバリー(ドラム)というカウシル3兄弟がメンバーだった。ほどなく六男のジョン(ドラム)が加入して、バリーがベースに。ありがちなファミリー・グループと違って彼らはヴォーカルだけでなく自分たちで演奏まですることが特徴だった。

当初、ヒットチャート的にはまったく鳴かず飛ばず。その後、マーキュリーを経てMGMレコードに移籍したあたりでお母さんのバーバラが加入。この編成でレコーディングした「雨に消えた初恋(The Rain, the Park & Other Things)」が全米2位に達するヒットを記録してスターの座について。その後、末っ子である妹スーザンや四男のポールも加入して着実にヒットを重ねていった。

この人たち、日本では1967年の大ヒット「雨に消えた初恋(The Rain, the Park & Other Things)」だけのワン・ヒット・ワンダー的な扱いを受けてわりとスルーされがちだったりもするのだけれど。他にも1968年の「インディアン・レイク」とか1969年の「ヘア」とか、ごきげんな全米トップ10ヒットがあるし。「ウィー・キャン・フライ」「イン・ニード・オヴ・ア・フレンド」「プア・ボーイ」とかも素敵だし。

1967年から1970年までの間に5作のオリジナル・アルバムを出していて、どれもけっこう充実した仕上がり。アーティ・コーンフェルドやトニー・ロメオといった優れたソングライターたちの助けも借りつつ、オリジナル曲も交えて、兄弟姉妹ならではのふくよかなコーラス・ハーモニー満載の1960年代サンシャイン・ポップ系というか、ハーモニー・ポップ系というか、日本で言うところのソフト・ロック系というか、その種の名曲・名演を数多く残してきたグループなわけです。

が、1972年には活動停止。いったん解散してしまった。兄弟姉妹それぞれバラバラの分野でバラバラの活動に入っていったのだけれど。1978年にポール、ジョン、バリー、ボブ、スーザンという顔ぶれで再結集。アルバム『コカイン・ドレイン』をレコーディングしたこともあった(これ、当時はあえなくお蔵入りしてしまったものの、2008年にボブが持っていたアセテート盤からの板起こしという形でめでたく世に出ております)。

その後、1990年、ボブ、ポール、ジョン、スーザンという4人でカウシルズを再結成。ツアーに出たり。1994年にパワー・ポップ・ファンの間で人気を博している「イズ・イット・エニー・ワンダー?」という名曲をリリースしたり。その曲を含むアルバム『グローバル』を1998年にリリースしたり。

近年はタートルズ(なんと今や、アーチーズとかのヴォーカルでおなじみ、ロン・ダンテがなぜだか加入してフロント・ヴォーカルとして活躍中)が主催して、往年のポップ・アーティスト(ゲイリー・パケット、バッキンガムズ、アソシエーション、ヴォーグス、クラシックス・フォー、ボックス・トップス、グラス・ルーツ、スリー・ドッグ・ナイトのチャック・ネグロンなど)が勢揃いするパッケージ・ショー“ハッピー・トゥゲザー・ツアー”にちょいちょい顔を見せたりもしている。

ジョンはご存じの通り、2000年以降、マイク・ラヴとブルース・ジョンストンが率いるビーチ・ボーイズのメンバーになってツアー生活に明け暮れている。ビルとバリーは他界。なもんで、今、カウシルズというと主にボブ、ポール、スーザンの3人のことみたい。というわけで、その顔ぶれ、3人編成の最新版カウシルズによる新作アルバムがこのほどめでたくリリースされた、と。タイトルは『リズム・オヴ・ザ・ワールド』。スタジオ・アルバムとしては前述、1998年の『グローバル』以来ということで、24年ぶりだ。2年くらい前から新曲がちょこちょこ先行公開されたりしていたけれど、ようやく全編が世に出ました。全曲、ボブ、ポール、スーザンが絡んだオリジナル曲というのもうれしい。

スーザンは1980年代以降、ドワイト・トウィリーとかスミザリーンズとかフーティ&ザ・ブロウフィッシュとかのバック・コーラスをやったり、バングルスのヴィッキー・ピーターソン(ジョン・カウシルの奥さま)とコンティネンタル・ドリフターズとかサイコ・シスターズとかを結成してツアーしたりレコーディングしたり、ソロ・アルバムを出したりしていることもあり、今でもそこそこ現役感あり。dBズのピーター・ホルサップルと結婚していたこともあったっけ。ハリケーン・カトリーナでおうちを無くしたり、いろいろ大変だった時期もあるようだけれど、スタートが早かったこともあってキャリア半世紀以上とはいえまだ60歳代前半だ。ボブとポールのほうはともに70歳代前半ではあるけれど、思いのほか若々しい。1960年代のサンシャイン・ポップの感触を身体で覚えている世代ってこともあって、曲作りにヴォーカルに、手堅いパフォーマンスを聞かせている。

まあ、もちろん曲のスタイルとしてはちょっと古いというか、新しいとしても1980年代どまりみたいな感じではあるものの、それがむしろ今の時代にうれしい。昔から売り物だった彼らならではのコーラス・ハーモニーもふんだん。歌詞のメッセージも真摯。社会派。正直なところ、あんまり期待しないで朝のお散歩のおともとして聞いてみたら、かなり楽しい時間が過ごせました。今月下旬、国内盤(Amazon / Tower)も出ます。

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