ヒーローズ&ゴッズ/ラサーン・パターソン
先日、このサイトで紹介したジミー・ヴォーンの新作も8年ぶりだったけど。こちらも8年ぶり。2011年の『ブルーフォリア』以来、8年ぶりにラサーン・パターソンの新作フル・アルバムが出た。通算7作目。
『ブルーフォリア』では自ら打ち込みを手がけたエレクトロ・ファンクっぽいアプローチが話題を呼んだけれど、今回はその路線は抑え気味。トリーナ・ブラッサードやバイ・オール・ミーンズのマイクリン・ロデリックが的確なコーラスを提供した「ロック・アンド・ロール」では打ち込みと生演奏とを面白くミックスしながら新味を追求したりしているし、ハウスっぽい「ソルジャー」とか、エレクトロ風味の「シリー・ラヴ・フール」とかもアルバムにいい刺激を与えてはいる。バラエティ豊かなミックステープを聞いてるような気分。
けど、この人の場合、もともとの志向性がヴィンテージ寄りなわけで。ルーサー・ヴァンドロスの「ドント・ユー・ノウ・ザット」のカヴァーなども含めて、今回はむしろデビュー時に近いオールド・スクールっぽい路線を基調に無理なくキメている感じ。アシュフォード&シンプソンみたいだったり、アース・ウィンド&ファイアみたいだったり、エムトゥーメみたいだったり、ボビー・ウーマックみたいだったり、アル・グリーンみたいだったり…。80年代のR&Bフィールを下敷きに、70年代のスウィート&メロウ路線へとちょこちょこ箸を延ばしながら、とびきりロマンチックな歌詞を綴る的な。
ぼくのような世代のリスナーが聞いていて心地よいのは、やっぱりそっち。アルバム冒頭を飾るポップなミディアム・ソウル「キャッチ・ミー・ホエン・アイ・フォール」とか、ジョイを共作者/バック・コーラスに迎え、親友レイラ・ハサウェイにシンセ・ソロをまかせたメロウ・グルーヴ「ブリング・イット・ダウン」とか、先行リード・トラックとしてストリーミングされていた必殺スロー「セント・フロム・ヘヴン」とか、たまらんです。もともと子役として活躍を開始した人(今年でもう芸能生活35周年だとか)だけに、ヴォーカルの表現力というか、歌心も安定しているし。
この8年の間に、特にR&Bシーンではずいぶんといろいろな流行り廃りがあって、いろいろな個性が出たり消えたり…。でも、まあ、97年にこの人がデビューしたころ以上にレトロ・ソウル/ネオ・ソウルっぽい動きへのシーンの需要は確実に増していて。そういう意味ではブランク長くても特に違和感なし。むしろ、いいタイミングでの復活リリースだったかも。