アウト・オヴ・ザ・ブルース・ツアー/ボズ・スキャッグス(2019年5月7日、東京・渋谷オーチャード・ホール)
やっぱボズはいいなぁ。5月5日の仙台を皮切りに14日の名古屋まで、現在、鋭意日本ツアー中のボズ・スキャッグス。5月7日の東京・渋谷オーチャード・ホール公演を見た。プレミアム・メンバーズ優先予約で2列目をゲットして、前回の来日のときに買ったボズTシャツを着込み、気合いたっぷり、いざ出撃! ごきげんに楽しかった。盛り上がった。
インタビューなどを読む限り、ボズ本人は思いきりいやがっているようだけれど、近年は“ヨット・ロック”とかいう切り口の下、別角度から改めて注目が集まっているらしく。若い世代のお客さんも多いのかなと思っていたら、全然そんなこともなく。間違いなく『シルク・ディグリーズ』から『ミドル・マン』の時期、リアルタイムでボズを聞きまくり、そのときと同じ熱さをもって今なお彼を支持し続けているのであろう世代のファンがみっちり客席を埋め尽くしていた。これはこれで素晴らしいなと思った。
ポップ音楽の業界には、なぜかいまだ、若い世代に響かない文化はダメ、時代遅れ、みたいなイメージが短絡的に幅を利かせているようなのだけれど。ひと昔前のマーケティング的視点以外の理由でその正当性を証明することって、果たしてできるのだろうか。そんなイメージ、まやかしだとぼくは思っている。
まあ、この話を掘り下げていくと無駄に長くなりそうなのでやめときますが(笑)。時代とともに変わり続けることもポップな在り方ではあるけれど、時流に惑わされることなく、あえて同じ“型”を貫き続けることも、それはそれでポップ・ミュージックの大事な在り方のひとつだ。間もなく75歳を迎えるボズも、今回、そんなことを雄々しく、力強く、ぼくたちに見せつけてくれた気がする。前述したような“旧友”的オーディエンスが熱く迎えるなか、 70〜80年代の代表曲群を往年の黄金アレンジのまま怯むことなく披露し、さらに近年よく取り組んでいるブルースの伝統に根ざしたタイプの楽曲を真っ向から演奏し…。
歌声も問題なし。ほんのたまに、高音部がかつてに比べると厳しそうでファルセットに逃げたりもしていたが、そのファルセットのピッチもばっちりで。まさに年の功としか言いようのない、リラックスした、ソウルフルなノド声ヴォーカルを堪能できた。70代半ばなのに。すごいおじいちゃんだなぁ…!
ウィリー・ウィークスを含むバックの面々も、少々こぢんまりしてはいるものの的確な演奏を展開。むりやり若ぶって最先端の音作りのノウハウを拝借するとか、中途半端な年寄りアーティストが時折やってしまいがちな弱気なアプローチは皆無だった。堂々とジジイ趣味を全開にしながら極上のアダルト・コンテンポラリー・サウンドを聞かせてくれた。もちろん、この種の音楽も、かつては“若さ”の象徴だったりしたことも確かで。それが時の流れとともに成熟し、変質し、昨日今日の若造には絶対に実現し得ない渋い世界観にまで到達し、今なおぼくたちを圧倒してくれている…という。
こういう“現役感”の発揮の仕方もあるってことだ。
必殺の演奏曲目は——(セットリストあり。ネタバレ注意)
で、ここから演奏曲目に関するネタバレを含むパートになるので、これからコンサートを楽しむうえで、そういう情報を知りたくない方は読まないでいただきたいのだけれど。
セットリスト的には、アンコールも含めて『シルク・ディグリーズ』から7曲、『ミドル・マン』から2曲、映画『アーバン・カウボーイ』のサントラから1曲、『ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン』から1曲、今のところの最新作『アウト・オヴ・ザ・ブルース』からボビー・“ブルー”・ブランドのカヴァー「ザ・フィーリング・イズ・ゴーン」を含めて4曲、いつもアンコールで披露しているらしきチャック・ベリーのカヴァーが1曲(「ユー・ネヴァー・キャン・テル」!)、プラス、熱いスタンディング・オヴェイションに応えて行なわれた予定外っぽい2度目のアンコールで『ディグ』から1曲。
オープニング・ナンバーの「ジョジョ」は、なんとなく、そーっと、ていねいすぎる感じでスタートしたのでちょっと心配したものの、曲を重ねるごとにボズもバンドも勢いを増し、特にブルースに回帰した最新作からの曲を演奏するパートで、ボズ自身もリード・ギターを弾き始めてからはぐっといい感じに。ボズはカッティングしているときはフラットピックを使っているのだけれど、ソロに入ると右手の人差し指でピックを押さえて手のひらにしまい、親指と中指でばきばき弾く。なんかその様子が年季の入ったブルースマンっぽくて、やけにかっこよかった。
“アウト・オヴ・ザ・ブルース・ツアー”と銘打っていながら、全体的にはさっきも書いた通り『シルク・ディグリーズ』中心のセットリスト。アダルト・コンテンポラリーな味が全編の基調になっているわけだが。それでも、最高潮に盛り上がったのは間違いなくアンコールで1969年の本格的ソロ・デビュー盤からフェントン・ロビンソン作の必殺ブルース・チューン「ローン・ミー・ア・ダイム」をぶちかました瞬間だった。思えば、ぼくたちお古いロック・ファンの多くは50年前に発表されたこの曲でボズのとりこになったのだ。まさしく半世紀のひとめぐりってやつを改めて思い知った瞬間でありました。
以下、5月7日のセットリストです。先日、ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェスで演奏したセトリとかと基本、共通している感じだけれど、「ウィー・アー・オール・アローン」は間違いなく日本へのスペシャル・プレゼントでしょう。この曲だけはボズもギターを抱えず、いさぎよくバラード・シンガーに徹しつつ、しっとり歌い上げておりました。
「ハーバー・ライツ」も泣けた。気持ちが一気に70年代へ舞い戻った。でも、ウィリー・ウィークスには申し訳ないけど、ベースはデヴィッド・ハンゲイトがレコードで聞かせた一世一代の超リリカルなラインのまま味わいたかったかも。なんて、とんでもなく贅沢なクレームですが…(笑)。
1. Jojo
2. It's Over
3. Rock and Stick
4. The Feeling Is Gone
5. I've Just Got to Know
6. Radiator 110
7. Harbor Lights
8. Georgia
9. Breakdown Dead Ahead
10. Look What You've Done to Me
11. Lowdown
12. Lido Shuffle
Encore:
13. What Can I Say
14. Somebody Loan Me a Dime
15. We're All Alone
16. You Never Can Tell
Encore 2:
17. Thanks to You