Disc Review

Funky Flag / Masayuki Suzuki (Epic/Sony)

2019.03.13

FunkyFlag

ファンキー・フラッグ/鈴木雅之

ぼくがはじめて鈴木雅之の生の歌声に触れたのは40年前。まだメジャー・デビュー前だったシャネルズを懐かしの新宿ルイードへ見に行ったときのことだ。当時、ぼくは出版社勤めのサラリーマン編集者。担当していた単行本の表紙をよくお願いしていたイラストレーターの永井博さんから、「萩原くん、ドゥーワップ好きなんだよね。だったら、面白いグループがいるから見に行こうよ」と誘っていただいたのがきっかけだった。

噂は早くから耳にしていた。顔を黒く塗って往年のドゥーワップをカヴァーしまくる、なかなかしぶといグループがいるらしいよ、と。加えて、歌声も知ってはいた。78年にリリースされた大滝詠一のアルバム『レッツ・オンド・アゲン』に彼らが変名で参加していたおかげだ。が、まだまだ一般的には知る人ぞ知る存在。ルイードの客席にはテーブルを並べる余裕もあり、そこそこゆったり見ることができる状態だった。

メンバー全員が勤め人だったせいか、やけに遅い時間からライヴがスタート。ステージに現われた彼らはおそろいのスーツに身を包み、往年の黒人ヴォーカル・グループをほうふつさせる独特の振り付けを交えながら、次々と50年代、60年代の名作ドゥーワップをカヴァーしていった。コースターズの曲を歌うとあっちのテーブルの客がわーっと盛り上がり、レイズの曲をやるとこっちのテーブルが盛り上がり…。なんだかR&B/ドゥーワップ愛好会の集いのようで、やけに楽しかったことを覚えている。

何よりもぼくの耳を惹きつけたのはリード・シンガー、鈴木雅之の存在感。声質も、歌い回しも、仕草も、風貌も、すべてが魅力的だった。黒人音楽に対する深い深い愛情と、敬意と、限りない憧憬とが、歌声からきっちり伝わってきた。まあ、実際のところ、シャネルズはコーラス・ワークも思いきりヘタくそだったし、演奏もおぼつかなかった。が、こと鈴木雅之の歌に関してだけはすごかったのだ。かっこよかったのだ。アマチュア・バンドのシンガーにこれほどショックを受けるなんて。学生時代に藤沢の青少年会館の会議室で、まだアマチュアだった桑田佳祐を見て以来の経験だった。

ドゥーワップ・ファンが集うコンサートという、ある意味とことんマニアックな場で初めての出会いを体験したせいだろうか、ぼくはデビュー以降のシャネルズ/ラッツ&スターのたどった、ある種“親しみやすすぎる”歩みに、正直言ってとまどいを感じていた。それは事実だ。が、鈴木雅之の歌声がすべての不満をなぎ倒した。「ランナウェイ」や「街角トワイライト」など、井上大輔氏のペンによるシャネルズの初期シングルのような、ちっともドゥーワップでも何でもない、むしろデル・シャノンとかジョニー・ティロットソンとか、そういう懐かしの白人シンガーっぽいオールディーズ調の作品を歌いながら、しかし鈴木雅之はいつも黒かった。顔が黒塗りだったせいばかりじゃない。歌声そのものに黒さが染み込んでいた。

ラッツ&スター時代を経て、86年、ソロ・シンガーへ転身。黒塗りをしなくなった鈴木雅之は、大沢誉志幸、小田和正、松尾清憲、安部恭弘、槇原敬之など、一見畑違いの、むしろ叙情的な持ち味のソングライターたちの曲を多く取り上げながらも、変わらず黒くファンキーな魅力を発散し続けた。ソウルものが好きな日本人アーティストの場合、大方は音像もメロディも歌詞も総動員しながら憧れの“黒さ”めがけて邁進するものだ。が、鈴木雅之はそんなふうにちまちま外堀を埋めたりしない。まっすぐ歌うだけ。菊池桃子とデュエットしようが、森山直太朗をカヴァーしようが、彼は歌うだけでどんな曲でも一気にソウルフルに変身させた。声の出し方。息づかい。すべてに地元である東京・大森のストリートで鍛え上げられた独自の黒さがみなぎっていた。

そんな鈴木雅之から、去年、ニュー・アルバムのために1曲プロデュースしてくれないかというオファーをいただいた。そりゃやるでしょ。ともに大滝詠一門下生を自認する者どうしでもある。やらないわけがない。今回リリースされた新作アルバム『Funky Flag』は、1曲ごとに小西康陽、冨田恵一、鳥山雄司、本間昭光、松尾潔、布袋寅泰、高見沢俊彦、西寺郷太ら多彩なプロデューサーを立てた仕上がり。その中にぼくも混ぜていただいた。光栄すぎる。

他のプロデューサーのみなさんがどんな曲を用意しているのか、まったくわからない状態での作業だったのだけれど。とりあえず、これまで鈴木雅之がやっていそうでやっていなかった、きっと今回も他の方がやりそうにない、でも、やったら絶対にごきげんになるはずのラテン・ロック、ぶちかましてみた。作詞はいとうせいこう。作曲・編曲はフラッシュ金子。プロデューサーとしてのぼくにとってのAチームだ。さらに、斎藤誠、大儀見元、澤田浩史、河村“カースケ”智康、中島トオル、アマゾンズ、ビッグ・ホーンズビーら最強の仲間たちにも集まってもらい、生のグルーヴ炸裂のえぐい1曲が完成した。大滝ファンならば絶対にニヤリとするであろう小ネタも忍び込ませてみた。それがトラック8の「どんすた」。これ、自信作です。まじ。

でも、他のプロデューサー諸氏の曲も全部、たぶんそれぞれの自信作って感じの仕上がりで。ファンキーなダンス・チューンあり、アダルト・コンテンポラリー・バラードあり、ニュー・ジャック・スウィングあり、グループサウンズものあり…。各プロデューサーがやりたい放題、好き勝手にフルスウィングしまくった感じのとてつもなく振り幅の広い雑多な音世界を、しかし鈴木雅之ならではの屈強の歌声がずばっと貫き、ひとつのアルバムの中に無理なく共存させている。

すごいシンガーだなと思い知りました。改めて。

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