テイルズ・オヴ・アメリカ/J.S.オンダラ
J.S.オンダラって読みでいいのかな。なんだか、こいつ、すごい新人かも。生まれはケニアのナイロビ。現在26歳。ティーンエイジャーのころ、ガンズ・ン・ローゼズの「ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア」にノックアウトされたそうで。その段階ではオンダラくん、この曲をガンズのオリジナルだと思い込んでいたらしい。
が、友達から、これはボブ・ディランって人が作った曲のカヴァーなんだぜ、と聞かされ、「誰だよ、それ。知らねぇよ。そんなふざけた名前のやつ、いねぇだろ。ウソつくんじゃねーよ。賭けてもいいぜっ」と答えたというから、かわいい。もちろん彼はその賭けに完敗。でも、面白いもので、その賭けをきっかけに、オンダラくんはすっかりディランのとりこになった。
朝、学校に行くためのバス代を母親からもらい、でも、実際は学校をサボって、バス代使い込んで地元のインターネット・カフェに入り浸り。ディランの楽曲を片っ端から頭に叩き込み、米フォーク音楽の歴史を歴史を調べまくり、仲間内からは“変なやつ”と思われ始めたという。詞や曲も自分で書き始めた。
やがて、グリーンカード抽選で米国永住権を手にしたオンダラくん。2013年、20歳のときに米国へとわたり、ミネソタ州ミネアポリスに住んでいる叔母さんのところに転がり込んだ。ミネソタと言えば、ディランの故郷だ。絶好のシチュエーションだった。もともとあまり裕福な家庭の出ではなかったこともあり、ナイロビでは楽器を手に入れることができなかったが、ミネソタに来てからはギターを手に入れ、ネットを通じて独学。バンドを組んでツアーに出たいとも思っていたようだが、なかなか仲間ができず、結局はソロでの活動に落ち着いた。
レトロなスーツに身を包み、ミネアポリスのオープン・マイクなどにも積極的に参加。YouTubeにディランや、ニルヴァーナ、ニール・ヤングらのカヴァーを配信するようになった。それが地元のDJの目にとまり、徐々に知名度を上げながらレコード会社との契約が成立。去年あたりからシングルを何曲かリリースし続けて、今月、めでたくファースト・アルバムが登場した、と。
“アメリカの物語”と題された1枚で。21世紀の米国に暮らす若者の内省が綴られている。アウトサイダーとしての視点から見たアメリカン・ドリーム。もちろん移民問題に対する当事者ならではのメッセージも。
作風も面白い。歌声もユニーク。米国ネイティヴの若者以上の情熱みたいなものがなにより胸に来る。今のところは往年のトルバドール・スタイルというか、アコースティック・ギターを弾きながら初期のディランのように歌っているけれど、いつかディランのようにエレクトリックに挑むかも…みたいな本人の発言も。今後が楽しみな個性です。