Disc Review

Other Covers / James Taylor (Hear Music)

アザー・カヴァーズ/ジェイムス・テイラー

今度の日曜日、Naked LoftでのCRT、お時間あったらぜひお越しくださいね。新刊『ロック・ギタリスト伝説』の出版を記念してのギター漫談ナイトです(笑)。

で、そんな『ロック・ギタリスト伝説』でも取り上げさせてもらったぼくのアイドル・ギタリストのひとり、ジェイムス・テイラーの新作が出たのでピックアップしておきます。去年リリースされたアルバム『カヴァーズ』の続編的ミニ・アルバム。『カヴァーズ』同様、優れたシンガー・ソングライターであるJTのシンガーとしての力量、ストリーテラーとしての味わい深さ、そしてアレンジャーとしての閃きなどをとことん味わうことができるカヴァー集です。

シンガー・ソングライターというと素朴に、ナイーヴに、非商業的に、私的な体験をナチュラルな生ギターに乗せて歌う、みたいなイメージがあるけれど。当然ながら、それが聞き手という他者との関係の中で一定以上の力を持つためには、底辺にプロの表現としての完成度を備えていなければならないわけで。

だから空前のシンガー・ソングライター・ブームが巻き起こった70年代初頭、次々とシーンに登場してきたシンガー・ソングライター群はあっという間に淘汰された。私的告白もすぐに種が尽き、多くが袋小路へと迷いこんだ。生き残れたのは、プロとしての豊かな表現力と音楽性を有する一握りの者たちだけ。ジョニ・ミッチェル、ポール・サイモン、ニール・ヤング、キャロル・キング…。

そしてこの人、われらがJTだ。彼の場合、レパートリーのほとんどは自作曲ながら、アルバムを出すたび1曲くらいずつカヴァー曲が収められていて。これがまた素晴しかった。モータウンR&Bからビートルズ・ナンバー、トラディショナル、カントリー、ジャズ・スタンダードまで。それらを独自の鼻にかかった歌声でファンキーに、ジャジーに歌い綴り、まるで自作曲のように表現してしまうセンスと力量には常々目を見張らされてきた。

つまり、ソングライターとしてだけでなく、シンガー、あるいはストーリーテラーとしての力が並じゃなかった、と。だからこそブームが過ぎ去ったあとも、JTは現在までえんえん根強く支持され続けてきたわけで。そんなJTカヴァーの魅力を堪能できるフル・アルバムが前作の『カヴァーズ』だった。R&B、カントリー、フォーク、ロックンロールなど幅広いジャンルの名曲を見事にJT節へと消化/昇華してみせていた。

で、その続編としての本ミニ・アルバムもまさに同じ手触り。スティーヴ・ガッド、ジミー・ジョンソン、ラリー・ゴールディングス、マイケル・ランドーら、腕利きミュージシャンをバックに従えた全7曲。映画『オクラホマ』にロジャース&ハマースタインが提供した「美しい朝(オー・ホワット・ア・ビューティフル・モーニング)」、シルエッツのドゥーワップ曲「ゲット・ア・ジョブ」、チャック・ベリーの「メンフィス」、トム・ウェイツの「シヴァー・ミー・ティンバーズ」、トラディショナル「ワズント・ザット・ア・マイティ・ストーム」、ウィルソン・ピケットの「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」、エディ・フロイドの「ノック・オン・ウッド」。

全部かっこいいけど、個人的には日曜の朝にも似合いそうな洗練されたコード進行へと生まれ変わった「メンフィス」と、リー・ドーシーの「ウォーキング・イン・ザ・コール・マイン」なども引用しながらひょうひょうと歌われる「ゲット・ア・ジョブ」、トム・ウェイツとはまた違った切なさに胸がしめつけられる「シヴァー・ミー・ティンバーズ」あたりにぐっと来てます。

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