Disc Review

Born To Run: 30th Anniversary Edition / Bruce Springsteen (Columbia)

明日なき暴走:30周年記念エディション/ブルース・スプリングスティーン

いやいや、ずいぶんほったらかしてしまって。先月あたりまでは、早く更新してくれ!系の、お叱りメールが多く届いていたんですが、今月に入ったあたりからは、何かあったんですか? 大丈夫ですか?系の、ご心配メールが多くなりました。すみません。何もないです(笑)。近ごろのインターネットの日記パワーというか、ブログ・ブームというか、そういうの全般に漂っている“俺が俺が”的エナジーのほとばしりに、ちょっとアテられちゃった感もあって。少しネットに距離置いていた感じは確かにあるものの。ようやく慣れてきたし。久々にバカンスもとったし。また、ちょこちょこ時間を見て更新するようにします。

この3日、NHK-BSでロック50周年の特番ってのをやっていて。ぼくが司会をつとめたのだけれど。面白かった、盛り上がったという感想をたくさんいただきました。ありがとうございます。打ち合わせも含めて、けっこう時間がかかった仕事だったので、うれしいです。もちろん中には、なんであれがかからないんだ、わかってねーなケンタは…的なご意見もありましたが。基本的に“ありもの”の映像に限定されちゃうわけで。NHKが現時点で、物理的・権利的に放送できる状態で持っている映像からのチョイス。その辺、斟酌してやってください。それなりに貴重な映像もあったし、ぼくも楽しみました。

やー、でも、やっぱりそういう意味ではラジオのほうが断然いいね。正規盤なら何でもかけられるもんなぁ。正規盤以外でも何でもかけられるCRTはもっと楽しい場だったり…(笑)。間もなくCRT忘年会もあります。お近くの方はぜひご参加ください。

で、久々のピックアップ・アルバムですが。このブランクの間に、ボブ・ディランの『ノー・ディレクション・ホーム』を筆頭に、とてつもない盤がたくさん出ちゃいましたが(笑)。その辺は全部すっとばして。ブルース・スプリングスティーンです。これはすごかった。先月、輸入盤を買って以来、雑誌、ラジオ、その他のぼく担当のコーナーでも大騒ぎちゅう。もうちょいで国内盤が出る。DVD2枚とCD1枚がそれぞれ別デザインの紙ジャケに収められ、未発表写真満載のブックレットとともにロング・ボックスに詰め込まれたスペシャル仕様。特に2時間超のライヴDVDがとてつもない。75年、ロンドン・ハマースミス・オデオンでのスプリングスティーンとEストリート・バンドは、ほんとにすごい。圧倒的。かっこいい。とびきり熱くて、とびきり切ない。この瞬間を生で体験できなかった地の利の悪さを恨むばかりだ。

これが彼らの本当の絶頂の瞬間なのかも。ブルースが日本で初ライヴを披露したのは、このときから10年後の85年。ぼくも代々木体育館に通いました。そんなぼくも含めて、あのとき日本のロック・ファンの大多数がようやくブルースのライヴを生で本格体験できたわけだけれど。あれはもう別物だったのかも。ヘタすりゃ、すでに老後だったのかも。この絶頂ライヴをDVDで追体験してから、ぼくたちは改めてスプリングスティーン再入門を果たすべきなのかも。

90分におよぶメイキングDVDのほうも実に面白い。現在のスプリングスティーンが、ストリングスをフィーチャーした「ジャングルランド」の別イントロ(!)を聞きながら、遠い昔に思いを馳せる光景とか、「凍てついた十番街」を改めて弾き語りながら、歌詞をひとつずつ解説していくシーンとか、実に興味深い。“Tenth Avenue Freeze Out”と歌いながら、首を振って「意味が分からないな」と苦笑いする表情がかわいいっす(笑)。車を運転しながら「俺はあのころ、人々はなぜ苦しまなければならないんだろうと、そのことばかり考えていた。答えが見つからなかった。今は答えがわかる。苦しまなければならないからだ」と語るくだりもぐっときた。30年の歳月を経て彼がどう成長したかを伝えてくれる。

今なおソングライターとして、パフォーマーとして、充実した表現を繰り出し続けるスプリングスティーンだが。もう当時の自分には戻れないことをきっちり認識したうえで、30年前に自らが作り上げた作品を半ば客観的に賞賛している姿が泣ける。輸入盤だと当然、DVDに字幕はないけど。国内盤にはちゃんと付くから、じっくり味わってほしい。メイキングDVDのほうには、73年、ロサンゼルスでのライヴ3曲もボーナス収録されている。これも“青さ”が胸に響くたまらない映像だ。

ただ、DVD2枚の充実ぶりに比べ、CDのほうはごく普通。75年リリースのオリジナル・アルバム通りの曲が最新デジタル・リマスターをほどこされて収められているだけだ。レア音源集『トラックス』が出たとき、この時期のものが少ないのはきっとあとから単独で出すつもりなのだろうと推測したものだが。今回、その期待は肩すかし。音質的には、充実したベスト盤『エッセンシャル』で聞かれたのとほぼ同質かな。とはいえ、あまりに音質がクリアになりすぎていて、かつてのダンゴ状態だったアナログ盤の音に慣れ親しんだ耳には奇妙に届くのは確か。もともと音の悪さでは定評のあった作品だけにうれしいような淋しいような。

とはいえ、音としての発掘はまるでなかったものの、まあ、これだけの映像がお披露目されただけで十分か。メイキング編では、これまで聞いたことがなかった別アレンジ、別テイクががんがん聞こえてくるし。かつてビーチ・ボーイズの映像作品『アン・アメリカン・バンド』に未発表音源が多数使われていて、見ながらぶっとんだときの感動を思い出した。こういう形、今後もっと増えるのかもしれない。

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