Disc Review

Proxy Music / Linda Thompson (StorySound Records)

プロキシー・ミュージック/リンダ・トンプソン

リンダ・トンプソン、11年ぶりの新作アルバムだ。ソロ・アルバムとしてはこれが5作目。こんなジャケットだから、えっ、ロキシー・ミュージックのカヴァー集? と、一瞬びびりましたが。

違いました(笑)。ロキシーではなくプロキシーというかプロクシーというか。つまり、代理人。文字通り“プロキシー・ミュージック〜代理人による音楽”という1枚です。

かつて1974〜82年、夫だったリチャードとの夫婦デュオで6作の素晴らしいアルバムを残したリンダさん。が、実は最初に妊娠した1972年ごろから喉頭の筋肉が締め付けられたり痙攣を起こしたりする神経障害“痙攣性発声障害”に悩まされるようになっていたらしく。最初のうちはなんとかうまく病気と付き合いながら活動を続けていたものの。やがて離婚して、デュオも解消。そのころからさらに病状も悪化して。

「これは進行性の病気なの。でも、最初の20年ぐらいはなんとか病気と上手に付き合っていくこともできたわ。60歳代になるまで、少なくとも調子のいい日はスタジオで歌うこともできたし…」

と語るリンダさん。つらい日々だったと思う。ただ、シンガーとして大切な“声”を失うのと引き換えに、彼女はソングライターとしての才能を深めていって。1985年にリリースした初ソロ・アルバム『ワン・クリア・モーメント』では大半の曲を自作。数年後にドリー・パートン/リンダ・ロンシュタット/エミルー・ハリスがカヴァーしてシングル・ヒットさせることになる名曲「テリング・ミー・ライズ」もここに収められていたっけ。

が、残念なことに病状は改善せず。その後17年間はオフィシャルなレコーディングから遠ざかるしかなかった。とはいえ、趣味のような形で音楽制作は続けていたようで。それを端から見ていた息子の、そして自らもシンガー・ソングライターであるテディ・トンプソンに背中を押される形で2002年、ヴァン・ダイク・パークスやルーファスとマーサのウェインライト兄妹なども参加したセカンド・ソロ『ファッショナブリー・レイト』でシーンに復活。

以降も『ヴァーサタイル・ハート』(2007年)、『ウォウント・ビー・ロング・ナウ』(2013年)とゆっくりしたペースでアルバムを重ねてきた。トンプソン家が勢揃いする形でレコーディングされた『ファミリー』(2014年)にも参加していたっけ。

そして現在。76歳を迎え、いよいよ自ら満足できる歌を自身の声で聞かせることが厳しくなってきたリンダさんは、テディとともに一計を案じた。それが“代理人による音楽”。リンダさんの家族や友人たちにはたくさんの才能あるヴォーカリストがいるのだから、リンダさんが書いた最新曲を彼らに代理で歌ってもらったら…?

ということで、リンダさんが思いついたという『プロキシー・ミュージック』なるダジャレのようなアルバム・タイトルの下、ご本人がロキシーのファーストをパロディにしたアルバム・ジャケットまで作成し、晴れて11年ぶりのリンダ・トンプソンの新ソロ作が完成に至ったのでありました。

招集されたのは、トンプソン家から息子のテディと娘のキャミ、ウェインライト家からルーファスとマーサ、双子のチャーリーとクレイグのリード兄弟によるザ・プロクレイマーズ、ザ・ウォーターソンズのマーティ・ウォーターソン&ノーマ・カーシー夫妻の娘さんであるイライザ・カーシー、そしてリンダさんお気に入りのシンガー・ソングライターであるジョン・グラントやレン・ハーヴュー、テディ・トンプソンがプロデュースしているドリー・フリーマン、キャミ・トンプソンがプリテンダーズのジェイムス・ウォルボーンと組んだザ・レイルズ、レイチェルとベッキーのアンサンク姉妹によるジ・アンサンクスなど、さまざまな兄弟、姉妹、夫婦、パートナーたち。元夫、リチャード・トンプソンも1曲、ギターで参加している。

透明な歌声を失った孤独な旅人のことを娘キャミが歌う「ザ・ソリタリー・トラヴェラー」に始まって。ローチ家、マッギャリグル〜ウェインライト家、ウォーターソン〜カーシー家、名門カッパー・ファミリー、そしてもちろんトンプソン家など、フォーク・シーンで活躍した様々なファミリーのことを息子テディのヴォーカルで綴る「ゾーズ・ダム・ローチズ」で締め。このラスト・チューンの“血と歌で結ばれた私たちを、誰が壊せるの?/私たちが大声で力強く歌っているとき、誰が私たちを奪えるの?”というリフレインがなんとも印象的です。

参加したミュージシャンそれぞれがそれぞれのやり方でリンダ・トンプソンというかけがえのない存在への愛を表明。リンダとテディも、彼ら“代理人”たちの個性を存分に尊重した楽曲を提供。かくして充実した新作がここに完成したのでした。個人的にはルーファス・ウェインライトの歌声をフィーチャーした「ダーリン・ジス・ウィル・ネヴァー・ドゥ」って曲がいちばんしみました。ジ・レイルズが歌う「マッドラーク」1曲だけ、バック・ヴォーカルにリンダさん自身の名前がクレジットされてます。

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