Disc Review

A Selection Of His U.S. Victor Recordings 1914-1941 / Ignacy Jan Paderewski (Naxos Historical)

ア・セレクション・オヴ・ヒズ USビクター・レコーディングズ 1914〜1941/イグナツィ・ヤン・パデレフスキ

うんと昔、出版社で翻訳小説の編集者をしていたことがあって。基本的にはドンパチ系B級クライム・ノヴェルみたいなやつを担当することが多かったのだけれど。たまーにマジな本も手がけた。ピアズ・ポール・リードの『ホロネーズ』って本もそのひとつ。30~50年代のヨーロッパを舞台に、没落したポーランド貴族の息子と娘が戦争に引き裂かれながら歩んだ人生を描いたものだったような…。自分で編集しておいて、詳しいこと忘れちゃいましたが。

もう30年近く前、あの本を編集しながら、ぼくは頭の中でずっとパデレフスキのピアノ演奏をイメージしていたものだ。もちろんショパン、ね。ベタだけど(笑)。子供のころ、うちにあった家庭のクラシックみたいなのでよく聞いてました。まあ、パデレフスキの場合は19世紀に黄金期を迎えた人で。時代的にも違うし。父親はポーランド貴族だったみたいだけど、別に没落したって話も聞かないし。でも、積極的に政治活動に関与していたこととか、何かで読んだりしていたもんだから。なんとなく激動のポーランドを舞台にした小説のBGMとしてぼくの頭が勝手に選び取ってしまった、みたいな。そんな感じかな。

というわけで、パデレフスキのビクター録音からのセレクションCD。ナクソス・ヒストリカルからお安く出たので、買っちゃいました。1914~41年というと、アメリカに移住して、ワイン作ったりして、と思ったらポーランドの首相になっちゃって、やがて演奏活動に復帰して、スイスに移住して、さらに政治活動に戻って…みたいな、もう彼にとって慌ただしい時期にあたるわけですが。収録されているのは基本的には演奏活動復帰時、20年代の録音。

この人の真価はもっと前の時代の演奏にある、というのが定説で。ピアノ・ロール集とかで当時の演奏の再現版を聞いたりすると、なんとなくそうなんだろうなと思ったりもするのだが。でも、やはり全盛期を過ぎてしまっているとはいえ、往年の輝かしい響きを失ってしまったと言われていたとはいえ、しかも20年代録音だけに音質も悪いとはいえ、本人演奏はやっぱいいっすね。60歳代ならではの境地ってのもあるのではないか、と。

SP盤では未発表だった音源もあり。ベートーヴェン、ショパン、リスト、シューベルト、メンデルスゾーン、ラフマニノフ、ワグナーなど、いい感じにキャッチーに演奏してます。マジソン・スクエア・ガーデンに2万人を集めてリサイタルをやったというエピソードも有名だけど。アメリカで人気があったのも納得です。

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