Disc Review

The Albums (4CD Clamshell Boxset) / Pilot (7T’s)

ジ・アルバムズ(4CDクラムシェル・ボックスセット)/パイロット

パワー・ポップ、いいよね!

とか言いつつ。このジャンル名、なんとも、こう、漠然としていて。パワー・ポップってどういう音楽なんですか? と質問されるたび、いや、まあ、要するにバッドフィンガーとかラズベリーズみたいなやつだよ、と雑に答えたりしているのだけれど。仕方ない。なかなか言語化しにくいのだ。切ないメロディとラウドなサウンドが交錯する、乱暴で、キャッチーな音楽…じゃ、まだ抽象的だし。

聞く人それぞれでパワー・ポップ観が違うというか。どうにでも解釈できるというか。お国柄が出るというか。そのせいで、英米におけるパワー・ポップと日本におけるパワー・ポップと。両者にけっこう違いがある。ソフト・ロックとかAORとかシティ・ポップとか、あの辺のジャンル名と近い。便利なようでいて、実は実体がよくわからない。

英米での定説としては、このジャンル名の言い出しっぺはザ・フーのピート・タウンゼントらしく。1967年のインタビューで自分たちの音楽のことをそう称したのがきっかけだという。なので、ざっくり定義すれば、ザ・フーのゴーン!とくるハード・ロック感と、ビートルズやビーチ・ボーイズの甘く流麗なメロディ・テイストと、バーズのジャングリーなギター・サウンドとをいい案配でバランスよく配合したポップ・ミュージック…と。それがパワー・ポップってことでいいのかも。

なんとなくイメージが確立したのは1970年代初頭で。ビートルズの音楽性をよりラウドにパワフルに展開したイギリスのバッドフィンガーや、アメリカのラズベリーズ、そしてトッド・ラングレンあたりが立役者。以降、チープ・トリック、ドワイト・トウィリー、ビッグ・スター、ドニー・アイリス、フレイミング・グルーヴィーズ、ルビヌーズ、ナック、ロマンティックス、ベイビーズ、ロックパイル、ジェリーフィッシュ、レッド・クロス、ポウジーズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、ワンダーミンツ、ウィーザーなどに受け継がれて…。

なので、ぼくとしてはですね、ラズベリーズとかトッド・ラングレンとかチープ・トリックのような米アーティストがビートルズら往年の英国ポップへ投げかけるまなざしと、ニック・ロウとかデイヴ・エドモンズのような英アーティストがビートルズの向こう側にあるエヴァリー・ブラザーズやバディ・ホリーら米国ロックンロールにアプローチする感触と。一見別モノとも思えるこの両者に通底する、こう、なんともポップな、でもどこか屈折をはらんだ“手触り”こそがパワー・ポップの正体ではないか、と。異論が多々あることは承知のうえで、そんなふうに考えております。

で、今日とりあげるこの人たち、パイロット。彼らも日本ではパワー・ポップの仲間としてくくられることが多かったりする。1970年代、ぼくもこの人たちの大ヒット曲「マジック」とか「ジャニュアリー」とか、あの辺の曲から、バッドフィンガーやラズベリーズのヒット曲群と同じ、痛快に突き抜けるポップ・フィーリングを感じ取っていた。同じような感覚の方、少なくないと思う。2007年と2016年に実現した夢の再結成来日公演もそういうファンに熱く支えられていた気がするし。この人たちだけでなく、メンバーのうち二人が一瞬在籍していたこともあるというベイ・シティ・ローラーズとか、メンバーのうち一人が脱退後に加入することになる10CCとか、あと、絶対に忘れちゃならないウイングスとか、そういう一連の英国ポップ・アクトもなんとなく同じパワー・ポップ観のもとで楽しまれていたものだ。

と、そんなパイロットが短いオリジナル活動期、1974年から77年の間に残した4作のアルバムを全部詰め込んだボックスセットが出た。つーか、8月に出てました。国内盤も。4枚組、全56曲。いやー、宝物だなぁ。ボーナス・トラックもいろいろ入っているけれど、これ、以前RPMから再発されたときに追加されていたボーナス曲とは内容が違う。前はデモ中心だったけれど、あのときなぜか入っていなかったアルバム未収録シングル音源とかが今回はいろいろ追加されている。なので、油断なりません。

ディスク1が1974年のファースト・アルバム『パイロット(From the Album of the Same Name)』。ジャケットに描かれているのは、ベースのデヴィッド・ペイトン、キーボードのビリー・ライオール、ドラムのスチュワート・トッシュだけれども、契約の関係でサポート扱いになっているギターのイアン・ベアンソンも、実際にはこの段階から正式メンバーだったらしい。プロデュースはアラン・パーソンズ。デビュー・シングル「ジャスト・ア・スマイル」、全米5位、全英11位まで上昇した必殺のパワー・ポップ・ヒット「マジック」が収録されている。今回のCDには、その「マジック」のシングルB面曲「ジャスト・レット・ミー・ビー」と、彼らがパイロットとしてデビューする前、スコッチ・ミストという名義でシングル・リリースしたドイツ産のバブルガム・ポップ曲「ラ・タ・タ」(超レア!)と、そのカップリング曲だったフォーキーな「パメラ」の3曲をボーナス・トラックとして追加。

ディスク2は1975年のセカンド『セカンド・フライト』。全米では87位どまりだったものの、全英ではナンバーワンに輝いた「ジャニュアリー」 を含む1枚だ。続くシングル「コール・ミー・ラウンド」も収録。アルバム曲だと個人的にはボサノヴァ調の「トゥ・ユー・アローン」とか、すっごく好きだった。1975年に再録音されて全米90位、全英31位にランクした「ジャスト・ア・スマイル」の新ヴァージョンもボーナス追加されている。前回のRPMからの再発には入っていなかったので、これはうれしい。

ディスク3は1976年の『モーリン・ハイツ』。なかなか思うように自分の曲を活かしてもらえないストレスもあったらしきビル・ライオールがここで脱退し、プロデューサーもロイ・トーマス・ベイカーに変わった1枚だ。メランコリックな味も付加された「レディ・ラック」や「ラニング・ウォーター」をはじめ、「カナダ」「ペニー・イン・マイ・ポケット」などシングル曲をいっぱい収録している。どれもヒットしなかったけど…(笑)。ビル・ライオールとデヴィッド・ペイトン、それぞれのソロ・シングル音源を2曲ずつボーナス収録。

で、ディスク4が1977年の『新たなる離陸(トゥーズ・ア・クラウド)』。スチュワート・トッシュも脱退し、デヴィッド・ペイトンとイアン・ベアンソンの二人になってしまった時期のアルバムだ。とはいえ、プロデュースにアラン・パーソンズが復帰。アルバムのオープニングを飾る「ゲット・アップ・アンド・ゴー」からペイトンならではのポップ・センスが炸裂している。シングル・カットされたものの結局ヒットしなかった曲ではあるけれど、個人的には「マジック」「ジャニュアリー」と並ぶパイロットの大傑作曲だと思っている。やはりシングルにもなったベアンソン作の美しいバラード「マンデー・チューズデー」もいい。アルバム曲としては「ライブラリー・ドア」とか「ワン・グッド・リーズン・ホワイ」とか「ゼアズ・ア・プレイス」とか「ジ・アザー・サイド」とか、やはりちょいメロウな曲がいい仕上がり。なのに、このアルバム、当時の所属レーベル、アリスタがもうパイロットへの興味を失っしまったらしく、なんとアメリカでは未発売のままだった。CD化もずっとされず、仕方ないのでペイトンとベアンソンが大半の曲を再録音したアルバムを2002年に出してしまったほど。2005年になってようやく日本独自にCD化が実現したものの、ある種悲運な1枚だった。今回も残念ながらボーナスはなし。まだ悲運は続いている感じ?

でも、珠玉の4枚がまとめてひとつの箱に入って再発されたのだから。悲運も晴れたかな。インタビューなども交えつつ的確に彼らの歩みを追った英文ライナーもうれしいです。ただ、以前のRPM盤にボーナスで入っていたデモ音源とかは今回入っていないので、あっちもまだ処分できないっすね。んー…。

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