Disc Review

Chicago at Carnegie Hall: Complete / Chicago (Rhino)

シカゴ・アット・カーネギー・ホール:コンプリート/シカゴ

これ、さすがにぼくはまだブツに手を出しておらず。今のところサブスクのストリーミングで楽しんでいる状態なのだけれど。

『シカゴ・アット・カーネギー・ホール:コンプリート』。1971年4月5日から10日まで、昼夜公演も含め計8回行なわれた歴史的なカーネギー・ホール公演でのライヴ音源をすべて、まるごと、最新リマスターでCD16枚に文字通り完全収録したボックスセットで。同年10月、そこから厳選された22曲をアナログLP4枚に収めてリリースした『シカゴ・アット・カーネギー・ホール』の、いちおう発売50周年記念デラックス・エディション的な形。

デラックスすぎるだろ(笑)。

2005年に米ライノ・レコードがオリジナルのLP4枚組をCD3枚に収め、さらにまるごと未発表音源を詰め込んだボーナス・ディスクを1枚付けて、メンバー監修によるリマスターを施して再発したことがあった。なので、きっとこのときのライヴ音源、もっとたくさん未発表のまま眠っているんだろうな、もっと出るといいな、とは思っていたけれど。まさか全部が一気に出ちゃうとは。さすがにたじろぐ。

さっき、今のところストリーミングで楽しんでいる、と書いたけど。それにしたって、なにせ16枚組。全214トラック。全長14時間半超。いきなり全編を一気に楽しむことなどできるはずもなく。ひと月ちょい前にサブスクで公開されたものの、空いてる時間にちょびちょび聞き続けて、ようやくつい先日、全部に耳を通すことができた。なので、とりあえず本ブログでも紹介しておきます。

この公演があった1971年4月と、その模様を収めたLP4枚組が出た同年10月までの間、同年6月には彼らの初来日も実現していて。そこでの盛り上がりは、これまたハンパなかった。その余韻もあいまって、オリジナルの『シカゴ・アット・カーネギー・ホール』は日本でも大いに話題になったものだ。

とはいえ、いつものことながら。豪華箱入りLP4枚組だったから。高くて。確か7000円だか8000円だかした記憶が…。当時高校生だったぼくには手が出せず。友だちのシノザワくんが勇敢にも購入したやつを貸してもらい、カセットに録って聞いていた。録音するだけでも時間かかったなぁ。その後、LP2枚組ずつに分けた2セットが出たり、ダイジェスト版の1LPものが出たり。いろいろあったけれど、ぼくは結局ずっとシノザワくんから借りて録ったカセットで愛聴していた。なので、ポスターとかブックレットとか、いろいろ入っていたオマケは借りたときに眺めたっきりだったっけ。それもまた懐かしい思い出だ。

日本では翌年、2度目の来日時に録音されて日本独自にリリースされた大阪公演のライヴ2枚組のほうが人気があった気もするけれど。ぼくは『…カーネギー・ホール』の演奏のほうがフレッシュで断然好きだった。なので、本当なら今回の箱を買って、高校時代LP4枚組を買えなかったリベンジを…とも思うものの。今回も結局、16枚組だけに2万4000円とかしちゃって。箱を買わずにストリーミングですませてます。今回もフィジカルにはブックレットとか付いているようだけど、当然未見。昔とおんなじ。情けない。でも、最近はまじ高価箱攻めにあっているし。日本でフィジカルを扱っているところもなぜだか少なくて、ライノとかに直接頼むしかなさそうだし。仕方ない。そう自分を律しております。んー、でも、いつまで律しておけるものか…。

このコンプリート作。まじすごいです。燃えます。そんなに出してどうすんの、誰が聞くの、と、ぼくも最初ちらっと思ったけれど。やはり、この時期のシカゴは最高だ。最強だ。

時期としては、サード・アルバム『シカゴⅢ』が出たあと。そのリリースをサポートするツアーの一環として行なわれた大規模なカーネギー・ホール公演だった。クラシック音楽以外のジャンルのアーティストがカーネギー・ホールで6日連続のコンサートを行なうのはこのときの彼らが初だった。すでに「クエスチョンズ67/68」「ビギニングス」「ぼくらに微笑を(Make Me Smile)」「長い夜(25 or 6 to 4)」「いったい現実を把握している者はいるだろうか?(Does Anybody Really Know What Time It Is?)」「自由になりたい(Free)」など、ヒット・シングルもあれこれ生まれていたころだ。「サタデイ・イン・ザ・パーク」はまだ。そのちょっと前までの、ポップ風味ちょっと抑え気味なシカゴ。右肩上がりの勢いで伸びゆく若きシカゴ。ロバート・ラム、ピーター・セテラ、テリー・キャス、ジェイムス・パンコウらの個性が実にバランスよく共存していた時期のシカゴ。抗えません。

伝え聞くところによると、プロデューサーのジェイムズ・ウィリアム・ガルシオがあれこれ、そうとううるさい指示を出しながらのライヴ・レコーディングだったようで。メンバーとしてはあまり自由にのびのびパフォーマンスできなかったらしい。なもんで、シカゴとしてはこのカーネギー・ホール音源、けっしていい印象を抱いてはいないということなのだけれど。

とはいえ、さすがはガルシオ。放っておくとロックっぽすぎる方向とかインプロヴィゼーション方面とかへ無軌道に脱線しがちだった当時の若きシカゴをうまいことコントロールしつつ、連夜のコンサートの模様をいい音質でとらえている。それが今回、ていねいなリマスターでまるごとよみがえっているわけで。素晴らしい。先述したボートラ入りのリマスターCD再発のとき同様、創設メンバーのひとり、トランペットのリー・ロックネインががっつり関与。アリゾナにあるロックネインのスタジオで、エンジニアのティム・ジェサップとともに1年がかりで40本に及ぶライヴ・レコーディング・テープをチェックしていったのだとか。

もちろん、全8公演、同じ曲が何度も演奏されたりはしている。たとえば「長い夜」とか6回演奏されているし、長尺な組曲「栄光への旅路(It Better End Soon)」も5回。でも、毎回セットリストは違うし、各プレイヤーのソロを含む演奏も違うし、テンションもそれぞれ違うし、臨場感たっぷり。「いったい現実を…」に至っては8回のステージ全部で披露されているのだけれど。その前のロバート・ラムのピアノによるフリー・フォーム・イントロは、長かったり短かったり、毎回いろいろな展開を見せていて興味深い。

かと思えば、オリジナルLP4枚組のラストを飾っていた強烈な「アイム・ア・マン」が、実は8公演中1回しか演奏されなかったということも、なんだか新鮮な発見だった。さらに初日、1971年4月5日のオープニング・チューンとして演奏された「流血の日(1968年8月29日)(Someday (August 29, 1968))」をはじめ、「リッスン」とか「孤独なんて唯のことば(Loneliness Is Just a Word)」とか「シャワーの時間(An Hour in the Shower)」と題された連作の5曲とか、この辺もまた8公演中それぞれ1回ずつしか演奏されていなくて。どれもオリジナルの4枚組LPには入っていなかった。まあ、大方はライノのボートラで世に出たのだけれど、「流血の日」だけは今回が初。これもものすごくうれしい。

1971年6月の武道館のことも思い出すなぁ。やっぱりシカゴは日本のロック黎明期に本物のロック的体験をぼくたちに生で届けてくれた大切な恩人。個人的な話でなんとも恐縮ではありますが、あの初来日公演の感動と感謝を、ずーっと後年になってからではあるものの、仕事でインタビューすることができたロバート・ラムに直接伝えられたのはうれしかった。忘れられない、本当に光栄な思い出です。

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