ロックンロール・スター!/デヴィッド・ボウイ
大傑作セカンド・アルバム『スペイス・オディティ』(1969年)へと至るデヴィッド・ボウイの初期音源を集大成したボックスセット『カンヴァセーション・ピース』(2019年)を本ブログで紹介したときにも書いたことだけれど。
1973年春、デヴィッド・ボウイの初来日公演を見に行ったとき、妖しく退廃的なトリックスターというパプリック・イメージとは裏腹に、音楽的にも、肉体的にも、とてつもない筋力を見せつけられて。すげえロックンローラーだな、と。まだ高校生のガキなりにボウイの凄味を思い知り、まじ、ぶっとんだものだ。
この人の場合、1970年代半ばまで、ジギー・スターダストとかアラジン・セインとかハロウィン・ジャックとかシン・ホワイト・デュークとか、アルバムごとに様々なキャラクターを創り出し、抜群のスピード感と受容感覚と先述した圧倒的な筋力とを武器にシーンを揺るがせ続けてきたわけですが。
日本公演があったのはジギー・スターダストからアラジン・セインの時期。で、今にして振り返ってみても、やっぱジギー・スターダストだったな、と。思い知るわけです。誰もがそう感じているはず。ジギーこそがボウイにとって自ら超えようもない、振り払いたくても振り払えない、最高・最強のペルソナだった。
と、そんな強烈なペルソナがお披露目された1972年の傑作アルバム『ジギー・スターダスト(The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』が生まれるまでの興味深い試行錯誤を5CD+ブルーレイという豪勢な仕様で振り返る6枚組ボックスが出た。それが本作『ロックン・ロール・スター!』だ。
去年の夏、1973年7月のジギー・スターダスト引退公演ライヴの模様を収めた同名映画(1983年公開、D.A.ペネベイカー監督)の公開から40周年、ライヴそのものから50周年を祝って2CD+ブルーレイという仕様で『ジギー・スターダスト:ザ・モーション・ピクチャー(50周年記念エディション)』ってのが出たけれど。それに続くジギーもの。
CD5枚のうち、ディスク1が“ザ・ソングライティング・デモズ”。今回初お目見え、「月世界の白昼夢(Moonage Daydream)」の原型となった「ソー・ロング 60s」のサンフランシスコ・ホテル・レコーディングでスタートする。“さよなら60年代、さよなら衰退”という歌詞に当時のボウイの覚悟のようなものが漂っていて、いきなりしびれる。この時期、ジミ・ヘンドリックス、ルー・リード、イギー・ポップといった面々に刺激され、ある種の使命感に燃えながら次を見据えていたのだろうな、みたいな?
ディスク1にはその他、覆面ユニット“アーノルド・コーン”として録音された貴重な音源や、当時の住居だった英ベッケナムのハドンホールでのリハーサル音源などが詰め込まれている。ディスク2と3が“BBCレディオ・セッションズ”。ジョン・ピールやボブ・ハリスの番組をはじめ、オールド・グレイ・ホイッスル・テストなどに出演したときの音源がぎっしり。
ディスク4と5にはシングル・エディット、ライヴ、ケン・スコットが新たにミックスを施したオリジナル・アルバム・レコーディング・セッション時のアウトテイクや別ヴァージョンなど。今回初お目見えの未発表音源は29トラックだ。
ケン・スコットが2つの異なるセッションからのアウトテイク音源を合体させてリミックスした「シャドウ・マン」とか特に興味深い。もうちょい完成度の高いデモ・ヴァージョンが『ディヴァイン・シンメトリー』にも入っていたし、その後、手直しを加えた形で『トイ』のセッションでも再演されていたけれど。わりと整ったそれらのヴァージョンよりも、こっちのシンプルかつラフなヴァージョンのほうが不思議と胸にくる。『トイ』ヴァージョンからは姿を消した“The shadow man is really you”というフレーズが印象的。ペルソナと現実の自分とのややこしい距離感のようなものがここに揺らめいているようで。なかなかに意味深だ。
で、ブルーレイには音源のみ収録。こちらにオリジナルの『ジギー・スターダスト』の2012年リマスター音源をはじめ、シングル・エディット、アウトテイク、別ヴァージョンなどをハイレゾで収録。2003年ミックスの5.1音源も。さらに、今年のレコード・ストア・デイにアナログLPとしてリリースされた『ウェイティング・イン・ザ・スカイ』も収められている。これ、最終的な完成版とは曲順が違ったり選曲から外された4曲が入っていたりする『ジギー・スターダスト』の初期エディション。アナログをゲットしそびれた方には朗報だ。
詳細なライナー、メモラビリア、写真、当時のレビューや雑誌記事、ケン・スコットやマーク・カー・プリチェットらへのインタビューなどを満載した112ページのハードカヴァー・ブックレットに加え、当時のボウイが書き記した直筆のメモなどを復刻した36ページのノートも。今月末に出る国内流通盤にはもちろんライナーの完全翻訳も付くみたいです。