ザ・ムーン・イズ・イン・ザ・ロング・プレイス/シャノン&ザ・クラムズ
ガレージ・サイケ、レトロR&B、ガール・グループ・サウンド、サーフ・ロックンロール、ドゥー・ワップなどの要素をパンキッシュに融合するカリフォルニア州オークランド本拠の痛快バンド、シャノン&ザ・クラムズ。久々の新作、出ました。
今回はちょっと複雑な1枚で。というのも、フロントを張るシャノンさん、実は結婚を目前に控えた2022年の夏、婚約者を交通事故で亡くすという悲劇に見舞われていて。その婚約者はバトルシップとかザ・グリ・グリとかのドラマーとしてもならしたベイエリアの音楽仲間、ジョー・ヘイナー。地元が同じザ・クラムズとよく共演していたこともあり、メンバー全員が親しくしていたらしく。
それだけに彼の他界はバンドにとてつもなく大きな打撃を与えたのだけれど。この悲しみを乗り越えるため、彼らはこれまで以上に固く結束。自らの内省とより深く対峙した新作アルバムを完成させた。それが本作『ザ・ムーン・イズ・イン・ザ・ロング・プレイス』だ。
これが通算7作目。2018年の『オニオン』、2021年の『イヤー・オヴ・ザ・スパイダー』に続いて、今回もブラック・キーズのダン・アワーバックをプロデューサーに迎えた。レコーディングはもちろん米ナッシュヴィルにあるアワーバックのイージー・アイ・サウンド・スタジオで。全編を貫くテーマは、愛、喪失、時の流れ、そして回復。1960年代のガレージ・ロックンロールとガール・グループ風味が交錯する従来の痛快なアイデンティティを維持したまま、随所で新たなクリエイティヴィティを発揮してみせている。
オープニングを飾る「ザ・ヴァウ」は、“誓い”というタイトルからも想像できるように、シャノンさんが結婚式でジョー・ヘイナーへのサプライズとして披露しようと思っていたというポップ・チューン。幕開けから泣ける。キュートな曲だけに、より一層切ない。
とても近いのに、とても遠い…と歌い出される「オー・ソー・クローズ、イェット・ソー・ファー」でも、“あなたがどこにいるのか説明できないの”という言葉に続いて、“あなたは星座、そよ風、木、満月、美しい夕焼け、天の川、皆既日食、虹、きらめく海の風景、夜明けの浜辺、鳥のさえずり…”と亡くした者への思いを重ねていたりして。
でも、彼らを襲った悪夢をシャノン&ザ・クラムズはアルバムを通してきっちりと受け入れていく。ラストを締める1曲「ライフ・イズ・アンフェア」でシャノンさんが“人生は不公平よ/でも美しい/今、私にはそれがわかる”と繰り返すメロディアスなフレーズが沁みます。“月が悪いところにある”というアルバム・タイトル通り、シャノンさんたちはダウナーな巡り合わせにあったのかもしれないけれど、前を向いてみんなで思いを合わせていけば月もまたいい場所に戻ってくれるはず。
もろもろ乗り越えて、さらなる快進撃に期待してます。