Disc Review

Don’t Let It Die: Very Best of (Re-Press) / Hurricane Smith (Cherry Red)

ドント・レット・イット・ダイ:ベリー・ベスト/ハリケーン・スミス

以前、本ブログでスタックリッジのアルバムを紹介したとき、こんなことを書いた。

ハリー・ニルソン、ハーパース・ビザール、タイニー・ティム、ポール・マッカートニー、ハリケーン・スミス、ギルバート・オサリヴァン、そしてスタックリッジ。

私事で恐縮ですが、1970年代初頭に高校生活を送っていたぼくはこうしたアーティストたちによって、紋切り型のロックを聞いているだけでは永遠に感知できない、もっと幅広く、奥深い音楽が世の中には存在するのだということを身体で学んだのでありました。

そこで名前を挙げたひとり、ハリケーン・スミスのCDが再発…というか、リプレスされたみたいなので、ちょっと紹介しちゃいます。

ハリケーン・スミスのCD復刻に関しては日本が先行していて。2004年にCélesteレコードが編纂したマニアックなベスト盤とか、当時ファンとして驚喜したものですが。その後、英チェリー・レッドが2008年にちょっと曲少なめで同趣向の初期ベストを編纂。今日紹介するのはそのチェリー・レッド盤の再プレスです。長らく生産が止まっていたようなので、うれしい。

この人、ご存じの通り本名はノーマン・スミス。1928年生まれで。第二次世界大戦中は空軍でパイロットを務めていたのだとか。戦後はジャズ・ミュージシャンとしての成功を夢見てドラム、ピアノ、トランペットなどを演奏していたものの、成功をつかむことができず、1959年、見習いエンジニアとして英EMI入り。『ラバー・ソウル』までのビートルズの初期作品のレコーディングに深く関わっていたことでもよく知られている。

1966年からはEMIのA&Rスタッフとなって、ピンク・フロイドの初期作品群やプリティ・シングス、バークレイ・ジェイムス・ハーヴェストの諸作などの制作を手がけ。やがて1971年、自らパフォーマーに転身。本格レコード・デビューを飾ることになった。

デビュー曲は「太陽を消さないで(Don’t Let It Die)」。これはビートルズがアルバム『ヘルプ』をレコーディングしていたころ、ジョン・レノンが“曲が足りない”とグチっているのを耳にして、冗談交じりにスミスが作った曲なのだとか。リンゴ・スターに歌わせようかという案もあったらしいが、リンゴが歌うにしちゃちょっと複雑かも…という理由で不採用に。

が、1970年代に入って、50歳も目前になったスミスはその曲のことを思い出し、自分で歌ってデモを制作。環境問題に言及した曲でもあり、スミスはもう一度ジョン・レノンに売り込もうかと目論んだようなのだけれど、デモを聞いたミッキー・モストの勧めもあって自ら“ハリケーン・スミス”なるアーティスト名の下、シングル・リリース。これがイギリスで最高2位まで上昇するヒットを記録。翌1972年にその曲をフィーチャーした同名ファースト・アルバムがイギリスで出た。ヨーロッパ盤、オーストラリア盤、日本盤もこの形。

さらに1972年、空軍時代の旧友、フランク・ハードキャッスルのアタックの強いサックスをフィーチャーしたスウィンギーな第二弾シングル「オウ・ベイブ(Oh, Babe, What Would You Say?)」をリリース。これがイギリスで4位まで上昇したのみならず、海を越えてアメリカでも翌1973年にかけて最高3位に達するヒットに。アメリカではこのセカンド・シングルを含む新録4曲とUK盤から抜粋した6曲を合わせて再編成した『ハリケーン・スミス』が出た、と。

なわけで、ハリケーン・スミスはUKとUSとでそれぞれ別内容のファースト・アルバムを出しているのだけれど。その両者を抱き合わせたのが本チェリー・レッド盤。冒頭6曲がUKファーストLPのA面収録曲。続く5曲(Track 8-11)がB面。その後の4曲(Track 12-15)がUS盤のみの収録曲。で、ラスト1曲(Track 16)が、デビュー・シングル「太陽を消さないで」のB面に収められて世に出たオリジナル・アルバム未収録曲だ。

独特のダミ声を活かしたミュージック・ホール〜キャバレー系の自作曲が中心だけれど、ハリー・ジェイムス楽団が1940年代に放ったヒット「チェリー」と、第三弾シングルとして全英23位、全米49位にランクしたギルバート・オサリヴァン作の「フー・ワズ・イット」がカヴァー。ノスタルジックで、大らかで、でも切なくて、哀愁があって。初期ギルバート・オサリヴァンやビリー・フィールドなどが好きな人には絶好。

全米ヒットチャート的にはほぼ「オウ・ベイブ」のみのワン・ヒット・ワンダーながら、時折リリースされた数枚のアルバムはどれも素敵なものばかり。特に1972年のファーストは、英米両盤とも素晴らしい仕上がりなので。「太陽を消さないで」と「オウ・ベイブ」しか知らないぞ…なんて方も、ぜひこの機会に。充実のブックレットも魅力です。日本盤もソリッドから出るみたいだけど、5月発売と書いてあったり、9月発売と書いてあったり、いつものソリッドらしく、よくわかりません(笑)。そのうち出ることでしょう。

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