Disc Review

Fogerty’s Factory / John Fogerty (BMG)

フォガティズ・ファクトリー/ジョン・フォガティ

緊急事態宣言解除って言われてもなぁ…。

解除の理由があまりにもふんわり曖昧すぎて安心できないというか。われわれシモジモの不安を払拭してくれないといけないリーダーさんたちの目線の先がどこに向かっているのやら、なんだか怪しいし。

アメリカに目をやると、ミネアポリスの白人警官の暴行を受けた黒人男性が死亡したことに抗議するデモが各地でとんでもなく大規模な暴動にまでエスカレートしていて。新型コロナ禍のさなか、ダブルパンチ。でも、彼の地のリーダーさんも選挙戦略しか視野に入っていないのか、わけのわからないことツイッターで吼えまくるばかりで。根本的な対策は何ひとつ打てず。

でも一方、そんなリーダーさんめがけて毅然と“ノー”を突きつけるテイラー・スウィフトとかビヨンセとかリアーナとかビリー・アイリッシュとか、そういう表現者たちもきっちり声を上げていて。かっこいい。歌手の人が法律改悪案に抗議しただけで門外漢は黙ってろ的にあーだこーだ偉そうな文句をつける輩が湧いて出る日本とは土壌が違うなと改めて思い知らされたものだけれど、それはまた別の話か。

非常時には混乱が混乱に拍車をかける。人間の心根のありようも含め、どす黒いものがどんどん表面化してくるようで。やばいです。つらいです。そんな中、ちょっとだけうれしいのが、待ちに待ったプロ野球開幕日の決定かな。

あ、いや、うれしいというか。正直なところ、半分以上は不安。微妙。もちろんプロ野球ファンとしてはものすごくうれしい。ワクワクしてはいる。けど、水を刺すわけではないものの。ほんと、大丈夫なのかな、と。先述したみたいに緊急事態の解除自体、まだ確信が持てる段階じゃないのに。2波、3波の怖れも取り沙汰されているのに。ユルすぎないか? 行政としての支援が面倒だから、もう自粛要請取り下げるので、あとは各自なんとかして…みたいな。そんなことはないと思いたいけど、そう疑いたくもなる。

しかも、その開幕日から県外への移動自粛も解除されるんでしょ? なんかその辺の、まあ、そろそろ大丈夫じゃないすか的、大雑把な決定プロセスが場当たりっぽくてさらに不安を煽る。根拠がぼんやりしすぎだもの。

と、まあ、何に対しても疑心暗鬼になってしまわざるを得ない昨今。でも、やっぱり野球見たいな、と。そう強く思わせてくれたのが、パンデミックの中、日々悶々と暮らすしかないぼくたちを励まそうとジョン・フォガティが届けてくれたストリーミングEP『フォガティズ・ファクトリー』だ。

かつて彼が在籍していたクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルが1970年にリリースした名盤『コズモズ・ファクトリー』に引っ掛けたタイトルで。これ、ジョン・フォガティの自宅にある地下室スタジオの名前でもあるらしい。娘さんのケルシー、息子さん2人、タイラーとシェインを含む家族バンドの名前でもあるのかもしれない。ジャケットまで『コズモズ・ファクトリー』を模してキメている。

ジョンと子供たちは去る4月24日、NPRのおなじみ“タイニー・デスク・コンサート”に出演。といっても、このご時世なので今は各アーティスト、自宅からのリモート出演になっていて。フォガティ一家も、その地下室スタジオから出演。1980年代半ばにジョンさんが放ったソロ・ヒット「センターフィールド」と、CCR時代、1960年代末〜70年代初頭に放った大ヒット3曲、計4曲を披露してくれた。

このセッションの冒頭で演奏された「センターフィールド」が野球好きの心に火をつけるというか(笑)。映像を見るとわかるのだけれど、ジョン・フォガティはおなじみのバット型のギターを抱えて、子供たちとともに楽しそうにロックンロールしていて。あー、早く野球場に行って、それもできれば屋外の球場でビール飲みながら大騒ぎしたいな、と。そういう気分にしてくれたのでした。

このときの4曲のうち「センターフィールド」「光ある限り(Long As I Can See The Light)」「プラウド・メアリー」の3曲に、ストリーム・ラジオのシリウスXMで披露された「ダウン・オン・ザ・コーナー」「バッド・ムーン・ライジング」「フォーチュネイト・サン」、さらにスティーヴン・コルベアのレイト・ショー出演時の「雨を見たかい(Have You Ever Seen the Rain)」を加えた計7曲入り。

選曲的には、結局CCRものが7曲中6曲。まあ、今年が『コズモズ・ファクトリー』50周年ってことを思えば当然かもしれないけど。その辺も含めて非常に急ごしらえの、簡素な、自粛状況下ならではのミニ・アルバムの感は否めない。にもかかわらず、なんとミックスはボブ・クリアマウンテン。マスタリングはボブ・ラドウィック。鉄壁の布陣が手がけている。仕込みは本格的だ。

純粋に音楽的な耳で接すると、正直、まあ、たいした仕上がりじゃないです(笑)。クオリティ的に言えば、ソロ曲もCCR時代の曲も、圧倒的なオリジナル・ヴァージョンにかなうはずもなく。それは仕方ない。子供たちの演奏力も残念ながら特にどうということもない。ドラムレス編成なのでアンサンブルもショボめ。ジョンさんもギターでおなじみのリフは弾くものの、ここぞの個所に入れてほしい耳慣れたオブリは弾かないもんで、なんとなく物足りない…。

でも、この状況下、密に顔を突き合わせてともに演奏できるありがたい存在は基本的に家族ぐらいだし。演奏されている曲はやはり名曲ばかりだし。弾かれないオブリは聞き手それぞれが自分の脳内で勝手に鳴らせばいいし(笑)。ジョン・フォガティ自身は年老いてなお健在で、若き日と同じキーで相変わらずパワフルなシャウト・ヴォーカルを聞かせているし。ありがたく楽しませていただきました。

俺を試合に出してくれよ、コーチ。準備はできてる…。

「センターフィールド」の歌詞はいつ聞いてもアガる。思いきりポジティヴかつ楽観的な気分にしてくれる。今の状況下、最高のエールかも。やっぱジョン・フォガティ。ワン・アンド・オンリー。得難い存在だ。この歌詞をいつまでも現役感たっぷりに歌える存在であり続けてもらいたいものです。

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