Disc Review

Turn the Lights Back On / Billy Joel (Columbia)

ターン・ザ・ライツ・バック・オン/ビリー・ジョエル

かねて予告されていた通り2月1日にビリー・ジョエル17年ぶりの新曲、リリースされましたー。「ターン・ザ・ライツ・バック・オン」。

1月23日に公開された予告動画でビリーがちらっとワン・フレーズ、ピアノを弾いていて。それがハチロクっぽい3拍子バラードだったもんで。その日の夜にちょうど開催されたCRTでビリー・ジョエル来日公演前夜祭でも“あー、こう来るか”“やっぱバラードか”“でも、こんなふうに予告しておいて、すげえかっこいいロックンロール出してきたらいいのにね”など、あれこれ盛り上がったものですが。

結果、予告動画のフレーズそのままの曲。あれはAメロ部分のコードを普通に弾いているものでした。もちろんすごくいい曲だから、予告そのままのバラードで何の問題もなく。しかもキーは真っ向からのC。50年前の「ピアノ・マン」と同じキーで、同じ3拍子。キメキメできました。

フレディ・ウェクスラー、ウェイン・ヘクター、アーサー・ベーコンとの共作。歌詞も、長らくポップ・フィールドでの新曲制作から離れていた現在のビリーの心境に添ったもので。“ドアを開けてくれ/何も変わっていない/ぼくたちここに来たことがあるよね/いくつもの広間を歩き回って/静寂ごしに話そうとする/プライドが舌を出して/ぼくたちが収まった肖像画を笑う/額縁に閉じ込められて変わることができない/ぼくは間違っていた…”という歌い出しから、もうやばい。

でもって、サビ。“遅くなったけれどぼくは今ここにいる/昔はロマンチックだったのに/なぜだか忘れてしまった/時は人を盲目にする/でも今ぼくには君が見える/ぼくたちは暗闇の中に横たわっている/ぼくは長く待ちすぎたのかな/また灯りをともすまで…”。

ここぞのタイミングでこれ。お見事。TikTokとかでの“Did I wait too long?”って予告フレーズは“Did I wait too long to turn the lights back on?”ってことだった。間に「オール・マイ・ライフ」をはじめ、ちょこちょこそのつどの新曲が挟まっていたとはいえ(加えて、他のソングライターたちとの共作曲とはいえ)、今回の曲、1993年のアルバム『リヴァー・オヴ・ドリームス』の次…って感触がいちばん強い気がする。

先日の16年ぶりの来日公演でも思ったのだけれど。ビリーはセットリスト中、随所にいろいろな音楽要素をしのばせていて。まあ、超おなじみなものとしては、冒頭、「マイ・ライフ」に突入する前のベートーヴェン9番の引用とか、ローリング・ストーンズ「スタート・ミー・アップ」やトーケンズ「ライオンは寝ている」のカヴァーとか、プッチーニの「誰も寝てはならぬ」から「イタリアン・レストランにて」になだれ込むところとか、「リヴァー・オヴ・ドリームス」の途中に「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」をぶちこむところとか…。このあたりはセットリストにも明記されている大ネタだけれど。

その他にも、以前本ブログでもちらっと書きましたが、「ドント・アスク・ミー・ホワイ」の前にピアノ1本でベートーベン交響曲7番2楽章を聞かせたり、「ニューヨークの想い」のエンディング、マーク・リヴェラのサックスとやりとりしながらロジャース&ハート作品「マンハッタン」を奏でたり、そうしたコマネタも含め、ほんと一瞬一瞬が深かった。

普通のロック、アダルト・コンテンポラリーだけでなく、クラシック、ジャズ、ミュージカル、ドゥーワップ、R&B、ラテン、さらに「ピアノ・マン」でハーモカ・ホルダーを首にかけちゃうことを思えばそこにはフォークまで加わって、ニューヨークという街にずっといきいきと息づき続ける多彩な音楽性のすべてがあった。そして、このどうしようもなくニューヨークな感じが当然ながら今回の新曲にも漂っていて。やー、すごい人だなと思います。これまで肖像画として額縁に納まっていたビリーがまた動き出した、と。

やっぱり新曲ってアガるね(笑)。ビートルズも、ストーンズも、やっぱ久々の新曲が出るとそれだけで盛り上がったし。かつての大滝詠一師匠、「幸せな結末」が出たときもそれだけで泣けてきたものだったし。しかもみんないい曲出してくるし…。

今のところフィジカルはオフィシャル・ストアで売ってるアナログ・シングルしか見かけていないけど、きっとほどなく日本でも買えるようになることでしょう。ぼくは待ちきれずオフィシャルでポチっちゃいましたが。送料、高すぎ(泣)。待てばよかったかな…。

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