Disc Review

Troper Sings Brion / Mo Troper (Lame-O Records)

トローパー・シングス・ブライオン/モー・トローパー

本ブログでは以前、こことかこことかで紹介している米オレゴン州ポートランド拠点のパワー・ポッパー、モー・トローパーの新作はなんとジョン・ブライオン作品集。でもって、このアルバム・タイトル! このアートワーク! ハリー・ニルソンによるランディ・ニューマン作品集『ニルソン・シングス・ニューマン』のジャケットを雑に模写したみたいな(笑)。やはり以前紹介した『ドレンツ・シングス・ネスミス』に続くこの感じ、もうばっちりでしょう。

この人、2021年のパンデミック期に企画ものとしてビートルズの『リヴォルヴァー』全曲まるごとのカヴァー・アルバムをリリースするという狼藉を働いたことがあって。あれはさすがにもう入手できないようだけど。その流れかなと思って本作を聞いてみたら、仕込みはあれより断然しっかりしていた。本気だった。

トローパーさんは2004年の『エターナル・サンシャイン(Eternal Sunshine of the Spotless Mind)』や『ハッカビーズ(I Heart Huckabees)』のサウンドトラック・アルバムでジョン・ブライオンの音世界に魅せられて。そこから2001年のソロ・アルバム『ミーニングレス』とか、1990年代にジェイソン・フォークナーらと組んでいたザ・グレイズのアルバムとか、ブライオンの過去作にさかのぼりながらすっかりハマって。

以降、持ち前のマニアックさを炸裂させながら、様々なライヴ音源とか、1990年代初頭に録音されたデモ・テープ集CD2枚組とか、あれこれブートレッグまでコレクト。その未発表デモの素晴らしさに感激したトローパーは、それらをオフィシャルに再発できないだろか…と、自分が所属するレイム・オー・レコードのオーナー、エリック・オスマンに相談を持ちかけたりもしていたらしい。

そうこうするうちに、昔、エルヴィス・コステロがビーチ・ボーイズの幻の未完アルバム『SMiLE』を自分の演奏で完成させたい…とか、インタビューで語っていたことを思い出し、そうか、自分でやっちゃえばいいのか、と。そう思い立って制作されたのが本作『トローパー・シングズ・ブライオン』なのだとか。

選曲が超マニアックで。その2枚組デモからの曲を中心に、一部、ライヴでのみ演奏されたことがある未発表曲(「イントゥ・ジ・アトランティック」と「ラヴ・オヴ・マイ・ライフ」)や、グレイズ時代のレパートリー(「ノー・ワン・キャン・ハート・ミー」)なども交えて構成されている。いろいろな映画のサウンドトラックに流用されたメロディなどもちょこちょこ顔を出したり。面白いセレクションだ。

ポートランドにあるトローパーのプライベート・スタジオ“トラッシュ・トレジャリー”でのレコーディング。いつものように、けっこう粗めのパワー・ポップ・アプローチで演奏されているのだけれど、このモー・トローパーのマニアックなアプローチを通してジョン・ブライオンの作風を再検証できる仕上がりです。今のところストリーミングあるいはダウンロードのデジタル・リリースのみ。ヴァイナル、ほしい!

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