ザ・ディフィニティヴ・24ナイツ(スーパー・デラックス・ボックス)/エリック・クラプトン
次回CRTのお知らせ、更新しました。テーマは海の日恒例、ビーチ・ボーイズ。ここ数年は横浜で開催することが多かったのですが、久々に新宿へ。夏の歌舞伎町でビーチ気分満喫しましょう。詳細はPCでご覧の方は右側のサイドバー、スマホでご覧の方は下方のCRTインフォのコーナーをチェックして新宿Rock Cafe LOFTへゴー!
と、夏に向けてモチベーションを爆上げしたところで。勢いに乗ってどでかいボックスセット、ご紹介しましょう。この4月に来日して記念すべき日本武道館100回目の公演を行なったばかりのエリック・クラプトン。初来日以来通い続けてきたぼくも予約開始日に申し込んでいち早くその夜のチケットをゲット。客席を埋め尽くした大観衆と“こけーん!”と声あげて大いに盛り上がってきましたが。
しかし、当然ながら本国ではもっとすごい。100回どころじゃない。英国ロンドンにはクラプトンがすでに200回以上パフォーマンスしている常打ち小屋的コンサート会場がある。そうです。ご存じロイヤル・アルバート・ホール。1964年、ヤードバーズ在籍時代に初めてここに出演して以来、1968年のクリーム解散コンサート、1983年のARMSコンサートなどを経て、1987年からは同会場に長期間腰を据えるレジデンシー連続公演を本格化させていくことになった伝統ある劇場。
で、そのうち1990年と1991年のライヴ音源をCD2枚組にまとめあげたアルバムが1991年リリースの『24ナイツ』だったわけだけれど。その超拡張エディションが編まれましたよー。6CD+3ブルーレイという強烈なボリュームによるボックスセット『ザ・ディフィニティヴ・24ナイツ(スーパー・デラックス・ボックス)』。現在、日本でも劇場公開中の映画『アクロス24ナイツ』とも連動するリリースだ。
詳細な内容については今出ているレコード・コレクターズ誌7月号(Amazon / Tower)のほうに書かせてもらったので、ぜひそちらを参照していただきたいのだけれど。
クラプトン(ギター)、グレッグ・フィリンゲインズ(キーボード)、ネイザン・イースト(ベース)、スティーヴ・フェローニ(ドラムス)という4ピース・バンド、そこにフィル・パーマー(ギター)、レイ・クーパー(パーカッション)、ケイティ・キッスーン(コーラス)、テッサ・ナイルズ(コーラス)、そして90年はアラン・クラーク(キーボード)、91年はチャック・リーヴェル(キーボード)が加わった9ピース・バンドでの演奏をまとめたのが“ロック”編。1989年にアルバム『ジャーニーマン』を出した後の公演だけに、いわゆるクラプトン・スタンダード的な楽曲に加えて同作からの曲が多く含まれている。
バディ・ガイやアルバート・コリンズ、ロバート・クレイらブルースの顔役たちを迎えたのが“ブルース”編。で、マイケル・ケイメン指揮ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団と共演したのが“オーケストラ”編。それぞれ複数回ずつ(2年合わせて全42夜!)行なわれたコンサートから選び抜かれたベスト音源を各々2CD+1ブルーレイという形式に詰め込んだものを3つまとめたセットだ。
当時、ライヴの一部がFM放送されたりしたため海賊盤市場でもおなじみの音源/映像ではあるけれど、やはりオフィシャルはいい。オリジナル・マルチから本ボックスを再構築したのはおなじみサイモン・クライミー。もちろん、いろいろな素材を年代関係なく編集でつないでいるので、収録年が違う4ピース・バンドと9ピース・バンドの演奏が乱暴にメドレーになっていたり、セットリストが入り乱れていたり、映像だと曲ごとに服装がバラバラだったり、メンバーが違ったり…。
でも、そういう編集がほどこされていることを前提に、純粋なドキュメンタリーとしてではなく、1990年と1991年、2年合わせて計42夜の音源から大胆に再構成された新たなライヴ作品として柔軟に味わうのが正解かも。
この時期のクラプトンというと、いかにも当時のフェンダー・ストラトキャスターっぽいレース・センサー・ピックアップやミッドブースト機能を駆使しながらの派手なプレイが印象的で。往年のレイドバック系の渋いレンジ感を愛好する古くからのファンにはあまりウケが良くなかった覚えがある。でも、そんなことも含めてすべてがもはや愛おしく懐かしい。映像を見ているとクラプトンが随所で喫煙してたり、ギターのヘッドにタバコを差したり。まだそういう時代だったなぁ…。
ロック編の「アイ・ショット・ザ・シェリフ」と「天国への扉(Knockin' on Heaven's Door)」にはフィル・コリンズが客演。後者ではハイハットを携えてステージ前方へ。コーラスにも参加する。フィリンゲインズもショルキー抱えて参戦。基本的にはエレクトリック楽器による演奏だけれど、このラフでゆるめのアプローチ、数年後に特大ヒットを記録することになる『アンプラグド』の前哨戦という感じもなくはない。大御所たちがギター抱えて勢揃いするブルース編などは1999年にスタートするザ・クロスローズ・ギター・フェスティヴァルの先駆け的な試みだったとも言えそうだし。
1991年のレジデンシー公演直後、愛息コナーくんが悲劇の転落事故で他界。悲しみを乗り越えたクラプトンは1992年、「ティアーズ・イン・ヘヴン」とアルバム『アンプラグド』を大ヒットさせ、新たなディケイドへと踏み入ることになるわけだけれど。そこへと至る前、コンテンポラリーなギター・サウンドをひっさげてイケイケで爆走していた時期を総括すると同時に、その後の新たな動きを予見させる橋渡し的なボックスとして味わいましょう。
ちなみに、これだけのボリュームの拡張エディションであるにもかかわらず、実は1991年のオリジナル『24ナイツ』の音源がすべて入っているわけではないのでご注意を。1991年4ピース版「バッヂ」、1990年4ピース版「サンシャイン・オヴ・ユア・ラヴ」、1991年9ピース版「オールド・ラヴ」、1991年のブルース編からの「フードゥー・マン」あたりはあっちでしか聞けません。
まあ、オリジナル『24ナイツ』を編纂しているときは、まさに愛息を失ったばかりの大変な時期で。クラプトン的にはアルバム制作どころじゃない、と。選曲はほぼプロデューサーのラス・タイトルマンにまかせっきりだったらしく。収録曲の中にはクラプトンの意に添わないテイクも含まれていたということか。クラプトンにしてみれば、今回ようやく満足のいくセットが完成へと至ったのかもしれない。