NBPファイル vol.62:うわさのハリー
6月15日はハリー・ニルソンのお誕生日。1941年生まれなので、もし存命ならば今年で82歳だったはず。ご存じの通り、彼は1994年1月、52歳という若さで他界してしまったのだけれど。彼がその短い生涯の間に残してくれた曲たちは、ほんと宝物で。今もぼくを盛り上げてくれたり、笑わせてくれたり、癒やしてくれたり、泣かせてくれたり…。
というわけで、スロウバック・サーズデイ恒例のNBPプレイリスト、今週はニルソンでいきます。
ニルソンの場合、以前、シングル音源を集めたコンピレーションを紹介したときにも書いた通り、彼をどういうスタイルの音楽家として評価するか、いろいろな見方があって。以前書いたことを繰り返せば、まあ、シンガー・ソングライターの文脈で語るのがいちばん自然なのかもしれないのだけれど。ただ、真っ向からシンガー・ソングライター的な人なのかというと、これがそうでもない。確かに「1941」「カドリー・トイ」「ウィズアウト・ハー」「子犬の歌(The Puppy Song)」「ワン」など、自ら素晴らしい楽曲をたくさん書き、歌い、様々なシンガーたちがそれをカヴァーしてヒットさせたりしているわけですが。
しかし、それじゃニルソンの代表曲は何か、という問いに対して、多くの人が挙げるのはダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイトの主演映画『真夜中のカーボーイ(Midnight Cowboy)』のテーマ曲として1969年に全米6位まで上昇した「うわさの男(Everybody's Talkin')」、あるいは1971年から72年にかけて全米ナンバーワン・ヒットを記録した「ウィズアウト・ユー」で。確かにどちらもグラミーにまで輝いた大当たり曲ではあって。
が、ご存じの通り、「うわさの男」は60年代半ば、グリニッチ・ヴィレッジのフォーク・シーンで異彩を放ったシンガー・ソングライター、フレッド・ニール作。「ウィズアウト・ユー」のほうはパワー・ポップ・バンド、バッドフィンガーの中心メンバーだったピート・ハム&トム・エヴァンス作。どちらも他人のペンによる作品であり、グラミーにおいても“シンガー”としてのみ賞を与えられている、と。ソングライターとしてもひときわ優れた才能を持ち合わせていたニルソンにとって少々皮肉な事実なわけだ。
他にも『ランディ・ニューマンを歌う(Nilsson Sings Newman)』とか『夜のシュミルソン(A Little Touch of Schmilsson in the Night)』とか『ハリーの真相(...That's the Way It Is)』とか、全曲カヴァーみたいなアルバムも多いし。
なので、彼のプレイリストを作る場合も、いろいろな切り口が考えられるのだけれど。今日はカヴァーものはすべて外して、ニルソン本人がソングライティングに関わったナンバーの中から、わりとほわ〜っと楽しめる感じの曲ばかり、あまり有名じゃなさそうなものも含めて12曲、セレクトしてみました。
もっと諧謔に満ちた、ノヴェルティっぽいニルソン作品集も作ってみたいなと思いつつ、まずはこのプレイリストでノスタルジックなシンガー・ソングライターとしてのニルソンの魅力をほわ〜っとお楽しみいただけたらうれしいです。お誕生日おめでとう、ハリー!
ちなみに、数年前、ニルソンのレア音源集がリリースされたときにお知らせしたことの繰り返しになりますが。彼がソロ・アーティストとして本格デビューするまでのもろもろについて、ぼくが編集長をつとめるオンライン音楽雑誌『エリス』の21号で書いたことがあります。こちらのページでメールアドレスを登録すれば無料で読めますので、よろしければチェックしてみてください。その後のニルソンについては、もう30年以上前、ニルソンがまだ存命中だった1992年に某雑誌に寄せたバイオグラフィ記事を、その数年後、旧ホームページに転載したことも。懐かしい。こちらは、まあ、話のタネに、ひとつ。決定的に資料が不足していたころのなんとも涙ぐましい(笑)原稿なので、けっこう間違いも頻出していますが大筋はつかめると思います。
Everybody’s still talkin’ about Harry
- It's Been so Long / Harry Nilsson (1967)
- Mournin' Glory Story / Harry Nilsson (1969)
- The Moonbeam Song / Harry Nilsson (1971)
- The Wailing of the Willow / Harry Nilsson (1968)
- All I Think About Is You / Harry Nilsson (1977)
- I Will Take You There (Alternate Mix) / Harry Nilsson (1968)
- Without Her / Harry Nilsson (1967)
- Open Your Window / Harry Nilsson (1969)
- (Thursday) Here's Why I Did Not Go to Work Today / Harry Nilsson (1976)
- One (1971 Mix) / Harry Nilsson (1971)
- Old Forgotten Soldier / Harry Nilsson (1974)
- Little Cowboy / Harry Nilsson (1968)