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The Philosophy of Modern Song (Japanese Version) / Bob Dylan (Iwanami Shoten, Publishers)

ソングの哲学/ボブ・ディラン(岩波書店)

激アツなボブ・ディラン東京公演ウィークが過ぎ去りましたよ。やー、すごかったなぁ。昨夜もディランの歌、バンドの演奏、両面でめちゃくちゃ充実してた。

今回の基本セットリストは、以前こちらでも触れた通り、2020年に出た最新オリジナル・アルバム『ラフ・アンド・ロウディ・ウェイズ』のディスク1に収められていた9曲すべてと、6月に発売が決まった『シャドウ・キングダム〜ジ・アーリー・ソングズ・オヴ・ボブ・ディラン』で新鮮に再演されていた過去レパートリーから「川の流れを見つめて(Watching the River Flow)」「我が道を行く(Most Likely You Go Your Way And I'll Go Mine)」「マスターピース(When I Paint My Masterpiece)」「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」「トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー」の5曲、そして「ガッタ・サーヴ・サムバディ」と「エヴリ・グレイン・オヴ・サンド」の2曲、および1曲のカヴァー…という、基本は17曲パッケージ。

全体的なライヴ評をここで書くつもりはないです。それはまたどこかで、いずれ。ただ、このカヴァー1曲というのにちょっとこだわって振り返ってみると——

ここ、去年の北米ツアーでは「メランコリー・ムード」、その後のヨーロッパ・ツアーからはずっと「ザット・オールド・ブラック・マジック」に固定されていて。それがそのまま今回の来日の大阪公演でも続いていた。ぼくが見に行った東京公演初日もそうだった。が、東京公演2日目、そのパートで「ザット・オールド・ブラック・マジック」でなくグレイトフル・デッドの「トラッキン」が突如、世界初演されて。この日も見に行ったのだけれど、まじ驚愕。ぶっとんだ。いいもの見ることができた。

ここからは日替わりだったようで。ぼくが見に行けなかった東京3日目には、なんとやはりデッドの「ブロークダウン・パレス」を披露! このときは“曲を覚えていたつもりだったんだけど…”的な言い訳とともに途中で演奏が終わり、代わりに「メランコリー・ムード」が歌われたらしい。続く東京4日目、この日も見に行けなかったけれど、聞くところによるとバディ・ホリーの「ノット・フェイド・アウェイ」を久々にぶちかましたそうで。

こうなると最後の東京公演となった昨夜も期待は高まるばかり。「ブロークダウン・パレス」と「ノット・フェイド・アウェイ」を聞き損なったぼくも、何やるのかな、「ブロークダウン・パレス」をリハーサルし直してリベンジするんじゃないかな…とか、ワクワクしていたら。そこはもともとの「ザット・オールド・ブラック・マジック」に戻っていたので、あ、そうか、最後は元の形に収めて終わるのね、と納得して味わっていたのだけれど。

なんと、「ザット・オールド・ブラック・マジック」に続いて「マザー・オヴ・ミューズ」が歌われた後、東京2日目同様、またまたバンド・メンバーたちがわさわさディランの周囲に集まり始め。ボブ・ブリットがいったんアコギからエレキに持ち替えそうになったのを急遽とりやめて、アコギのままにしたり…。

で、ディランさん、いきなり「ブロークダウン・パレス」を歌い出した。おーっ、やっぱりリハーサルしたのか? 歌い直すのか? リベンジか? 今回はちゃんと最後まで歌いきるのか? とコーフンしていたら。今回も1分半くらい歌っているうちに、だんだんディランさん、下向き始めて。声もはっきりしなくなってきちゃって。あれれ、リハし直したわけじゃなかったの? 的な(笑)。ベースのトニー・ガーニエも心配そうにディランのほうをのぞき込んで。なにやら間奏のあたりで相談しているようにも見えたけれど。

そしたら突然ディランさんひとりだけ、勝手にピアノで「グッバイ・ジミー・リード」弾き始めた。キーもリズムも全然違うのに。むりやり(笑)。当然、メンバーはまたまた慌てまくり。ボブ・ブリットなんかエレキに持ち替えることもできず、仕方ねーなぁ的な感じでそのままアコギで「グッバイ・ジミー・リード」に突入してましたよ。

見ていてめちゃくちゃ盛り上がった。ぼくたち観客だけでなく、メンバーも含めて、ディラン以外は地球上の全員がディランに翻弄されながら、あわあわバタつき、しかしそれをワクワク楽しんでいるんだなと再確認した夜でした。気まぐれでお茶目な81歳。やっぱすげえや、ディラン。

名古屋でさらなるリベンジはあるのか? 行きたいけど、名古屋公演の日は3日間とも全部仕事入っちゃってるから無理か。残念だ。また絶対来てほしいな。なんかディランさん、80歳代半ば過ぎても90歳を迎えても元気な気がするから。きっと次もあるでしょう。新作も期待だな。

というわけで、今朝はまたまたディラン以外の歌声を聞く気にもならない状態が継続中なので。本ブログ、いつものニュー・リリース紹介はお休みしつつ、ちょうど本日に日本語翻訳版の発売が延びた彼の最新著書『ソングの哲学(The Philosophy of Modern Song)』を改めて紹介しつつ、お茶をにごしちゃいます。ついでにぼくがちょっと前に書いたディランに関する本も改めて…。

『ソングの哲学』の内容に関しては英語版の原書が出たときにこちらで紹介ずみなので繰り返しません。ディランが取り上げている楽曲に関してもこちらでプレイリストを作ったし。よろしければそのあたりを改めてご参照ください。本を買うと訳者の佐藤良明さんによる詳細な補注が掲載されたWebページへのリンク情報も! 素晴らしい。

この本で取り上げられた全66曲、内容的にはありきたりな楽曲解説でもなく、単なる楽曲礼賛にも終わっておらず、曲によってはずいぶん辛辣なことを言っていたり、歌詞から勝手に妄想を広げていたりもして。半分以上、ディランさんの創作としても楽しめるような、そんな感触の一冊です。これ読みながら、ちょっと気分をクールダウンできるかな。いや、さらに翻弄されるばかりかな…?

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