Disc Review

The Complete Arrows Collection / Arrows (7T’s/Cherry Red)

ザ・コンプリート・アロウズ・コレクション/アロウズ

今年はなんだか偉大なミュージシャンたちの胸にこたえる訃報が多くて。まあ、亡くなった方々の年齢を考えれば、これはもう仕方ないことと諦めるしかないのかもしれないけれど。寂しい限り。こういう訃報に接するたびに思うのは、ぼくたちは彼らが残してくれた素晴らしい作品たちをこれからも忘れず愛し続け、聞き続け、いつまでも胸をときめかせ続ける、それがいちばんの追悼になるのかな、ということ。

そんな想いをまた新たにしながら、今朝もいつものようにブログ更新。今日は3年前の2020年3月、新型コロナウイルス感染症により69歳で亡くなったアラン・メリルに思いを馳せながら、彼が在籍していたバンド、アロウズのCD2枚組コンプリート・コレクションをピックアップします。

ご存じの通りヘレン・メリルの息子さんであるアランは1960年代末からしばらく日本で活動した後、1974年に渡英。そこで結成したのがアロウズだった。メンバーはアメリカ人であるアラン(ベース、ヴォーカル)とジェイク・フッカー(ギター)、そしてイギリス人ドラマーのポール・ヴァーリー。ヒットメイカー、ミッキー・モストのプロデュースの下、人気ソングライター・チーム、ニッキー・チン&マイク・チャップマンの超キャッチーなポップ・ロック・チューン「タッチ・トゥー・マッチ」で、かのRAKレコードからシングル・デビューを飾った。

これが全英チャート8位まで上昇するなどまずまずのスタートを切って。続けて1975年にかけ、同じスタッフによるボ・ディドリー・ビートのナンバー「タフン・アップ」(全英54位)と、ソングライターをビートルズの『レット・イット・ビー』でアシスタント・エンジニアを務めたこともあるロバート・フェリスに変えたハード・ロカバラード的な「マイ・ラスト・ナイト・ウィズ・ユー」(全英25位)を連続ヒットさせた。

やはりロバート・フェリスが書いた次なるシングル「ブロークン・ダウン・ハート」はチャートインせずじまいだったけれど、実はこのシングルのB面に入っていたのが、やがて1981年、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツがカヴァーして大ヒットさせることになる「アイ・ラヴ・ロックンロール」だった。

「アイ・ラヴ・ロックンロール」はローリング・ストーンズの「イッツ・オンリー・ロックンロール」に触発されてアラン・メリルが書いたオリジナル・ナンバー。この曲だけでなく、それまでのシングルのB面には必ずアランらメンバー自身が書いたかっこいいオリジナル・ロックンロールが収められていた。ミッキー・モストというある意味オーヴァー・プロデュース気味のスタッフの下で活動していただけに、シングルA面ではなかなかメンバーに自由が与えられず、1970年代にチャートを席巻していたポップでちょっぴりハードな英国アイドル・バンド的役割を果たさせられていたわけだけれど、B面にはメンバーたちの本音が炸裂していた。そして、今になってみればそれらシングルB面のオリジナル曲のほうがいきいき聞こえる、と。

当時、同じようなことを感じていたファンも少なくなかったようで、チマタで「アイ・ラヴ・ロックンロール」のほうが人気を博し始めたため途中で急遽AB面を入れ替えてシングルが再リリースされたりもした。ミッキー・モストが残念ながらアロウズの個性をうまくつかみかねていたことの証だろう。

アロウズは当時、ベイ・シティ・ローラーズの週一レギュラーTV番組『シャング・ア・ラング』を引き継ぐ形で『アロウズ』という自分たちのテレビ番組を受け持っており、その中で「アイ・ラヴ・ロックンロール」を歌ったこともあった。結局チャート入りはせずじまいで終わったものの、その番組をちょうどラナウェイズのメンバーとして全英ツアー中だったジョーン・ジェットが目撃。数年後にカヴァーして大ヒットさせることになる。

が、チャートインするシングルが出なくなってきたため、RAKレコードはスタッフを一新。ベイ・シティ・ローラーズやケニーに多くの名曲を提供していたビル・マーティン&フィル・コウルターが全面的に関わる形で、1976年、ようやくアロウズのファースト・アルバム『ファースト・ヒット』が制作された。

収められていた全11曲中、「ワンス・アポン・ア・タイム」「レット・ミー・ラヴ・ユー」「ガッタ・ビー・ニア・ユー」の3曲がマーティン&コウルターの書き下ろし。やはりマーティン&コウルターがスリックに提供した「ブギエスト・バンド・イン・タウン」とJ・ヴィンセント・エドワーズに提供した「サンクス」の2曲がカヴァー。「ラヴ・チャイルド」がクレイグ・マクリアリー&ジョン・ローレンソン作。

残る「ファースト・ヒット」「ホワット・カム・ビトウィーン・アス」「ドント・ウォリー・バウト・ラヴ」「ラヴ・イズ・イージー」「フィーリン・ジス・ウェイ」の5曲がアラン・メリルによるオリジナルだった。マーティン&コウルターによるプロの仕事っぽいポップ・チューンも悪くないけれど、ここでもやはりアラン・メリルがあの手この手を駆使しながら提供した5曲のほうが今の耳には興味深く届く。

というわけで、アロウズ。なかなか複雑な存在なのだ。シングルA面とかアルバムの半分とかにプロのヒットメイカーの手が思いきり入っていて、シングルB面とアルバムの残り半分にアラン・メリルらメンバーの意向ががっつり反映されている、と。そのせいで短い活動期間だったにもかかわらずバンドの個性が今いち明確じゃない、みたいな? まあ、ベイ・シティ・ローラーズも含め、当時のイギリスのポップ・バンドの多くが同じような悩みを抱えていたわけだけれど。

とにかくそんな彼らのあれもこれも、1970年代の試行錯誤すべてをぶちこんだ2枚組が本アンソロジーだ。ディスク1に1976年のアルバム『ファースト・ヒット』全曲を収めて、さらにジョニー・バーネットの「ドリーミン」のカヴァーなどミッキー・モスト・セッションからの未発表もの3曲をボーナス追加。

ディスク2は1974年から1975年にかけてリリースされたシングル5枚のAB面、計10曲の他、2004年に編まれた『Aズ、Bズ&レアリティーズ』で世に出た音源5曲をボーナス追加している。前述したアロウズのテレビ番組内にユーロヴィジョン・ソング・コンテストをパロディにした“アロウヴィジョン・ソング・コンテスト”なるコーナーがあって。そこでアロウズは毎回未発表曲を演奏し人気投票をしていた。ディスク2のボーナス5曲はすべてそこで披露されたものなのだけれど、番組のマスターが残っていないということでアラン・メリルが2004年にオリジナルを再現する形で再録音した音源だ。

その2004年セッションでアランと共演したフィル・ヘンドリックスによるライナーを含むブックレットも興味深い。アロウズ本来のポテンシャルを再確認するには絶好の2枚組だと思います。

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