Disc Review

Chicago Transit Authority: 50th Anniversary Remix / Chicago (Rhino/Warner)

シカゴの軌跡(50周年記念リミックス・エディション)/シカゴ

シカゴ、最高!

もちろん、今でも大好き。新作が出れば絶対買うし、来日公演があれば必ず見に行くし。でも、やっぱりいちばん好きなのはデビュー当初の彼ら。現在もバンドを牽引するロバート・ラム(キーボード)のブルー・アイド・ソウル感覚とジェームス・パンコウ(トロンボーン)のジャズ風味、1978年に他界したテリー・キャス(ギター)のロックっぽさ、1985年に脱退したピーター・セテラ(ベース)のアダルト・コンテンポラリー色という、4人の優れたソングライターの個性が共存していた初期のシカゴが最高だ。

中でも、新人としては異例のLP2枚組という豪勢な形態でリリースされたデビュー・アルバムは大傑作。セテラ作の楽曲はまだないけれど、そのぶんラムの持ち味が全開になっていて。当時の学生運動とシンクロする急進的な政治メッセージや理想主義的な問いかけを託した歌詞と、60年代サンシャイン・ポップあたりにも通じる独特の浮遊感をたたえたメロディとの融合ぶりが興味深かった。

まだ“シカゴ・トランジット・オーソリティ”という長いバンド名を名乗っていたころのこと。けっこう鳴物入りで日本にも紹介された大型新人バンドだった。なので、あのころ中学生だったぼくもガキなりに注目していた。が、アルバムは買えなかった。いきなり2枚組なんだもの。アメリカじゃ1枚ものと変わらない低価格だったらしいが、日本じゃしっかり2枚組価格だった。

なので、当初は仕方なく、71年ごろまでにかけて次々ここからカットされたシングルばかり買って聞いていた。「クエスチョンズ (Questions 67 and 68)」とか、「いったい現実を把握している者はいるのだろうか (Does Anybody Really Know What Time It Is?)」とか、「ビギニングス (Beginnings)」とか。それがぼくにとっての初期シカゴのイメージだ。つまり、ロバート・ラムのメロディを、ジェームス・パンコウのアレンジによるふくよかなホーン・セクションが包むブラス・ポップ・バンドといった感じ。

確かに、音楽雑誌などでは当時FM番組のテーマ曲にもなっていたテリー・キャス作の「イントロダクション」のファンキーな味とか、「フリー・フォーム・ギター」のアヴァンギャルドさとか、日本独自にシングル・カットもされた「流血の日 (Someday - August 29, 1968)」のメッセージ・ロック風味とか、パンコウ作の「解放 (Liberation)」でのフリーかつプログレッシヴな長尺インプロヴィゼイションとか、そういうのも大いに話題になっていた。そっちのほうが評価が高かったかも。実際、その感触が以降、2作目、3作目とアルバムを重ねるごとに強調されていった感じもする。

けど、時代を経て、振り返って聞いてみると、むしろシングルしか買えなかった貧乏ポップス小僧のいいかげんな第一印象のほうが彼らの本質を射抜いていたような気もしなくはない。のちに鉄壁のアダルト・コンテンポラリー・バンドへと変身したと語られるシカゴだけれど、その萌芽は確実にこのデビュー盤からすでにあったということだ。

そんな傑作デビュー・アルバムのオリジナル・リリース(1969年4月)から半世紀。50年。ということで、周年を記念してバンドのメンバー自らが関わりながらのリミックス音源ってのがリリースされた。うれしい。

オリジナル・ミックスでは、昔ながらの、左右に広げすぎっぽい定位になっていたホーン・セクションがどーんとセンター寄りにまとまっているのがいちばん目立つ変化か。シカゴの場合、けっこういい状態のリマスター音源が繰り返し再発され続けていて。本作に関しても2002年のリマスターがごきげんだったので、今回のリミックスにあたってはそっち方面の音質的向上を目指したというよりも、バンド・サウンドならではの一体感というか、定位の安定感のようなものを目指した感じ。

ホーンもギターもヴォーカルも、きらびやかに高域を伸ばすのではなく、全体的に中音域の太さのようなものを強調する方向性でまとめられているので、このあたり、派手さに欠けるとか、賛否はいろいろあると思うけれど、まあ、リミックスというのはすべからく賛否分かれるものだから。ぼくとしてもですね、えー、これはこれで楽しかったけど…っていうのが正直なところ。せっかく買いはしましたが、長く親しんできたぶん、やっぱオリジナル・ミックスのほうが…(笑)。

Apple MusicSpotifyにも入っているので、サブスクを利用して両者の違いを軽い気分で聞き分けながら楽しみましょう。

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