インテリア・パーソン/サマンサ・シドリー
先月、ヴァン・ヘイレンのカヴァー・アルバムを出して話題を集めたザ・バード&ザ・ビーのイナラ・ジョージ。あのアルバム同様、彼女が去年立ち上げたインディ・レーベル“リリース・ミー・レコード”からの1枚を今朝はご紹介。ロサンゼルスを拠点に独自の活動を続けるシンガー、サマンサ・シドリーの初フル・アルバムだ。
ジャケットのイメージ通り、無声映画時代のレトロな文化に憧れているかのような仕上がり。持ち前の繊細な歌声で、ステイシー・ケントやキャット・エドモンソンあたりにも通じる魅力的な世界観を編み上げている。風通しのいいリッキー・リー・ジョーンズというか、くどくないマリア・マルダーというか…(笑)。子供のころからお父さんの影響でビリー・ホリデイばっかり聞いていたという、その経験が存分に活かされている感じだ。
この人、バーバラ・グルスカの同性婚パートナーだそうで。バーバラ・グルスカといえば、1974年の『グルスカ・オン・グルスカ』とか、1984年の『カフェ・グルスカ(Which One of Us Is Me)』といったソロ・アルバムや、マクサスの一員としての活動などで日本でも評価の高いソングライター/プロデューサー/ミュージシャン、ジェイ・グルスカの娘さん。弟のイーサンと組んだザ・ベル・ブリゲイドでの活動でおなじみかもしれない。
ということで、そのバーバラ・グルスカがアルバムをプロデュース。ライヴではジャズ/ポピュラー・スタンダードのカヴァーとかもたくさんやっているようだけれど、今回のアルバムはオリジナル曲が中心だ。といっても、サマンサさんはキャット・エドモンソンみたいに自分で曲を作ったりしないので、最愛のパートナーであるバーバラを筆頭に、レーベル・オーナーでもあるイナラ・ジョージ、そしてイナラとリヴィング・シスターズを組んだりバーバラとゼロ・ディザイアなるユニットを組んだりもしているアレックス・リリーという3人の才女に曲作りをおまかせ。この3人がLGBTならではの眼差し/メッセージなどもさりげなく盛り込みつつジャジーな楽曲を提供している。
そこに、なんとブライアン・ウィルソン作、ビーチ・ボーイズのアルバム『フレンズ』収録のボサノヴァ「ビジー・ドゥーイン・ナッシン」のカヴァーを加えた全10曲。古き良き音楽性と現代的な視点とがいいバランスで融合したアルバムに仕上がっている。バーバラがサマンサの子供時代のベッドルームを録音もできる簡易スタジオに改造したらしく。そこで寝泊まりしながらのレコーディングだったとか。そのおかげか、普通だったらこの種のレトロ路線の場合、ちょっとヴァーチャルだったり、ドリーミーすぎたり、現実離れしたアルバムになりがちなところ、本作は全編とてもパーソナルな手触りに貫かれていて。素敵だ。
イナラ/ザ・バード&ザ・ビー、アレックス・リリー、ザ・ベル・ブリゲイドあたりのファンの方はお見逃しなく。そういえば、10年くらい前、『アメリカン・アイドル』に同じ名前の子が出てノラ・ジョーンズとかいい感じで歌ってハリウッドまで行っていたけど、この人、あのサマンサだよね? 予選会場にバーバラも付き添っていた気がする。昔のことすぎてよく覚えていないけど…。