Disc Review

Honky Château: 50th Anniversary Edition / Elton John (Mercury/Universal)

ホンキー・シャトー:50周年記念エディション/エルトン・ジョン

昨夜のCRT“早春ジョニ・ミッチェル・ナイト”、たくさんご来場ありがとうございました。さすがキャリアの長いジョニ姐さんだけに全然聞き足りない、語り足りない…という感もありますが、それでもたっぷり聞いて語って飲んで食べた一夜。楽しかったですねー。続編もぜひやりたいです。

次回は4月19日(水)にバート・バカラックをテーマに開催予定です。詳細決まりましたらまた告知させていただきますね。

というところで今朝のピックアップ・アルバム。また再発なんですが。エルトン・ジョンです。以前も書いた気がするけれど。エルトンさんに関しては今年、『ピアニストを撃つな!(Don't Shoot Me I'm Only the Piano Player)』と『黄昏のレンガ路(Goodbye Yellow Brick Road)』がそれぞれ発売50周年を迎える。でも、この人の50周年記念盤、ちょっと渋滞気味で(笑)。本来ならば去年の5月に出るべきだった50周年記念エディションが、ようやく、半年くらいずれ込んで出ました。

1972年リリースの『ホンキー・シャトー』。代表曲「ロケット・マン」を収録した、エルトンにとって初の全米ナンバーワン・アルバム。発売前にラジオでアルバムのA面全曲かかったことがあって。それ聞いた途端、かっこよくてぶっとんだことをよく覚えている。それまでも「僕の歌は君の歌(Your Song)」とか「ダニエル」とか「可愛いダンサー(Tiny Dancer)」とか大好きでエルトンさんのレコードはちょこちょこ買っていたけれど、このアルバムでいよいよ本気で彼の魅力にハマった感じ。

というのも、何年か前ここでもちらっと書いたように、この人、デビューしたてのころ日本では“ロックの吟遊詩人”とか、そんなキャッチコピーで呼ばれていたもんで。けっこう華奢で繊細なイメージばかりが先行していた。でも、1971年10月の初来日公演が、そんなイメージを吹き飛ばした。コンサート前半はピアノの弾き語りでしっとりきめていた吟遊詩人さん。が、休憩を挟んで後半に入ると、ドラムとベースを従え、なんとマントまでまとってど派手に再登場。ピアノに乗ったり、鍵盤叩きながらジャンプしたり。ナイーブな吟遊詩人の歌声を聞こうと詰めかけた日本のファンはぶっとんだ。どん引いた。

仕方ない。ハードなロックンロール・パフォーマンスを含むライヴ・アルバムもすでに1枚出ていたとはいえ、まだまだ海外の情報がすんなり入ってこなかった時代。エルトン・ジョンが本格的にそういう人だとはつゆ知らず。高校生だったぼくも客席で大いに慌てたものだ。青く、リリカルな持ち味だけがエルトンの魅力ではなかった。彼はジェリー・リー・ルイスやリトル・リチャードの伝統を受け継ぐ強力にファンキーなピアノ・ロックンローラーでもあった。この、繊細さとバカっぽさとの分かちがたい融合ぶりこそがエルトンの真骨頂。そんなことを思い知らされたのだけれど。

初来日公演のわりと直後に出たアルバム『マッドマン(Madman Across the Water)』はまだ吟遊詩人っぽいイメージを受け継いだ、メランコリックだったりドラマチックだったりする傾向の1枚だっただけに、それに続く本作『ホンキー・キャット』こそ、その“繊細さとバカっぽさ”という彼の両面がいい形で共存した初の1枚として当時本当によく聞いたものです。

18世紀に建造されたパリの古城、シャトー・ド・エルヴィルを改築したスタジオでのレコーディング。エルトンのオリジナル・アルバムの場合、それまではセッション・ミュージシャン中心に録音されることが多かったけれど、このアルバムからディー・マーレイ(ベース)、ナイジェル・オルソン(ドラム)、デイヴィ・ジョンストン(ギター)らライヴ・バンドの面々がスタジオでも本格的にバックアップを手がけるようになった。前作まで目立っていたポール・バックマスター編曲による壮麗なストリングス・アンサンブルに替わってホーン・セクションやシンセサイザーなども積極的に導入され、ぐっとタイトでコンパクトな音作りを提示。

セカンド・シングルとしてカットされた「ホンキー・キャット」とか、エルトンのポップでファンキーな面がいい形で結実した仕上がりで。大好きだった。サード・シングルとしてカットされる予定もあったというポップなシャッフル・ロックンロール「ハーキュリーズ」とかも“ドゥワッ、シュワッ…”ってコーラスも楽しくて。盛り上がった。もちろんエルトンのメロウで繊細な持ち味が発揮された超名曲「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」みたいな曲も含まれていたし。バランス絶妙。

そんな路線転換も見事にハマり、全米チャートでエルトン初のナンバーワン・アルバムに。以降、1975年の『ロック・オブ・ザ・ウェスティーズ』まで、6作連続で全米ナンバーワン・アルバムを連発する、その第一歩を記録したのでありました。いぇーい!

今回はオリジナル・アルバム収録曲に加えて、セッション・デモ9曲、および1972年、英ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで収録されたライヴ音源8曲をボーナス追加。バンジョーがばりばり鳴り響く「ホンキー・キャット」のデモとか、エルトンの意図がよくわかる気がして超ごきげんです。

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