Disc Review

The Albums / Kenny (7TS/Cherry Red Records)

ジ・アルバムズ/ケニー

1970年代半ばに英国のグラム・ポップ・シーンをほんの一瞬賑わしたバンド、ケニーの全音源42トラックを詰め込んだCD2枚組アンソロジーが出ました。

この人たち、ベイ・シティ・ローラーズにあの「サタデー・ナイト」をはじめ「想い出に口づけ(Remember)」「ベイ・シティ・ローラーズのテーマ(Shang-a-Lang)」「太陽の中の恋(Summer Love Sensation)」「明日に恋しよう(All of Me Loves All of You)」といった必殺の名曲を数々提供していた名ソングライター・チーム、ビル・マーティン&フィル・コウルター絡みのグループで。

というか、もともとはザ・サンズとかザ・ヴァンパイアズのリード・シンガーをつとめていたトニー・ケニーというシンガーがいて。彼のために1973年、マーティン&コウルターが曲を書き、ミッキー・モストがプロデュースした「ハート・オヴ・ストーン」という曲がレコーディングされたのだけれど。このレコードが“ケニー”名義で出たところでトニー・ケニーはなぜかアイルランドへ帰郷。その後、入れ違いでこの曲と次作「ギヴ・イット・トゥ・ミー・ナウ」がイギリスでヒットするというタイミングの悪い流れになってしまった。

マーティン&コウルターはさらなる楽曲「ザ・バンプ」も用意していた。1974年にベイ・シティ・ローラーズがシングル「明日に恋しよう」のB面に収めてリリースしていた曲で。これをケニー名義でもリリースしようとすでにセッション・シンガーのバリー・パーマーを使ってレコーディングもすませていた。が、“表の顔”となるはずだったトニー・ケニーがいなくなってしまったため、この曲をテレビなどでお披露目したりライヴ演奏したりしながらプロモーション役を務めてくれる既成のバンド探しが始まった。そこでマーティン&コウルターが白羽の矢を立てたのが、ロンドンのロック・サーキットでホークウィンドやエドガー・ブロートン・バンドなどと対バンしたりしていたチャフというバンドだった。

このチャフには、ギターのヤン・スタイルやベースのクリス・レッドバーンなど、きっちり曲も書けるメンバーがいたため、そのオファーを受けるかどうかバンドとしても悩んだらしいのだけど。結局はスターダムへの近道としてその役回りを承諾。新たに、やがてコックニー・レベルに加入することになるリック・ドリスコールをヴォーカリストとして迎え入れ、“ケニー”とグループ名を変えて、自分たちが演奏すらしていない「ザ・バンプ」で華々しくデビューを飾った、と。

そんなケニーがRAK、ポリドール、デッカなど様々なレコード・レーベルに残した全音源を収めたCD2枚組が本作だ。ディスク1には、1975年にリリースされたファースト・アルバム『ザ・サウンド・オヴ・スーパー・K』の全曲と、アルバム未収録のシングルB面曲や、まだトニー・ケニーが関わっていた時期のシングル音源など9曲のボーナスを収録。全英3位にランクした「ザ・バンプ」、全英4位の「ファンシー・パンツ」、全英12位の「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー、OK」、全英10位の「ジュリー・アン」、ドイツでヒットした「ナイス・トゥ・ハヴ・ユー・ホーム」など、1974年から1975年にかけてリリースされたマーティン&コウルター作のシングル曲は全部こちらで聞くことができる。ダイアモンズの「リトル・ダーリン」のカヴァーもあり。

が、ケニーの成功はそこまで。アルバム自体、全英56位どまり。彼らは目論んだようなスターダムを手に入れることはできずじまいだった。そこで1976年、マーティン&コウルターの支配下から逃れる裁判を起こし、RAKレコードから離脱。新たにポリドールと契約してドリスコール&スタイルらメンバーによる自作曲中心のセカンド・アルバム『リコシェ』を制作したものの、これはドイツと日本でリリースされたのみ。まったく大きな注目を集めることなく終わってしまった。

その『リコシェ』の全曲と、アルバム未収録のシングル音源やベーシストだったクリス・レッドバーンによる未発表スタジオ・デモなどを追加したのが本作のディスク2だ。1976年の「レッド・ヘッデッド・レディ」や1977年の「オールド・ソングズ・ネヴァー・ダイ」のようなトニー・マコーレイ&ロジャー・グリーナウェイ作によるシングルもこちらで楽しめます。メンバーの自作曲もそこそこ充実。けっこういい感じにバッドフィンガーっぽいと言えなくもなかったりして。まずまず。フォー・トップスの「リーチ・アウト」、ジャッキー・ウィルソンの「ハイヤー・アンド・ハイヤー」のカヴァーもぼちぼち。

が、その後、メンバーは散り散りに。ミュージシャンから裏方に転じたメンバーなどもいて、ケニーは活動停止期間を経て正式に解散。短い活動期間のわりに、なんともややこしい歴史がうねっているバンドではあるけれど、ケニー、いろいろな側面からそれなりに再評価したい存在ではあります。これまでのチェリー・レッド系リリース同様、サブスクはなし。今のところ輸入盤CDのみですが、11月に入ると国内盤CD(Amazon / Tower)も出るみたい。

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