エ・プルリブス・M・ロス/M・ロス・パーキンス
オハイオ州デイトンを本拠に活動するポップでレトロなシンガー・ソングライター、M・ロス・パーキンス。ハリー・ニルソン、エミット・ローズ、ブライアン・ウィルソン、ポール・マッカートニーら偉大な先達の名前まで引き合いに出されて、まあ、一部でではあったけれど熱く絶賛された2016年のデビュー作以来、久々のフル・アルバムが出た。
“多くの州から成り立っている統一国家”としてのアメリカ合衆国のことを表わす“エ・プルリブス・ウヌム(E pluribus unum)というラテン語にひっかけたアルバム・タイトル。つまり、“多彩な要素から成り立っているM・ロス・パーキンス”というようなニュアンスかな。
基本的にひとりですべての楽器を演奏しながら、多重録音で自身の音世界を宅録するタイプのアーティストなのだけれど。新型コロナウイルスのパンデミックはそんな彼にとっても大きかったようで。世界が終わっちゃうかも的な恐怖すら漂う未踏の混乱の中、自分だけ現実から目をそらし、地下室に閉じこもって“オー・ベイビー・ベイビー…”とか、のほほんとポップな歌を作っていて何か意味があるのか自問する日々だったとか。
でも、そんな迷いの時期に、コールマイン・レコードのテリー・コールから契約話を持ちかけられて心機一転。今、この時期に自分にできることをまっすぐやるしかないんだとばかり、地下のスタジオで新作のレコーディングに着手して。そこで完成させたのが本セカンド・アルバムだとのこと。
なので、まあ、音世界的にはファースト同様、ニルソンやらエミット・ローズやらビートルズやらキンクスやらサーチャーズやらゾンビーズやらバーズやらフライング・ブリトー・ブラザーズやら、そうした様々なタイプの1960年代ポップスに対する熱い思いに貫かれたものに仕上がっているのだけれど、同時にフェイク・ニュースや悪意のある偽情報への疑念や怒りがこめられた今ならではの歌詞が聞かれたり。洒落心とシリアスな眼差しとが交錯する1枚だ。
もちろん今回も本人の多重録音ものながら、前作よりバンドっぽさを増した感も。けっこう中期ビートルズ的なサイケデリアっぽい展開を示す曲があったり、バーズっぽいギター・リフが渦巻いていたり、さすがのこだわりが随所に感じられはするものの。かといってスタジオ・テクノロジーを駆使して昔っぽい音像をマニアックに再現するとか、そっち方面にあまり専心してはいないようで。その辺の素直な手触りにも好感が持てます。
アルバム・ジャケットに合わせた限定ブルー・ヴァイナルLPとかあるのね。ちょっと欲しいかも。