Disc Review

Homemade / Andrew Gabbard (Karma Chief/Colemine Records)

ホームメイド/アンドリュー・ギャバード

かつては“アンディ・ギャバード”と名乗っていたっけ。

拠点はオハイオ州デイトン。同じオハイオ州アクロン出身のダン・アワーバックが見出したガレージ・ロック・バンド、ジー・シャムズのギター&ヴォーカルとして、2001年、世に出て。やがて2006年からはコズミックなナゲッツ系サイケ・バンドとでも言うべきバッファロー・キラーズの一員として活動して。クリス・ロビンソンに見初められてブラック・クロウズのツアーに同行したりもして。さらにそれらと並行する形で、両バンドにも在籍していた兄弟のザッカリーとともにギャバード・ブラザーズとしてシングルを出したり、アワーバック率いるブラック・キーズのツアー・サポートもつとめたり…。

と同時に、かのブライアン・ウィルソンが“マイ・バディ”と形容する人だったりもするから、これまた油断ならない。一昨年、ビーチ・ボーイズのカヴァー・プロジェクトをやってみたり、去年の夏、「サーフボードUSA」なるビーチ・ボーイズ+サー・ダグラス・クイテットみたいな、奇妙にねじれたサーフィン・シングルをリリースしてみたり、同年秋に『ペット・サウンズ』収録の超名曲「ドント・トーク」をカヴァーしたトリビュート・シングルを出してみたり…。

と、そんなギャバードさんのソロ名義による新作アルバムが去年の暮れに出た。それをぜひ紹介してくださいというツイートを、本ブログを読んでくださっている“おいしい音楽”さんから先日いただきまして。そういや、けっこういいアルバムだったのに年末年始のゴタゴタの中、つい紹介しそびれていたな、と反省。なので本日、遅ればせながら紹介することにしました。去年の12月アタマ、今回は“アンディ”ではなく“アンドリュー・ギャバード”名義でリリースされたソロ・アルバム『ホームメイド』です。

ソロでのフル・アルバムとしてはアンディ・ギャバード名義で2015年に出た『フラフ』以来かな。カーマ・チーフ/コールマイン・レコードに移籍後はけっこう頻繁にシングル・リリースを続けていたけれど、アルバムとしてはたぶんこれが初。ということで、ある種の集大成というか。これまで様々なフォーマット/状況で培ってきた多彩な音楽要素を一気に放出したかのような1枚に仕上がっている。

もちろん『ペット・サウンズ』期以降のビーチ・ボーイズ/ブライアン・ウィルソン的なニュアンスもあるし、ハリー・ニルソン的な屈折ポップ感もあるし、ザ・バーズっぽいスペイシーな香りもあるし、グラム・パーソンズ的なコズミック・カントリー色もあるし、中期以降のビートルズ的な手触りも見え隠れするし…。そうそう、アルバムのラスト・ナンバーとしてカヴァーしている「プロミシズ・アイヴ・メイド」のオリジネイター、エミット・ローズみたいな感触も当然、随所に溢れているし。

マニアックなポップス・ファンにとって聞き逃せないそうした要素を、ウィルコやフレイミング・リップス的なオルタナ感と合体させた音像に乗せて、まさに“ホームメイド”という感じの、私的というか、内省的というか、そんな風景なりテーマなりがふわっと歌われていく。愛する教師の死とか、混乱に満ちた世の中で自分を見つめ直すことの大切さとか、ハイになることとか…。

オープニング・ナンバー「ウェイク・アップ、ブラザー」に歌われている“今、ぼくたちは2021年を生きている/愛する人にキスするんだ/愛する人がまだここにいるなら…”という一節に漂う、ポジティヴなようなネガティヴなような、堅固に思えていたあらゆるものが揺らぎまくっているこの時代ならではの空気感がなんとも印象的だ。

内向きなベッドルーム感と、外向きなポップ感とが適度なバランスで共存するいい塩梅の1枚。ジャケットはボビー・チャールズっぽいっすね。コールマイン・レコードのWEBショップでは、「ウェイク・アップ、ブラザー」に引っかけて、LPとCDにコーヒー豆付けたバンドル・セットとかも売ってました(笑)。

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