Disc Review

Stars / Ryan Pollie (Mapache Records)

スターズ/ライアン・ポリー

先月、というか去年ですが、去る12月アタマに配信スタートしたアルバムのご紹介です。

ぼくがこの人、フィラデルフィア生まれでロサンゼルス在住のシンガー・ソングライター、ライアン・ポリーの存在を知ったのは2019年。SpotifyだったかApple Musicだったか、サブスクのリコメンド・プレイリストか何かの中で出くわした「ノー・ウーマン・ノー・クライ」のカヴァーで知って。なかなかいいじゃんと、その半年くらい前に発表されていたセルフ・タイトルド・アルバムとか、それ以前“ロサンゼルス・ポリス・デパートメント”なるユニット名を名乗っていた時期の音とか聞いてみたら。

これが、なんというか、こう、カントリー方面に寄りすぎない感じの1970年代西海岸系シンガー・ソングライターっぽいニュアンスというか、ポップなような、でもけっこうひねくれているような、ちょっぴりアシッドでサイケなアプローチに貫かれた音楽が展開していて。1960年代後期のビーチ・ボーイズとかザ・バーズとかグレイトフル・デッドとかCSNYとかバッファロー・スプリングフィールドとかに通じるポップ・イディオムの雨アラレ。フォクシジェンのジョナサン・ラドーと組んだアルバムもあったりして。思いきり気に入ってしまった。

と、そんなライアン・ポリーの新作。途中にライヴEPと“トータル・リヴェンジ”なるユニット名を名乗ったポップ・パンク盤を挟んで、ソロ名義によるスタジオ・フル・アルバム第2弾だ。

オープニング・ナンバー「ザ・ショア・ハウス」はいきなり、ⅡーⅤ進行のピアノ・コードに乗って、ストリングス・アンサンブルが滑り込んできて、さらに独特の音の積み方をしたサックス・セクションが絡んで、歌が現われて、胸キュン系ポップ・メロディが綴られて。おー、なんかポール・マッカートニーのような、いや、トッド・ラングレンのような…。

とか思っていたら、やがて転調するポイントでぐっとブライアン・ウィルソン風味を増して、『ペット・サウンズ』期のバリトン・ギター的フレーズが顔を出したり、突然ホイッスルがピーッ!と吹き鳴らされたり、サックス・セクションがこれまたぐっと『ペット・サウンズ』色を強めたアンサンブルを聞かせて、やがてギターがウイングスみたいなフレーズを披露して、ハープがかき鳴らされて…。

いやいや、今回もまたたまらない展開。まいりました。と思うと、そのあとを聞き進めていくと、今度はグレイトフル・デッドっぽい、ゆるさと緊張感とが絶妙に交錯するグルーヴが登場したり、ハリー・ニルソン的というか、タイニー・ティム的な要素が聞き取れたり、バッファロー・スプリングフィールド期のスティーヴン・スティルスとかリッチー・フューレイとかの感触があったり、突然ピンク・フロイドみたいな、ブルージーな手触りとフォーキーな味わいが交錯する音像が飛び出してきたり。

ただ者じゃないなぁ。なんでも2018年に癌を宣告されたものの、化学療法を受けながら克服。そして今、こんな素敵なポップ・ワールドを提供してくれているのだとか。なんか感謝です。めいっぱい受け止めて、楽しませてもらいます。

フィジカルは今のところ1月下旬に出るというヴァイナルのみ。bandcampではもう買えそう。あとはダウンロードかストリーミングのデジタル・リリースです。こりゃ、迷わずヴァイナルだな。

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