
トーマス・ローダーデイル・ミーツ・ザ・ピルグリムズ/トーマス・ローダーデイル
ちょっと前、先々週の末にマヴェリックスのラウル・マロによる新作ギター・インスト・アルバム『セイ・レス』を紹介しましたが。
今日もインストものをご紹介。ノージくんが見つけて教えてくれたのだけれど。これがとんでもなくごきげんな1枚でした。ピンク・マルティーニの中心メンバー、トーマス・ローダーデイルが、彼らの地元、オレゴン州ポートランドを拠点に活動してきた伝説的サーフ・インストゥルメンタル・バンド、サタンズ・ピルグリムズと組んだアルバム。
ローダーデイルが結成間もないサタンズ・ピルグリムズを最初に見たのは1993年のことだとか。まだピンク・マルティーニを本格的に始動させる前。ギター3本が見事に入り乱れるピルグリムズのクールでパワフルなサーフ・インストに偶然出くわして、ローダーデイルは大盛り上がり。
ピルグリムズはメンバー全員が“ピルグリム”姓を名乗るという、まあ、そのテのお約束のもとで活動していて。それに則って言うと、ギタリストのうちのひとり、長身のデイヴ・ピルグリム(本名はデイヴ・バサカー)のプレイのとりこになったローダーデイルの脳裏に、このクールでエキゾチックなサウンドでジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」をカヴァーしたいという思いが強くよぎったらしい。
それで1996年、ピンク・マルティーニのファースト・アルバム『サンパティーク』の制作と同時並行する形で、ローダーデイル&サタンズ・ピルグリムズのレコーディングもスタート。今回のアルバムの冒頭に収録されている「ラプソディ・イン・ブルー」が生まれた。ローダーデイルのピアノ演奏とピルグリムズのサーフ・インストとの夢の合体だった。
が、翌年になってピンク・マルティーニのアルバムのほうが先に完成。そちらの活動が軌道に乗り始めたこともあり、こちらのプロジェクトは残念ながら棚上げ状態に。ピンク・マルティーニ、サタンズ・ピルグリムズ、それぞれがそれぞれのアルバム・リリースやライヴ活動を続けていたのだけれど。
その15年後、2011年になってローダーデイルの中で再びピルグリムズと共演したい思いが改めて盛り上がってきて。彼らは再開して他の曲をレコーディング。さらにその10年後、2021年にローダーデイルが一部自分のピアノを差し替えたり。残念ながらその年にデイヴ・ピルグリムは他界してしまっていたのだけれど、ドラムのテッド・ピルグリム(本名はテッド・ミラー)がローダーデイルと協力して、ついにこのアルバムが完成に至った、と。そういうことらしい。
最初の共演レコーディングから27年。半世紀超えの夢のリリースだ。
選曲的には、ファビュラス・ウェイラーズの「トール・クール・ワン」とかローレンス・ヴェルクの「カルカッタ」とか九ちゃんの「スキヤキ」とか、ベンチャーズもレパートリーに取り入れていた人気ナンバーも交えつつ、それらも含めて、へー、こんな曲もサーフ・インストにしちゃうんだ?的な、いわばピンク・マルティーニ的なセレクション。
映画音楽あり、ミュージカルものあり、ジャズ・スタンダードあり、ラテンあり。ビーチ・ボーイズの「ガールズ・オン・ザ・ビーチ」もやってますが、これは歌もの。本当はレズリー・ゴアに歌ってもらいたかったらしいのだけれど、2015年に彼女が他界してしまったこともあり、レズリー同様、LGBTQであることをカミングアウトしているフランクがヴォーカルを担当。マイク・ラヴの妹、モーリーンがハープを奏でている。なんか微妙にメロディ間違ってる気がするんだけど…(笑)。でも、ローダーデイルらしい選曲か。
「バリハイ」にはポートランド州立室内合唱団も参加してます。真っ向からのエレキ・インスト・ファンからは発想できないような選曲の、でもごきげんなインスト・アルバムという感じです。アナログで買ったらmp3のダウンロード・コード付いてましたー。