Disc Review

Long Time Coming / Sierra Ferrell (Rounder Records)

ロング・タイム・カミング/シエラ・フェレル

ウェスト・ヴァージニア州のスモール・タウン、チャールストンで生まれ育ったシンガー・ソングライター、シエラ・フェレル。20歳代になりたてのころに出くわした遊牧民ミュージシャン一座によるパフォーマンスに刺激を受けて、自らも旅暮らしへ。自分で運転するトレーラーで寝起きしながら、ニューオーリンズからシアトルまで、全米各地で自身のオリジナル曲や古いスタンダード・ナンバーを路上演奏。長距離トラック用ドライヴインや、貨物列車の停車場など、あらゆる場所が彼女のステージだった。

ぼくはまったく知らなかったのだけれど、いろいろ調べてみると、2014年と2016年に1枚ずつ、自主制作のアルバムをリリースしたりもしていたみたい。気になる。

そうこうするうちに、2017年、全米中のアメリカーナ系ミュージシャンをサポートするYouTubeチャンネル“GemsOnVHS”がシエラさんに注目。彼女が自分のオリジナル・ソングを演奏する映像を何曲かアップロードし始めた。そんな中、2018年にアップされた「イン・ドリームズ」「ジェレマイアー」の2曲の映像が特にルーツ音楽ファンの心をとらえ、そのスジで一気にバズった。カントリーを基調に、どこかオリエンタルなエキゾチックなムードも漂わせた曲調がユニークだった。鼻ピ姿も強烈に印象的だった。

さらに、トレーラーで旅しながらたどり着いたナッシュヴィルのクラブでのライヴなども評判を呼ぶようになり、ついにラウンダー・レコードが彼女にアプローチ。契約が決まってめでたくアルバム・デビューが実現したのでありました。

そんなふうにして誕生した彼女のファースト・フル・アルバムが本作『ロング・タイム・カミング』。ブルーグラスも、カントリーも、カウボーイ・ソングも、ブルースも、ジャズも、ジプシー・スウィングも、タンゴも、さらにはテクノも、ゴス・メタルも、なんでもかんでも大好きというシエラさんの幅広い趣味を反映した、ジャンルも時代性も奔放に行き来する、実にイマジネイティヴな1枚だ。

オーストラリア出身ながらナッシュヴィルに定住して活躍しているステュ・ヒバードと、アリソン・クラウスやドリー・パートン、ギリアン・ウェルチらとの仕事でおなじみのゲイリー・パチョーサという実力派エンジニア/プロデューサーの下、シエラ・フェレルはたやすくはカテゴライズすることができない自身の多彩な音楽性をのびのび発揮してみせている。素晴らしい。

そんな彼女の持ち味を支えるのは、ジェリー・ダグラス、ティム・オブライエン、クリス・スクラッグズ、サラ・ジャローズ、ビリー・ストリングス、デニス・クラウチら新旧の腕ききミュージシャンたち。彼らががっちり、シエラさんの魅力的な歌声と、豊かなメロディラインと、内省的で、どこかダークな色合いをもたたえた歌詞とを見事にバックアップする。ペダル・スティールとか、フィドルとか、ドブロとか、バンジョーとか、曲によってはトロンボーンとか、クラリネットとか、なんとノコギリとかまで飛び出す音世界には奇妙な吸引力がある。歌声にも、なんか往年のマリア・マルダーを想起させる柔軟さと艶っぽさが感じられるし。

アメリカーナというジャンルで受け止めるのがいちばんしっくりくるのだろうけれど、レトロな眼差しと同時にコンテンポラリーな肌触りもきっちりあって。禁酒法時代と新型コロナウイルス禍の時代とがぐにゃっとワープしながら二重映しになったり…。なかなかに魅力的な新進アーティストが登場してきたぞ、というワクワク感に胸が高鳴る。前述、“GemsOnVHS”でバズった2曲もごきげんだし、加えて個人的には、ジミー・ロジャースの「マイ・キャロライナ・サンシャイン・ガール」あたりを思い出させてくれる「アット・ジ・エンド・オヴ・ザ・レインボウ」とか、もう大好き。「ウェスト・ヴァージニア・ワルツ」や「ウィスパリング・ワルツ」のような切ない3拍子ものも沁みる。

限定カラー・ヴァイナルには出遅れちゃったけど、通常のブラック・ヴァイナル(Amazon / Tower)、ゲットしましたー。この手の音楽はやっぱアナログがよいね!

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