Disc Review

Leftover Feelings / John Hiatt with The Jerry Douglas Band (New West Records)

レフトオーヴァー・フィーリングス/ジョン・ハイアット・ウィズ・ザ・ジェリー・ダグラス・バンド

ジョン・ハイアットといえば、やっぱ“すべりもの”がよく似合う。

スライドもの。1987年の出世作『ブリング・ザ・ファミリー』でのライ・クーダーを筆頭に、サニー・ランドレス、マイク・ヘンダーソン、マック・ゲイドン、デヴィッド・イマーグリュック、ルーサー・ディッキンソンなど、エレクトリック・ギターのボトルネック・プレイはもちろん、リゾネイター・ギターからペダル・スティールまで、スライド演奏系の名手を頻繁に自らのアルバムに起用。本当に“すべりもの”が好きというか。相性がいいというか。

そんなハイアットだけに、この人との本格的タッグは時間の問題だったのかも。というか、よくこれまで一緒にやらずにいたものだな、と。こうして夢の共演が実現してみると、改めて思う。

ジェリー・ダグラス。

そう。言わずと知れたリゾネイター・ギター最強の名手だ。ご存じの通り、ブルーグラス・シーンの最重要プレイヤーのひとりではあるけれど、こまごましたジャンルの壁などものともせず超越しまくった幅広い活動でも知られている。今回、ジョン・ハイアットはそんなダグラス率いるザ・ジェリー・ダグラス・バンドの面々とタッグを組んで、エルヴィス・プレスリーを筆頭に無数の偉大な先達が名盤を生み出してきたナッシュヴィルの名門RCAスタジオBへ。2018年の『ジ・エクリプス・セッション』以来の新作アルバムをレコーディングした。

ダグラス・バンドの顔ぶれは、ジェリー・ダグラス(リゾネイター・ギター)、ダニエル・キムブロー(ウッド・ベース)、マイク・シール(ギター)、クリスチャン・セデルマイヤー(フィドル)。ブルーグラスの伝統にのっとってドラムがいない編成だ。ドラムレス。にもかかわらず…いや、むしろドラムレスだからこそ、か。ものすごく柔軟なドライヴ感に裏打ちされたグルーヴがアルバム全編を貫いていて。ここにジョン・ハイアットのヴォーカルが加わって、もう、ごきげんこの上なし。これまたブルーグラスの流儀に忠実に、基本的に全員がスタジオ入りしての一発録りでのレコーディングだったという。

まあ、実際、ハイアットは2000年のアルバム『クロッシング・マディ・ウォーターズ』でもアコースティック・ギターやマンドリンなどを多用したトリオ編成の下、フォーキーで、ブルージーで、ちょっとだけブルーグラスっぽい要素もたたえた音作りに挑んだことがあって。今回が初のドラムレス・アルバムというわけではない。ただ、なんか気合が違うというか。物語が違うというか。今回、ハイアットならではのルーツ・ロック感覚がダグラスたちのアコースティカルな超絶アンサンブルと絶妙に融け合って、とてつもなく新鮮なロックンロール・グルーヴを現出させている。すごい。

ブルーグラスの要素をわりとストレートに反映しているかなと思われるのは、ちらっとボブ・ディランの「イット・エイント・ミー・ベイブ」のイメージが重なる「オール・ザ・ライラックス・イン・オハイオ」くらい? それも含めて全11曲、アップものからスローまでルーツィな名曲ばかり。ドラムはいないけれど、むしろ今回は『クロッシング…』と違ってエレクトリック・ギターもがっちり導入されていて。マイク・シールが電・生両方で的確なプレイを披露している。でも、すべてが無理なく、ナチュラルに、一体化していて。いい感じ。

考えてみれば、エルヴィス・プレスリーだって当初、メンフィスのサン・レコードからローカル・デビューを飾ったときはアコースティック・ギター+エレクトリック・ギター+ウッド・ベースという、ドラムがいないトリオ編成で演奏していた。それでもエルヴィスたちは世界を震撼させる前人未踏のグルーヴを雄々しく提示することができたのだ。ドラムがロックンロールに必須なわけじゃない。そんな基本を改めて思い起こさせてくれる痛快な試みでもあります。

ちなみに。ジョン・ハイアットはインディアナ生まれだけれど、1974年にデビューしたころはナッシュヴィルに居を構え、ソングライターとして現地の音楽出版社にあれこれ曲を売り込んでいたらしい。そのときのアパートメントが、まさにRCAスタジオBのご近所だったようで。そういう意味でもルーツ帰りの1枚。そう思うと、『レフトオーヴァー・フィーリングズ』というアルバム・タイトルがますます沁みてくる。

レフトオーヴァー・フィーリングズ…ってことは。心残り、みたいな? 「アイム・イン・アッシュヴィル」って、アルバム中盤に収められた切ない曲の歌詞に歌い込まれているフレーズなのだけれど。“旅したことのない路上/行ったことがない場所/そんなやり残した様々な思いから/君の面影がまた浮かびあがる…”とか歌っていて。年輪重ねたジョン・ハイアットの歌声が、渋く、深く、心を刺します。

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